第54話 やべぇ奴はいいました。帰るまでがミッションです

《side東堂歩》



 よくよく考えたら釜山って何処だよって思った。ただそれを言ったところでマイフレンドからの返事はない。

 何故なら既に転移させられているから。気付いた時には砂浜にいました東堂歩です。


「見た感じビーチ……の端の方か」


 ぱーっと辺りを見渡したところ、多分釜山とやらの観光地かなと。ところで釜山って中国ですか韓国ですか?  外国の都市とかそんな興味ないから分からんのですが。マイフレンドが何か言ってた気もするけど忘れた。


『〇✕△〇✕△』

『✕✕△』


 駄目ですね。耳を澄ましてみたけれど、遠くで誰かが会話しているのは聞こえた。でも何語か分からん。一般的な高校生オタク男子に韓国語や中国語の聞き分けがつく訳なかろーと。


「通信機は……なんか調子がおかしいな」


 手っ取り早く局の方に連絡を取ろうと思ったが、それも無理だった。

 空間をぶち破ったからか、それとも転移の副作用か。触ってみても反応が駄目だ。ノイズが酷い。ついでに言うなら支給品のスマホも逝ってるっぽい。

 任務中の破損とかが怖いのでマイスマホは局の方に置いとくようにしてたけど、今更ながらナイス判断だったと自画自賛したくなるわ。ソシャゲのデータが消えたら泣くぞマジで。


「どうしよっかなぁ」


 海を眺めながら溜息一つ。途方に暮れた、という訳ではないが、微妙に悩ましい感じだ。

 多分マイフレンドの様子からして、日本と釜山は近いのだろう。クッソ遠いところに転移させる訳がないからだ。……敵対していたとしてもそこは信頼できる。だってそれ明らかに喧嘩売ってるし。言い値で買うことになるかんね。

 だから近いことは間違いない。でも地理が分からんからどうしようもない。

 かと言って、誰かに話し掛けたところで言葉は通じない。文字も読めない。


「……面倒だけど仕方ないかぁ」


 結果、全部がどうでもよくなった。なんかもう考えるのもアレだよね。下手な考え休むに似たりって昔の人も言ってたし。別に休んでも良いんだけど。

 という訳で力技でゴリ押そうと思う。


「セイッ!」


 はい大ジャーンプッ。更にもう一回空中を踏みしめて大ジャーンプ。沢山じゃーんぷ。


「……地球は青かった」


 多分成層圏ギリギリぐらいなので、かつての偉人の台詞を呟いておく。実際に青くて丸いのが目視で確認できるから、単純な感想としても間違ってない。

 それはそれと日本は……あ、はい。多分だけどあそこですね。


「ぶっちゃけ途中でそんな気はしてたけどなー」


 島国だからね。海の中でポツンとあるから普通に察した。ただ後半はテンション上がってここまできた。

 それはそれとしてマジで釜山って日本に近いのな。あのビーチから真正面突っ走ればあっさり到着してたやんけ。


「マイフレンドの気使いを台無しにしてまいましたなぁ」


 結局ほぼ宇宙みたいは場所まで来ちゃったからね。ちょびっとだけ罪悪感。本当にちょびっとだけど、今度合ったら気持ち優しくしてやろうと思う。

 それはともかく。マジで日本に戻るとしましょうか。


「よっ、と!」


 大気を足場に空を翔けていく。ある程度の加速が加わったら、後は流星のような軌道を描きながら堕ちるスタイルに切り替える。

 こうゆうのゲームであるよね。FPSの有名なアレ。対人ゲーは如実に身体性能の差が出るのであんまりやってないけど。


「さて。日本上空に来たけど、ここから何処に降りようかなー?」


 ゲームだったら視界の端にマップが映ったりするのどけど、これは生憎と現実だ。人生にそんな便利な機能はない。見えるのは文明によって彩られた大地と、地平線に沈みゆく太陽のみ。そして外付けのデバイス(電子機器)は壊れてる。

 となると上空から地形を確認しながらの山勘しかない。時間と金を気にしないのなら、人里に降りて交通機関を使うのもありだけど。

 ま、とりあえずですよ。見つかったりしないよう、人気のない適当な山に着陸して、後はサクサクっと人里目指して移動を開始。


「やっぱりタクシーとか使うかねぇ? 幸いにして手持ちはあるし」


 ただ金が勿体ない気はする。なにより現在地によるけど対策局、警視庁まで時間が掛かる。

 結局、空翔けした方が色々と手っ取り早いんだよ。逐一位置確認しなきゃいけないっていうのがネックなだけで。

 手持ちの機械類が全滅してるのが本当に悔やまれる。


「どっかにスマホとか落ちてないかなぁ」


 そんな都合の良いことある訳ないと分かっているが、ついそんな益体のないことを考えてしまう。

 人間って愚かよなぁ。


『オイッ、早く脱がせ!』

『暴れんなぶっ殺されてぇかガキ!』

『オイ顔殴んなよ! せっかく綺麗な顔してんだ! そのまんまの顔の方が動画も売れる!』

『んーッ! んーッッ!!』


 ……おんやぁ? 近くからもっと愚かな奴らの声が聞こえて気がするぞぉ?

 誰かに見つかったりしないよう、感覚を研ぎ澄まさてたのだが。俺と似たように人目を避けてる奴らを逆に見つけてしまったようだ。

 現場は今俺がいるところより少し先。どうやらその辺りに廃墟があるようで、そこでお馬鹿さんたちはパーティタイムの真っ最中らしい。

 色んな意味でナイスタイミングだ。人がいるということはスマホとか諸々がある。そして相手が屑なら襲いかかってもOKということだ。

 という訳でれっつらごー。


「ほうほうほう」


 気付かれないよう気配を消して木々の間を移動する。そしてすぐに見えた。

 廃墟と山林の境界付近。ワゴン車を廃墟入口の道路側に停め、そうして生まれた死角で盛る男たちを。

 その男たちに組み伏せられ、手を縛られ、口を布で塞がれた高校生ぐらいの少女を。

 いわゆる胸糞系の薄い本的展開。というか普通に誘拐からの強姦事件である。


「はいまず上をご開帳ー!」

「オヤジくさお前!」

「AVとかこんなもんだろ!」

「んー!! んんんーッッ!!」


 少女の上着が破られ、その下着が露わになる。

 それによってテンションが上がる性犯罪者ども。そして涙と恐怖、絶望によって表情を歪ませる少女。

 ……一応はギリギリセーフ判定かな? いやアウトっちゃアウトなんだけど、致命的な状況にはなってないし。


「ほら次は下だよ! ほれ押さえろ!」

「馬鹿野郎! まず上を全部脱がせ!」

「最終的に素っ裸にすんだから変わんねぇよ馬鹿!」

「ムグッ……!?」


 お前ら全員馬鹿でファイナルアンサーなんだよなぁ。

 ……流石にこれ以上は見てても時間の無駄なので介入しよっか。これ以降だと男どもの汚物を見る羽目になりそうだ。


「すいませーん! そこの人たち、スマホ持ってませんかぁ!」

「「「「ッ!?」」」」


 最初はできる限りフレンドリーにね。いきなり喧嘩腰ってのはコミュニケーション能力が低い判定喰らっちゃうから。

 ……何でそんな幽霊見たみたいな反応するの?


「ふざけんなよ! 何でこんな廃墟に人がいんだよ!」

「廃墟探索してたんですよー。そしたらスマホ壊れちゃって。よろしければ貸していただけないかなってー」


 本当のことは色々な意味で言えないからね。とりあえずそれっぽい理由をでっちあげまして。


「チッ! オイ、やれ」

「クソがッ。面倒増やしてんじゃねぇよカスがよ」

「見られちまったんだからしゃーねーだろ。」


 テメェらの方がカスだろ。……おっと。危うく本音が。フレンドリーは大事よ。

 ほらスマイルスマイル。そちらもスマイル……駄目だなぁ。こっちはすっごい友好的に振舞ってるのに、男たちは揃って怖い顔。

 しかも二人があからさまに指を鳴らして近づいてきたではあーりませんか。


「あのー、何でそんな剣呑な雰囲気なんですかー? 僕なにかやっちゃいましたー?」

「はぁ? お前マジでさっきから何なの? 状況見えてねぇの?」

「廃墟探索なんて気色悪い趣味してる奴だ。頭も同じように沸いてんだろうよ」


 強姦途中の奴らが凄い鋭利なブーメラン投げてるんだけど。

 てか、いきなり喧嘩腰はコミュニケーション能力が低い判定ですよぉ? ……何かこのテンション怠くなってきたからもういいや。


「状況分かってないのはそっちだと思うのですが」

「あぁ? 妙な口聞いてんじゃ──」

「犯罪現場目の前にして、こんな気色悪い喋り方続けてる奴は大抵アウトな輩に決まってんだろバーカ」


 罵倒と同時に距離を詰め、片方の男の足を払う。気持ち強めにね?


「あ?」


 そしたらあらビックリ。衝撃に耐えきれなくて両足が直角横向きに折れ曲がってしまったではないか!


「ちょっと脆くない? カルシウム足りてないんじゃない?」

「……あ、ぁぁぁぁっ!? いぎゃっぁぁ……!!」


 地面に転がってから、ようやく痛みがやってきたのか。犯罪者Aが凄まじい絶叫を上げた。


「ヒロシ!?」

「このクソ野郎! 仲間になんてことしやがる!?」


 そして仲間の絶叫によって犯罪者BとCが色めき立った。なんかこういうのって、ゲームの敵MOBとかのリンク機能思い出すよね。


「なんてことしやがるって……そりゃ普通に強盗?」

「んだと!?」

「いやほら最初に言ったじゃん。スマホ壊れたって。ちょうど困ってたら、襲っても大丈夫そうな犯罪者たち見かけたから。それだけ。ほいほい」

「なっ……」


 男たち、何故か絶句。何でだよ。お前たちだって性欲に従ってその女の子攫ってきたんでしょ? 似たようなもんだって。……あ、絶句の理由違う?


「もしかしてコイツの両足、丹念に踏み砕いてるのにドン引きしてたりする? これはアレだよ……テンション?」

「……は?」

「おっとスマン間違えた。ずっと叫んでてうるさいじゃん? だからこうやって痛み与えて気絶させようってだけだよー」


 実際、犯罪者Aはもう口から泡吹いて気絶してるからね。そういうことにしておこうよ。意識落とす代償で、一生車椅子生活は明らかに釣り合ってないけど。


「まあメンゴメンゴ。強姦なんかしようとしたお前らの自業自得ってことでね。後遺症残るレベルでしばかれるのは納得してくれや」


 お前らみたいな犯罪者、五体満足でいたところで害あるだけだからね。そういう意味だとコレ事前事業では?


「テメェ……!! 絶対ぶっ殺してやる!!」

「ほぉ? 意外と勇ましいじゃん犯罪者B」


 やっぱり犯罪者やるだけあって度胸がある……いや普通に考え足らずなだけか。

 マトモな感性してたら挑んでこねぇよ。一応ナイフ取り出して武装してるけど、それでも逃げ一択の狂人ムーブかましてるはずだもん俺。

 そういう意味では犯罪者Cの方が要注意だな。ずっと俺がガン見してるから動いてないけど、隙をみせた途端に逃げ出しそうな気配を感じる。

 あの様子からしてアイツが頭っぽいな。さっきも命令出してたし。


「死ねぇぇ!!」

「ほい」


 それはそれとして犯罪者Bね。Cから視線を外さないようにしながらちゃちゃっと処理しよう。

 突っ込んできたBの腕を取って、関節外して骨折って。もう片方も同じ感じで、後は背中の方で両腕使って固結び。最後に金的で玉潰して気絶させ、あとは地面に転がしてはい終わり。


「んー、やっぱりただの人間は身体が硬いねぇ。ゴ〇人間見習えよなぁ。……さあ、お待たせ犯罪者C。楽しみに待っててくれたかな?」

「くっ、来るな! 来るなよぉ!!」


 まだ何もしてないのにCが半狂乱になってたら。何でだろうね? そんなに仲間の身体壊しながらガン見されたのが堪えたのかしら?


「そう心配すんなって。俺の目的は何だった?」

「っ、スマホか!? 分かった、やる! 必要だったら金だって払う! だから見逃してくれ!」

「おーけーおーけー。話の早い奴は好きだよ。じゃあスマホ出して。見逃してやるからさ」

「わ、分かった! ほらスマホだ!」


 必死な表情でスマホを献上してくるCにニッコリ。


「ロックは?」

「し、指紋だ!」

「面倒だからロック系全解除してちょ」

「やる! やるからちょっと待ってくれ!」


 そうして簡単に開けるようになったスマホが僕の手に。コレで自分で移動できるぞ☆


「はい確かに。約束通り見逃してやる」

「ほ、本当か!? 本当に助けてくれるんだな!?」

「うん嘘」

「へ……ぎぃっ!?」


 言葉と同時にCの頭を掴み、アイアンクローで締め上げる。


「ァァァッ!? な、何でだよ!? イギッ、み、見逃してくれるって言ったじゃねぇかぁぁ!?」

「いや別に初対面かつ犯罪者との約束とか守る価値なくない?」


 何わけわからんこと言ってんだコイツ。気持ち悪っ。


「ふ、ふざけ、ぁぁぁ!?」

「ふざけんなって言われても……。ほらアレだよ。お前だけ何もしないってのも、先にやられたお仲間に悪いじゃん?」

「そ、そん、ぎぃぁぁぁぁ!?」


 はいコレで両耳ポイね。ついでにうるさいから地獄突きで黙らせてと。


「ごっ……!?」

「まあお約束の台詞を言うとさ。お前、てかお前らだけど、見逃してや助けてって台詞を被害者に言われて、見逃してやったのかってね?」


 コレが初犯だったりしたら、申し訳ないが運が悪かったってことでね。


「そんじゃバイバイ。これからの人生は色んな意味で大変だろうけど、お仲間との活躍を心よりお祈り申し上げます。敬具」


 最後に両眼引っこ抜いて終了です。


「さーて。それじゃあ攫われちゃった幸薄子ちゃんは……いつの間にか気絶してらぁ……」


 何でだよ。俺一応はキミのこと助けてる側なんだけど。よくみたら失禁までしてんじゃねえか。


「……まあ仕方ないか」


 気絶してる相手をわざわざ起こすのもアレだからね。

 無視してやること済ましちゃいましょう。


「まずは現在地の確認して、と」


 次は警察。山だけど電波が届いてるのは助かった。廃墟とはいえ建物が建てられた場所だけある。


『はい──』

「廃墟で女の子が強姦されそうになってた場面に出くわしたので、犯人グループ全員シバキ倒しました。女の子はギリギリのところで助けましたが、ショックで気絶中。犯人の男たち三人は……まあ死なない程度に重傷なので救急車もおねしゃーす。一人は出血してるんで早くこないと危ないかも?」

『場所は何処だか分かりますか!?』

「場所は──」


 マップで確認した地名やらを伝えて通話終了。電話口ではまだ色々言ってたけど、面倒なので無視。折り返しが掛かってこないよう電源もオフ。


「名前とか訊かれても答えられんからねぇ……」


 気絶してる女の子を一人(と動くことすらままならない重傷の犯罪者三名)で放っておく訳にもいかんので暫く待機。

 そしてサイレンの音が聞こえてきたタイミングで、空翔けを開始。


「これでやっと帰れるぞー」


 いやー、大変な一日だった。クソでかくてキモイイクリプスと戦ったり、世界的な秘密結社と戦ったり、犯罪を未然に防ぐという市民の義務を果たしたり。

 俺ってなんて働き者なんでしょう。コレぞ正に正義の味方(笑)ってね!




ーーー

帰る途中でもしっかりイベントをこなす主人公の鑑(白目)

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る