第43話やべぇ奴+戦姫VS悪の魔法少女たち その一

《side東堂歩》


「回り込まれた!? いつの間に……!?」

「今さっき」

「ふざけんなどんだけ距離あると思ってんだ!?」

「日本のお約束にはこういう言葉があるんだよ。『魔王からは逃げられない』ってな」


 全力ダッシュを決めてた怪しい二人組の前に、ヒラリと華麗に着地。何か騒いでるけど、おっそいお前らが悪いんよ。逃げるんならせめて音速で走りんしゃい。


「チッ! 姿隠しも効かねぇ上でコレか!! お前一体何者だ!?」

「正義の使者だお」


 今さっき魔王とか言っておいてアレだけど。ついでに言うとめっちゃ偶然なんだけどね。コイツら見つけたのって。

 うちのところの恋する乙女+外野からのノイズをシャットダウンするために、世界を感じとって落ち着こうとしたのが功を奏した。何か妙な感覚があったので、そこに意識を集中したところあらビックリ。違和感が人型をとっているではありませんか。緑一色の中に、絶妙に違う緑色がある感じっていうと分かりやすいかね? 隠れてはいるんだけど、一度でも気付くと凄い気になるあの感じよ。

 で、こんな状況ですし。コソコソ隠れてる怪しい奴らだし、敵ってことでOKしょ! と威嚇の意味もこめて服を掠る形で石をぶん投げたら案の定。ダッシュで逃げたから、俺が先行する形でとっ捕まえにきたんですよ。


「いや、でもビックリしたんだな。拙者にこんな可愛いストーカーたちがいたなんて。サイン必要でござるか?」

「キモイ喋り方しやがって!! 馬鹿にしてんのかテメェ……!!」

「あ? 馬鹿にしてるに決まってんだろ。馬鹿にでもしなきゃやってらんねぇんだよ。何が目的かは知らねぇけど、こんなクッソ忙しい状況でコソコソしやがって。余計な仕事増やしてんじゃねぇよクソが」


 どう考えても敵なんだから挑発ぐらいさせろってんだ。日本中をあっちこっち飛ばされまくってストレス溜まってんだよ。敵使ってストレス発散したって罰当たんないだろうさ。


「で、結局オタクら何なん? 何で俺たちのこと監視してた? まさか、この後に及んでただのジャーナリストだなんて言わねぇよな?」


 なんだったら、そこいらの犯罪者や工作員って訳でもないだろ多分。比較的鋭い方だと自負する俺ですら、偶然が味方をしてようやく見つけることができた隠密能力。それも石投げて隠密が解けたってことは、元はこの二人のマントだろ? そんなトンデモアイテムを装備してる奴らが、そんなチャチな奴らとは思えない。


「……訊かれて正直に答えるとでも?」

「吐いた方が利口だと思うがね。どうせ捕まるんだからよ」

「こっちは二人だ! 余裕こいてられんのも今のうちだぞ!むしろ自分の心配をしろよ。こうして顔を見られた以上、オレたちにもお前を始末する理由ができちまったんだからなぁ!!」

「……虚勢張ってんの丸分かりだぞ。てか、あれだけ距離あって無様に回り込まれた癖に、よくそこまで強がれるなオレっ娘。小学生の意地の張り方だぞそれ。精神年齢が一人称に滲んでんじゃねぇか」

「コイツ……!!」


 何か片方が強がって吠えたので、思いっきり小馬鹿にした笑みとともに煽り返してやった。こちとらナチュラルボーン煽りストだぞ。レスバして鍛えてから出直してこいと。


「あとオレっ娘。小学生並のおツムしかないお前に分かりやすく教えてやるがな。──

「遅くなりました歩さん!!」

「いや時音ちゃん、東堂さんが速すぎるんだよ!? 私たちむしろ速い方だからね!?」

「「ッ!!」」


 完全武装状態の時音ちゃんと木崎さんがやってくる。そう。あくまで俺は先行しただけで、この二人だってしっかりコイツらを追ってたのだ。

 結果として、前には俺で後ろは戦姫二人という状況に。これのプレッシャーはデカいぞ。


「俺のインパクトで忘れたろ? ……さて、最大の根拠だった数的有利が覆った訳だが、ねぇねぇ今どんな気持ち?」

「ッ……!!」


 ぷーくすくすとあからさまに嘲ってやれば、オレっ娘はギリギリと歯を鳴らしてこっちを睨みつけてきた。それ歯の噛み合わせ悪くなるよ?

 ま、そんな頭が小学生はさておき。気になるのはもう片方の奴かね。めっちゃ煽ってんのに反応が薄い。ありゃ必死で打開策を考えてる顔だ。脅威となるかは別だが、諦めが悪いだろうから要警戒だな。


「歩さん。彼女たちが?」

「そそ。コソコソ俺たちを監視してた奴ら。ちなみにきくけど、顔面偏差値的にキミらの同類っぽいんだけど。知り合いだったりする?」

「……いいえ。私の記憶にはないですね。でも少なくとも戦姫ではないかと。他国の術者まで分かりませんけど、応援の関係で戦姫なら結構な人数と顔合わせしてるので」

「なるほど。ま、予想通りだわな。俺も最近あっちこっち行ってるけど、あの日本人顔、ヒナって子は全然見かけなかったからなぁ」

「……っ!? 何で私の名前を!?」


 お。流石にコレには反応したか。いやまあ、名乗ってないのに名前知られてちゃそりゃビビるわな。


「これに関しては本当に偶然だよ。そっちの小学生、セロだっけ? 少し前にナンパ男二人に金的かまして沈めたろ。外野にいたんだよね俺。衝撃的な光景だったからか、頭のすみっこで残ってたみたいでなぁ。お前らの顔見てたら思い出した」

「ふざけんなこの野郎……! ついてねぇにもほどがあるだろ!?」

「本当にね」


 やっぱりフラグってあるんじゃねぇかなぁと思う今日この頃。あんなに印象的だった他人がこうして敵として現れるとか、マジでフィクションじみてるよなぁ。


「ま、それはそれとして。神崎さん、この名前と映像で身元とか調べてもらっでいいですかね? 多分出てこないでしょうけど」

『とっくに確認済みよ。そして正解。各国のデータを参照したけど、照会できる範囲では該当者無し。日本限定だけど戸籍もノーヒット。少なくともヒナって子はヒットすると思ったんだけどねぇ……』

「さようで。ま、この手の輩がマトモな訳も無し。データ上に存在しないってことでOKですかね?」

『ええ。遠慮はいらないわ。ただ取り調べはしたいから、そこだけ忘れないでね』

「あいあい」


 よし偉い人からお墨付きもらった。これで後顧の憂いはナッシング。


「それじゃあ殺るよ二人とも。油断しちゃめーですよ」

「ちょっと東堂さん本気ですか!? 相手は人ですよ!? 暴力に訴える前にまず話し合いましょうよ!?」

「暴力は第二言語ってそれ一番言われてるから」


 言葉が通じない相手でもこんにちはって殴りかかれば、相手もこんにちはって拳を返してくれるからね。パーフェクトランゲージだよ。たまに気絶とかして返事が返ってこないこともあるけど。


「荒っぽいにしても限度がありますからね!? まず穏便に降伏を促してください!」

「結構しっかり降伏勧告したんだけどなぁ」


 え? どうせ喧嘩腰だったんでしょうって? 正解。


「分かったよ。そこまで言うなら木崎さんに任せるよ」

「えっ!? あ、えーと、大人しく降伏してください!!」

「このセカンドポン!ボキャブラリー皆無かキミ!?」

「夏鈴さん……」

「……ああ。ヒナがイラつくのも分かるわ。コイツは駄目だ。頭の中まで花咲いてるわコイツ」

「私の想定とは違ってるのだけど……。どっちにしろ本当に気に食わないわねアンタ」

「ご、ゴメンなさ〜い!!」


 全方位からの集中砲火で、木崎さんが涙目に。おう、マジで一旦反省してた方がいいよ。


「……何かもう、うちの戦姫がゴメンなさいね本当に。気が抜けるよね」

「……そうね。緊張感が続かないわ。だから一旦仕切り直してほしいぐらい。回り込む前ぐらいからやり直しましょう」

「いけしゃあしゃあと何言ってんだお前。んなことしたら逃げんだろ絶対」


 やっぱり油断なんねぇなヒナちゃん。逃げるのを諦めてねぇじゃねえか。


「セカンドポンのフォローって訳じゃねぇけどよ。冗談抜きで降伏した方が身のためだぞ? なんせキミたちの人権は完全に無効化されてるんだ。命の保証は無いと思え」


 だってデータ存在しないんだから仕方ないよね。データが存在しないってことは『現実にいない』ってことだからね。いないんだから当然、人間様に与えられている権利も該当しないのだよ。


「今のお前らはイラストのキャラと同じだ。描きての俺たちに何されたって文句は言えねぇ。人間様のように尊厳を保証してほしいのなら、相応の誠意ある態度ってもんを見せるんだな。人型擬アンノウンき」

「……歩さん。台詞が完全に悪役です」


 知ってる。最後通告ってことでちょっとカッコつけたらこうなった。


「……ハッ! そんな聞き分けの良い優等生が、こんな馬鹿なことをしてる訳ねぇだろうが!!」

「そらそうだわな。知ってた」


 交渉は決裂。当然だ。この二人はあきらかに木っ端の犯罪者じゃねぇ。然るべき目的と覚悟を持った、頭のキマッてる馬鹿どもだ。そんな奴らが足掻きもせずに、道半ばで膝を着くことなどありえない。

 セロとヒナが構える。こちらも同じだ。木崎さんだけは少々戸惑っているが、ことこの状況では戦わないという選択肢はないようで。それだけは救いか。


「殺されても恨むなよ、犯罪者」

「そりゃこっちの台詞だ。後悔すんなよ!!」


 言葉と同時にセロが腰に右手を──っ、!?


「ぐぎゃッ!!!?」

「チッ……!!」


 不穏な気配を感じ、咄嗟に近付いて肩ごと腕を引き千切ったが遅かった。少し離れた位置から感じる空間の揺らぎに、自然と舌打ちが漏れる。

 腹いせに追撃を考えるも、すぐに却下して時音ちゃんたちのもとへ。十分な致命傷は与えた。ならトドメを刺すよりも、時音ちゃんたちの安全を重視して近くにいた方がいい。


「まったく見えなかった……!! セロ、大丈夫!?」

「っぐぁぁぁ!! コレが大丈夫に見えるかお前ッ!? だが、なんとか間に合ったぞヒナ……!!」


 千切られた右肩からおびただしい量の血を流しながら、セロが獰猛な笑みを浮かべ吼えた。


「東堂さん!? 流石に容赦無さすぎじゃないですか!?」

「その怪人ムーブで躊躇ゼロは私もちょっとどうかと思いますよ歩さん!! というか、本当に歩さんって元一般人ですか!?」

「この状況でそのツッコミはいらんのよ! いいから集中!! 防ぎそこねた!!」


 騒ぐ二人に一喝。それとほぼ同タイミングで地面が揺れ初め、ズガガガガッという何かを薙ぎ倒すような凄まじい音が、段々とこっちへと近付いてくる。

 遅れて耳元の通信機が起動する。


『三人とも注意して!! 付近にいきなり出現反応が!! それもかなりの大型!!』

「歯ァ食いしばれよ二人とも。新手が──デッカいイクリプスが来るぞ!!!!」

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