第47話 やべぇ奴と花園の乙女

《side東堂歩》



「あ! 歩さん、大丈夫でしたか!?」

「大丈夫よー」


 戦いが終わり、時音ちゃんたちと合流した。なお、ボロボロになったヒナはぶん殴って気絶させ、肩に担いで運搬している。セロも当然回収済みだ。


「何かもう本当にビックリしたんですけど東堂さん! いきなりムカデ型が吹っ飛んだり、凄い地響きがしたりで! どんな頂上決戦やってたんです!?」

「飛んできたゲイボルグを真正面から蹴り壊しただけだ」

「……え、ゲイボルグ? じゃあその子レリックホルダー!?」

「だから横文字が多いんよ……」


 意味合い的には分かるけどさ。アーティファクトとかオーバーロードでもう食傷気味なんだよ。事前説明もなしに横文字固有名詞を羅列するのはダメな奴だぞ……。

 そもそも正確にはレリックじゃなくて、アーティファクトとかいう奴らしいけど。まあ、最終的にはオリジナルと同等みたいなことヒナも言ってたし、似たようなもんか。


「で、レリックホルダーってどんぐらいヤバいの? 前にちょこっと聞いた気はするけど」

「めっちゃヤバいです! 神話のアイテムに選ばれた怪物ですよ!? 限定的とはいえ神話と同等の力を操れるんだから、そりゃもうラスボスクラスですよ!」

「各国の術者の一族、それも最上位の家系の秘宝として代々継承されていく類の代物ですからね。契約者となればその一族の切り札扱いです。Sランク戦姫ですら一蹴されかねません。冗談抜きで今回は歩さんがいて助かりました」

「キミらじゃ瞬殺だったろうからなぁ」


 普通に返り討ちにしたけど、ヒナもセロも面倒な性能してたからなぁ。俺がいなきゃどうなってたかって考えると、確かにゾッとしねぇや。神崎さんのファインプレーだなこりゃ。……いやでも、そもそも論として俺がいなきゃこの二人は捕捉できてねぇから大丈夫だったのか?


「あー、でもクソムカデ……いや、うん。過ぎたことを考えるだけ無駄か」

「どうしたんですか?」

「なんでもない。それより二人とも、通信機ついてたら一旦切ってくれる?」

「え、何でですか?」

「今からこの二人を素っ裸にするから。テロリストでも同年代の女だからな。流石に映像に残っちゃ可哀想だろ」


 オペレーターには男もいるしなぁ。わざわざ眼福映像送ってやる必要もあるまいよ。そういう気配り大事だからね。アイアムジェントルマン。……だからそんな軽蔑の視線を向けてくんじゃねぇよ二人とも。


「いくら相手が犯罪者でも、東堂さん最低です」

「……私が誘っても全然取り合ってくれない癖に」

「おいコラ変な勘違いすんじゃねぇよ脳内ピンクども。わざわざキミらの前で変態行為に突入するとか剛の者すぎんだろうが。むしろそういう誤解を招かない為にここでひん剥くんだぞ」


 その気があったら合流する前に済ましとるわい。いや絶対にやんねぇけど。


「じゃあ何でですか?」

「コイツらが何装備してるか分かんねぇだろうが。ただでさえレリック擬きだったり、イクリプス召喚したりとかする奴らだぞ。服の下に爆弾仕込んでても不思議じゃねぇだろ」


 連行中にドカンとかキミらだって御免だろうよ。


「それなら私たちがやりますよ! 東堂さんがやる必要ないでしょう!? ほらあっち行って!」

「似たような理由で却下だ。何持ってるか不明なんだから脅威度は高いまんまだろうが。俺が離れてる隙にコイツらが目を覚ましたら、下手したらキミらが死ぬぞ」


 特にセロが不味いんだよ。ヒナいわく吸血鬼っぽい能力は時前らしいし、能力的にこの二人には危なっかしくて任せてらんねぇ。勝ち負けはともかく、逃げに徹せられたらと考えると駄目だ。


「いいからさっさとやんぞ。時音ちゃんは大きめの布とか作れたら作っといて。できないのなら悪いんだけど、俺たちの上着破くから。そうすりゃ局部ぐらいは隠せるだろ」

「あ、イケますよ。でも歩さんのことだから、てっきり全裸のまま運ぶのかとばかり」

「キミはマジで俺のことなんだと思ってるの? それはもうただの辱めだろうが」


 コイツらの服は不穏すぎるから使えないけど、それ以外だったら全然構わないからね? というか、全裸の女子二人を運搬するのは絵面が犯罪者すぎてこっちが嫌だわ。


「で、布の準備できた?」

「はい。バッチリです」

「通信機は?」

「消しました」

「私もです」

「あいよー」


 諸々の準備が完了したのを確認し、寝てる二人の服を剥ぎにかかる。まだアーティファクトを持ってるであろうセロからかな。


「……うわぁ。分かっていても絵面が犯罪的すぎる。てか、容赦なく服破りますね東堂さん」

「いちいち丁寧に脱がしてられっかよ。面倒すぎるわ。はいこれ持ってて。そのベルトの奴のどれかがブツだろうから注意しろよ」

「あ、はい。多分この本ですね。凄い力を感じます」

「さよけ」


 ひん剥いた端からポイポイ木崎さんにパス。コレであとは下着だけか。


「……意外と可愛らしい奴付けてんなコイツ」


 ピンクの揃いの下着かよ。印象的にセクシー系か、グレーとかのズボラ系かとばかり。


「……なにマジマジと観察してるんですか東堂さん」

「え、オレ系女子の下着がコレとか普通に驚かない?」

「デリカシー! てかやっぱり下心あるじゃないですか!?」

「いやまぁ、客観的に眼福だとは思うがな。公私は分けるタイプだし俺」


 一人の男としては、そりゃ思うところもあるけれども。この二人も戦姫の同類なのかめっちゃ可愛いし。そりゃ下着姿も凄い光景だとは思いますけどねー? 今は真面目な警戒モードなんでそういう感情はあんまりないです。

 といいつつ下着もビリッとな。コレですっぽんぽんのセロちゃんできあがり。


「時音ちゃん布」

「あ、はい」


 布を受け取り……被せるだけだとアレだし簀巻きにしとくか。


「追加で悪いんだけど紐とか出せる?」

「はいどうぞ」

「センキュ」


 じゃあグルグルグルっと。はい簀巻き完成。


「なぁ木崎さん。これ見て下心ありと言えるか?」

「無情すぎて逆にドン引きです」

「馬鹿タレ。コレは紳士的と言うんだよ」


 好色の視線ゼロ。ついでに他の男に裸を見せないという配慮も完璧。正真正銘のジェントルマンだろうが。


「次ヒナいくぞ。こっちは一応メインぽい武器は砕いたから、多分何も出ないとは思うが……」


 そう補足しつつ服を剥ぎ取る。


「っ……」

「これは……」


 ヒナの肌が露出してきたあたりで、二人が息を呑んだ。木崎さんに至っては真っ青になっている。あんまりグロ耐性はない感じかな。

 というのも、ヒナの全身があまりに酷かったからだ。下着姿になったヒナは、セロと違って色気よりも痛々しさの方が先にきた。

 全身に広がる鬱血などの打撲痕、裂傷、肉体の抉れ。これは主に俺がつけた傷だろうが、それすらまだマシに思える。この黒く焼け爛れた四肢に比べれば、遥かに大人しい傷だ。


「よくもまぁこの状況で戦ったもんだ」

「東堂さん、これは……?」

「自爆覚悟で分不相応な力に手を出した結果だよ。こりゃあんまり悠長にゃできんな」


 急いで下着を剥いで簀巻きに変える。

 ヒナの命が燃え尽きる前に魔槍を砕いたとはいえ、それでも想像以上に身を削っていたらしい。現状ではダメージ以上の変化は身体に見られないが、あきらかにこの四肢の傷は尋常の物ではない。次の瞬間にどうなるかすら分からないのだから、一刻の猶予もないと考えるべきだろう。


「これ局の方で治せるか?」

「分かりません。でもあそこの医療設備と職員は神秘由来の怪我にも対応可能です。一番可能性があるのは対策局でしょう」

「OK。ならこのまま俺が運ぼう。多分そっちの方が早い。二人はそのアーティファクトを持ってあとで……いや、やっぱり敵陣営からの追撃が怖いな。その本も俺が持っていく」

「──その必要はないよ」

「あん?」


 自然と聞こえてきた声。警戒をしていたのにも拘わらず、その声は聞こえてきた。

 そして、

 そこにいたのは漆黒のローブを羽織った少女。白髪金眼の乙女。まるで初めからここにいたかのように、その少女は立っていた。


──ひと目で分かった。コイツは人間じゃない。もちろんイクリプスでもない。ファンタジーでは人間そっくりの敵性存在は王道だが、間違いなくコイツはそうではない。そんな生易しいモノじゃない。もっと違う。もっとヤバいナニカだ。


 認識すると同時で駆け出す。情けも加減もない。確殺の決意で掛からなければコイツは不味い!!

 だが残念なことに、こちらの感知すらすり抜けて忍び寄っていたナニカの方が一手早かった。


「睨め【アイギス】」


 ナニカの言葉とともに現れた盾。アイギスの名、無数の蛇を髪とするギリシャ神話に名高き怪物の彫刻。そこから導き出される答えは……!


「石化のレリックか!!」


 英雄ペルセウスによって、戦女神アテナに献上されたとされるメデューサの首。それがはめ込まれたのが女神の盾アイギス。怪物の邪視は首だけとなってなお健在であり、故にアイギスには敵を石に変える呪いを宿す。

 なにより問題なのは、その呪いが視線によって効果が発揮されるということ……!!


「っ……!!」


 破壊は間に合わない。迎撃の一手を打つよりも前に、盾に彫られた怪物の瞼が開く。

 加速する意識の中で、ソレを見た。怪物の瞳から禍々しき光が放射され、大地が、木々が、宙に舞う木の葉すらも石へと変わっていく光景が。


──そして、世界が石化する。

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