第46話やべぇ奴+戦姫VS悪の魔法少女たち その四
《side東堂歩》
黒い稲妻。自滅覚悟で英雄の領域に立ったヒナを、一言で表現するとこれに尽きる。
同僚の戦姫で雷使いであるアクダマ。彼女の【閃電疾駆】が亜音速に近いとすれば、ヒナのそれは正真正銘の音速。それも直線加速ではなく、この遮蔽物の多い山の中を自由自在に駆け抜けている。
絶大な力を得る代わりに、ヒナ自身の肉体を焼く黒き雷。呪いの光によって描かれる邪悪な軌跡は、禍々しくもどこか美しい。──鑑賞する分には楽しめる光景だ。
「ハァァッ!!」
「フンッ!」
ギィィィッ!! っと、硬質な音を響かせながらヒナの魔槍とこちらの拳が交差する。
超高速での死角への移動と、英雄の技量によって放たれた渾身の一突き。並の者ならば、それこそ俺の知る戦姫ならば反応する前に絶命していたであろう一撃だった。
「これすら防ぐか……!!」
「速さが違ぇんだよ!」
だが甘い。その程度で俺に一撃を加えられるなど、思い上がりも甚だしい。こちとら元々音速で移動できるんじゃい! そんな趣味の悪いペンライトみたいなもん引っ付けて、不意を突けるなんて思うなよ!!
「ほら後ろだァ!!」
当て付けの意味を込めてヒナの背後に回る。そしてガラ空きの背中に一撃。
スピードだけでなく肉体の耐久性も上がっているようで、多少強めに殴ってもミンチになることなく地面を跳ねた。
「アガッ……!?」
「これで終わりじゃねぇぞ」
「ガフッ……!」
ヒナが立ち上がるよりも速く追撃。拳を腹に叩き込み、腕を掴んで木に叩きつけ、木を薙ぎ倒す勢いで振り回し、大地でもって擦りおろす。
「ッ、ァァァ!! 爆ぜろ、ゲイ──」
「させねぇよ」
「ガッ……!?」
苦し紛れの抵抗も、顔面に回し蹴りを叩き込むことで黙らせる。ついでにオマケとして蹴りを土手っ腹に一発。
「カヒュッ……」
「ふん。さっきよりは強くなったが、それだけだな。厄介そうだと身構えたが杞憂だった。むしろ飴細工を扱うような緊張感がなくなった分、こっちの方が楽な気もする」
ズタボロで転がるヒナを眺めながら思う。さっきよりも遥かにやりやすい。
面倒なアイテムを装備していても、今までのヒナは強さも丈夫も人の域を出ていなかった。だから下手に殺さないよう、威力を抑えたジャブぐらいしか放てなかった訳だ。
だが今は違う。神話の英雄に並ぶ強さを得たヒナは、それに相応しい頑強さを手に入れている。無駄に頑丈になった分、気兼ねなく攻撃を与えることができる。
「……ぁ、ガッ……ァァ……!!」
「で、誰を殺すって? こっちは蝶よ花よと手加減してやってたんだが。それでも手も足も出なかった奴が、無理矢理履いた下駄でよくもまぁそんな戯言を吐けたもんだ」
魔槍を杖とすることでなんとか立ち上がったヒナに呆れる。一連の攻撃は相当堪えたようで、立ち上がった足は産まれたての子鹿のように震えている。
更には肉の焼ける匂いまで漂ってきた。自爆特攻による反動、身に余る力に手を出した代償もまたヒナの身体を蝕んでいるのだろう。
弱々しい。そして無様だ。命懸けの悪足掻きがここまで無駄だと、逆にこっちが悲しくなってくる。
「……なん、で…………! このち、……から……は、クー……フーリンにも届く、のに……!!」
「だったらクー・フーリンもその程度ってことだろうよ」
「……化け、物……!!」
「自分より上な奴がいたら化け物って罵るのかい。酷いねぇ。ちゃんとそういうのは認めるべきだぞ?」
上には上がいる。現実なんてそんなもんだろうよ。
「潔く降参しておけば、そんな無様を晒すこともなかったろうに」
「無様、なんて、関係……あるか!! アンタみたいな、危険人物、見過ごすことなど、できるもんか!! ……逃げることすらできないのなら、万に一つの可能性にこの命を賭けるんだよ!! 何がなんでも殺すんだ!!!!」
「ボコしはしたが、お前からそこまでヘイト買うような記憶はねぇんだがなぁ!?」
ヒナの決死の叫びに思わずツッコ厶。それと同時に気付く。アイツ、次第に途切れ途切れ言葉ではなくなった。まさかもう回復したのか。
「──おい、止めとけ。お前本当に死ぬぞ」
いや違う。ヒナの様子が明らかに変だ。怪我が消えているのをみるに、回復はしているのだろう。英雄の性能をトレースしているというのなら、それぐらいできてもおかしくはない。
だが、それと同時に黒い雷が勢いを増しているのはいただけない。あの雷は十中八九身に余る力に手を伸ばした代償。それがより激しくなっているということは、つまりはそういうことなのだろう。
「チッ!」
舌打ちとともに一瞬で距離を詰める。
あんな台詞を吐いたのだ。妙な覚悟がガンギマってるに違いない。言葉で説得など時間の無駄。速やかな実力行使で終わらせる。
ボッコボコにしようが、生け捕りという目的は変わってないのだ。本当に命を燃やされたら強さ以前にこっちが困る。
「ラァッ!!」
「ッグギャ……だから、どうしたぁ!!」
「だぁぁ!! 生け捕りのオーダー面倒くせぇ!?」
コイツ、さっきより頑丈になってやがる! そういや戦闘続行なんてスキル持ってるぐらいにはしぶとかったなクー・フーリン!! しぶとさもトレース済みか!!
こうなってくると頑丈さが恨めしいぞこんちくしょう!! 戦いやすくはなったが、無力化するハードルは上がってやがる!
「しょうがねぇか……!!」
予定変更。ヒナの無力化は即座には難しい。具合の良い威力を探してる内に手遅れになりかねん!
だから原因である魔槍の方を直接壊す! 物騒な逸話が満載の槍だし、マトモに向き合いたくはなかったが仕方ねぇ!!
「この一撃に、全てを賭ける……!!」
「そういうのは王道主人公がやるもんなんだよテロリスト!」
相手は神話の魔槍そのもの。生半可な攻撃ではちいとばかり心許ない。
だから創造する。今この場で、
無敵超人と呼ばれた達人の秘技を! 海のコックの灼熱の一撃を! 天の道を往き、総てを司る男の蹴りを! この世界に再現し統合する!!
「必中必殺! 穿て、ゲイボルグ・オーバーロード!!」
「【作中統合・孤塁ディアブロカブト】!!」
激突。神話の魔槍と輝く蹴りがせめぎ合う。衝撃によって木々が吹き飛び、大地が砕け鳴動する。
「無駄よ!! この一撃は神話の呪い! 必ず敵を穿ち殺すという【概念】の宿った一撃! ただの蹴りで勝てるとでも!?」
「神話がどうした! そんなの古いだけで人間が作った物語には変わらねぇ!
逸話も由来も元を辿ればただの空想の設定、お約束だ! それが力を持つというのなら、世界が認めて力を与えたというのなら!! この時代の
無敵超人は語った! 相手が最も防御を固めているがために、意識から抜け落ちている場所をぶち抜けば勝てると! ──故に、この蹴りは砕かれぬと慢心している魔槍を砕く!!
海のコックは誓った! 俺は女を絶対に傷付けないと! ──故に、この蹴りは魔槍を砕いてもヒナは殺さない。傷付けない!!
天の道を往き、全てを司る男は体現した! 連綿と受け継がれてきたヒーローのシンボルを、勝利の代名詞として語られるそれの伝説を次へと繋げた! ──故に、この蹴りは必勝が約束されている!!
「黴臭い概念なんざでお高くとまるな! こっちは最新式なんだよ!!」
──バキッと、神話の魔槍から亀裂の入る音が響く。凄まじい轟音が止まぬ中でも、どういう訳かその音だけは鮮明に響いてみせる。
「嘘ッ、何で!?」
「教えてやんよ! 日本にはもう一つお約束みたいなのがあってな。死槍の
そして砕ける。必中必殺の呪いの突きも、神話の魔槍も。輝く蹴りによって粉砕される。
それは昔の空想に、現代の空想が打ち克ったという証明。もしもを夢想し、我武者羅に未来へと進む度し難い人類という種族の体現。
「古典作品に浪漫があるのを認めるがよ。それに頼りっきりの奴に先はねぇ。クー・フーリンの逸話を取り込もうが、てめぇはてめぇだ。それを履き違えたらこうなるさ」
「……っ、こ、の」
ドサリとヒナが膝を着く。戦意も消えた。武器である魔槍を砕かれ、命も燃やしていたが為に、抵抗するという気力も最早湧かないのだろう。
「ゲームセットだ、テロリスト。第三ラウンドは許さねぇぞ」
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