第44話 やべぇ奴+戦姫VS悪の魔法少女たち その二

《side東堂歩》


 木々をなぎ倒して現れたのは、超大型のイクリプス。全長三十メートルはあろうサイズ。シルエットは頭のない大ムカデ。だが──


「ムカデ型!? こんな大物がなんだって突然!?」

「クッソキモイんですけどー!?」


 白いゴム質の百足ってだけでアウトな人もいるだろうが、コイツは全人類のSAN値を削りにきている。なんで百足特有のボディの関節全てに口があるんだよ!? それも決まった位置にあるとかじゃなく、左右上下の何処かにあるとかいう不規則で不安定な感じだし! 相変わらず生物として安定してないナマモノだなマジで!!


「何コイツ!? 何だっけコイツ!?」

「Aランクのイクリプスですよ!! それも限りなくSに近い超大物! 日本じゃ滅多に出現しないレベルなのに、何でこのタイミングで……!!」

「そんなん状況的に明らかだろうが!」


 何かをやったセロ。それとほぼ同タイミングで現れたクソムカデ。なにより向こうの二人を守るように割って入り、こちらにのみ敵意を向けている事実が全てを物語っている。


「ある種の定番だし、登場のタイミング的にもしかしたらとは思ってたがな! コイツらイクリプスを召喚するぞ!」

「そんな!? 一体どうやって!?」

「知るか! ついでに言うと確証もねぇ! だが疑惑だけで十分だろうが!!」

『東堂君! 全てキミに任せるわ! だから何がなんでもその二人を生きて確保! 応援も至急向かわせるからお願い!』

「面倒なっ、だが了解!!」


 イクリプスの召喚する敵対者。どう考えても最重要案件であり、それは神崎さんの全権委任の指示からも伺える。

 お墨付きはもらった。ならばもう加減は必要ない。イクリプスを呼び出せる力を持つ奴らは人類の脅威だ。逃がす訳にはいかない。──なによりあの二人は、おそらくここ最近の修羅場を生み出した原因! 青春中の若人をクッソ忙しい状況に叩き込んだ落とし前は、絶対に取らしてみせる!!

 まずは状況把握。敵対者二名に大型イクリプスが一。対してこちらの戦力は、イクリプスに決定打を持たない俺と、Bランク戦姫の木崎さんと、新人戦姫の時音ちゃん。片や戦闘上等なバリバリの犯罪者、片やイクリプス専門でガチの対人戦は怪しい二人組! ついで言うとその専門のイクリプスは遥か格上ときた!


「【作中再現・呼吸投げ】!! 逃がすかボケェ!」

「んきゃ!?」

「ぐわっ!?」


 ムカデの影に隠れ逃走しようとしている犯罪コンビには呼吸投げ、殺気を利用した強制受け身で地面に叩きつけることで妨害。その間にも脳をフル回転させ状況を組み立てる。


「方針決定! 二人はあのクソムカデを頼む! その間に俺が奴らを仕留める!」

「でも東堂さん、私たちじゃムカデ型には勝てませんよ!?」

「それでも対人戦の方が無理だろキミら! 勝つ必要はない。むしろ攻めるな! キャンプ側に行ったりしないよう足止め重視で立ち回れ。二人を仕留めたら俺もいく。そこまで持ち堪えろ!」

「信じますよ歩さん!」

「応とも! ひとまずムカデをかっ飛ばすぞ!」


 指示出し終了と同時に駆ける。いやはや。見習いのお守りばっかしてたせいで、こういう指示みたい奴まで上達したのは不幸中の幸いかねぇ。


「キッ、シャァァァ!!」


 一直線に突っ込んだからだろう。クソムカデのヘイトがこっちに集中。そして数多ある口の一つから眩い光が漏れる。


「ブレス!? 避けて東堂さん!!」


 同じAランクのイクリプスでありながら、人型ナマモノのそれとは比べにならない太く力強い光線。俺など容易く呑み込む破壊の光。


「しゃらくせぇ!!」

「キシャァ!!?」

「うっそぉ!?」


 だが温い! ビームなど拳で弾いてナンボ。エネルギー攻撃だろうが関係ねぇ。実体なんてなくてもそれ以上の拳圧を叩きつければかき消せるんだよ!!

 予想外だったのだろう。クソムカデの動きが一瞬止まる。相変わらず反応だけは生物くさいが、今はそれが好都合。


「ラァ!」

「キシャァー!?」


 無数に蠢く足の一つを掴み、そのまま一気にぶん投げる!!

 クソムカデが放物線を描いて飛んでいく。場所はうちのキャンプ地と真反対。


「今だ行ってこい!」

「無茶苦茶すぎるこの人……!!」

「相変わらず人間離れしてますねぇ!待ってますよ歩さん!」

「何度も言うがいらん欲出すなよ!」


 クソムカデを追って二人が駆けていく。相手は彼女たちより遥かに格上。不安がないと言えば嘘になるが、彼女たちも戦姫なのだ。信じるぐらいはしてやるべきか。

 今やるべきは一つ。


「待たせたなお二人さんよ。同僚が心配なんでな。ここ最近の騒動の恨みもある。悪いがおふざけ無しで速攻で叩き潰すぞ」


 向こうで何かが起きるその前に、この二人をふんじばって彼女たちのところに駆け付けることだ。


「この化け物め……!! よく分からん攻撃延々と仕掛けてきやがって!! ヒナ、コイツは多分お母様の同類だぞ!」

「分かってる! 逃げられない以上は本気でいくわよセロ!!」


 まるで強敵に挑む主人公のように、セロとヒナが決意のこもった瞳で睨みつけてくる。


「──速攻で潰すと言っただろ」

「「っ!?」」


 だがそんなことは関係ない。睨み合いに付き合ってやる義理もない。反応できない速度で距離を詰め一瞬で仕留める。やるべきことはそれだけだ。

 まず狙うはセロ。コイツがイクリプスを召喚した可能性が高い以上、後回しにはできない。生け捕りのオーダーもあるし、右肩から先がもげているコイツはさっさと気絶させて、傷口を焼くなりして止血しなければ。

 無防備セロの顎めがけ、超高速のジャブ。まずこれでひと──


「あん?」

「ぶねぇ!?」


 正確にセロの顎を捉えるはずだった拳は、まるで霞を殴ったかのように空を切る……いや、違うな。比喩じゃねぇ。コイツ、マジで一瞬だけ


「吸血鬼か何かテメェ!?」

「知らねぇなぁ!!」


 追加で拳を放つも、やはり霧となって逃れられた。しかもそれだけじゃねぇ。霧から戻ったタイミングで腕も生えてやがる! 霧化に超回復、復元と言っていいレベルの不死性。日中で活動しているし、本物かどうかまでは不明。だが間違いなくコイツは吸血鬼に準ずる能力持ち!


「チッ、厄介な」


 確認の為の通常攻撃もスカッた。イクリプスとは違ったタイプの物理無効。でもこのタイプならなぁ……!


「スモやんの天敵はなんだか知ってっか!?」

「掴まっ!?」


 ただのロギアが脅威なのは新世界に入る前までなんだよ!! 霧化しようが実体ごと掴んじまえば関係ねぇ。そして意識を奪っちまえば、復元とて難しかろうよ!!


「さぁおネンネの時間──」

「させるかぁ!!」

「んだその槍!?」


 今度こそ脳を揺らしてやると拳を構えたタイミングで、惜しいことにヒナの方から援護が入った。

 身体を固めて無視しようかとも思ったが、ヒナがいつの間にか装備していたやけに禍々しい槍に気付き、流石に攻撃を中断し回避。


「貫け。【ゲイボルグ・レプリカ】!!」

「エグい武器持ち出してんじゃねぇよ!?」


 そして唱えられた槍の名と、穂先が三十の鋭い棘に分裂し殺到してきたことで全力で距離を取った。

 ゲイボルグ。ケルト神話に登場する英雄クー・フーリンの使った槍。昨今では必中必殺の槍としてソシャゲなどでドンドン知名度が上がっているが、元ネタの方では更にえげつない逸話がてんこ盛りの神話武装。


「ちょくちょく聞いてた聖遺物レリックって奴か……? にしては妙な形容詞が付いてたが」


 レリック。いわく神話由来のビックリアイテム。逸話通りの性能を備えているのかは知らんが、現実に出てくればロクでもないことは確かな代物。

 ヒナの持つ槍は恐らくその模造品。オリジナル程の性能はないとは思うが……。そもそも神話の代物だしなぁ。ダウングレードしてるとしても油断はできない。能力の一つか二つでも完全再現されていたら、その時点で対人戦では無類の強さを発揮するのだから。


「なんつーかなぁ……」


 イクリプスを召喚でき、伝承そのままの能力を備えている吸血鬼らしき少女、セロ。

 神話の槍の模造品を持つ少女、ヒナ。

 正直言って勝てはする。不確定要素も多いが、それでも問題無いと断言できるぐらいの脅威度。さっさと仕留め、時音ちゃんたちの援護に向かうのは変わらない。

 だが、それはそれとして。


「随分と厄介な奴らが敵として出てきたなオイ」


 そう零したくなる程度には、この二人を寄越したであろう勢力は面倒くさそうだ。






 ーーーー

 あとがき


 前回いくつか似たようなコメントをいただいたので、補足説明をば。


 戦姫たちが能天気すぎるという点ですが、大前提として彼女たちは『対イクリプス戦』の専門家であって、『対人戦』は完全に専門外です。単純な修練という意味で戦姫同士の模擬戦はしてますが、ガチの人間同士の殺し合いは基本的に想定されていません。魔法とか使える犯罪者とかいても、大抵の術者はスナイパーライフルを筆頭とした現代兵器で始末できるので。作中のような非常時でもなければ、戦姫に対人戦のお鉢が回ってくること自体が皆無なのです。

 消防士が戦場に出て軍人と同じように行動できるかと言われると、って例えると分かりやすいでしょうか。……なお、これはあくまで戦姫だけで、普通の職員たちは自衛隊や警察上がりだったりするので、割とそういう心構えはできてます。戦姫の方も個人の資質次第な部分もある。

 そうした前提をふまえた上で、前回時点での三人の意識を説明すると。


 夏鈴:イクリプスは意思疎通もできない完全敵対生物なので戦えるが、本質的には善良な一般人寄りの思考をしているので、マジの対人戦には忌避感を抱くタイプ。作中時では殺し合いかもとなって内心ちょっとパニックになってた。


 時音:殺し合い自体はまあ、気は進まないけど必要とあればやるっきゃないかなと考えている。ただ前回時には、真横にバグキャラがいたせいで若干気を抜いてた。割と呑気にツッコミしてたのはその為。←ぶっちゃけ一番の大罪人。


 歩:敵対者に慈悲はない。元は一般人の癖して安定のクレイジーサイコ野郎。ただそれはそれとして、バクった察知能力があるため回避能力は高いし、服などの問題もある為に煽るなどの目的がなければ普通に危険は回避する派。あと、ここのところ見習い(主に年下)のお守りばっかりしてたので、思考がわりと防御寄りというか、過保護寄りになっている。介護スキルも大幅アップしている。


 ちなみにですが、夏鈴は平和ボケキャラとして出していたので、皆様のコメントに作者は内心でガッツポーズをしてたりします。その反応を待っていたのです。

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