第41話 やべぇ奴、動きます
《side東堂歩》
キャンプ地に無事到着した後、適当な職員に居場所を聞き出し、二人が待機している場へと向かう。
「あ、いたいた。おーいお二人さーん!」
「うえ!? 東堂さん、何で此処にいるんですか!?」
「あれ聞いてない? 応援として帰還そうそうこっちに飛ばされてきたんよ」
「いやそれは聞いてますけど……」
「歩さん。夏鈴さんが言ってるのはそういうことではなくてですね。私たち、ついさっき歩さんが対策局に帰還したから、これから向かわせるって聞いたんですよ。……何でもう此処にいるんですか?」
「空中走った。音速で」
「相変わらずですね……」
それで済ますキミも中々染まってきてるよね。
「……空中、え、音速?」
「対してこの反応よ」
逆に親しくはなれど、現場では全くと言って良い程に絡みがなかった木崎は混乱している。模擬戦とかやったりする前にこの異常事態が起こったからなぁ。
「お互いこっち方面では何も知らないからね。しょうがないね」
「夏鈴さん、ひとまず戦闘関係で歩さんについては考えるだけ無駄です。この人ができると言ったことは、どんな荒唐無稽なことでも受け入れてください。それだけで大分気が楽になります」
「何か時音ちゃんが凄い悟ってる!? ちょっと東堂さん何したんですか!?」
色々したんですよ。
「……何か東堂さんと一緒に戦うの不安になってきたんですけどぉ」
「それについては心配する必要はないですよ夏鈴さん。ぶっちゃけウチの支部の最高戦力ですから、歩さん」
「うぇ!? 一番強いノアさんでしょ!? Sに近いAランクだよノアさんって! この前だって東堂さん、ノアさんに追い掛けられて逃げてたじゃん!!」
「アレは単純にお仕置きだから逃げ回ってただけですよ多分。反撃するのは忍びないから取り敢えず逃げるって感じかと」
良く分かってらっしゃる。
「いやでも、流石に信じ難いというか……」
「Aランクの擬態型に生身で食べられても平気な方ですよ歩さん」
「そりゃAランクに襲われて無事なら強いん……待って食べられたの? それで無事なの? 東堂さん本当に人間?」
「おいちゃんと見ろよ人型だろうが」
「猿って知ってますか東堂さん」
そうだねアレも人型だね。
「というか、そこで不安になる必要はないじゃろ。こっちに来るように指示したのは神崎さんやぞ。木崎さんはあの人の決定に疑問があるのかい?」
「そこで最高権力者を持ってくる辺り不安倍増なんですけどー!!」
「支部長を忘れないであげて」
立場的にはあの人だからねトップ。お飾りとは言え最高権力者は支部長だから。
「てかそれを抜きにしてもよ。俺、ちゃんと実績あるんじゃが? これまでずっと見習い守りながらイクリプスと戦ってきたのよ。なんなら昨日はあの憎き人型のナマモノをシバいてきたんやで」
「ああ。擬態型出て助けられたって、向こうの後輩から連絡きましたね。……私経由で連絡先訊かれたんですが、どうしますか歩さん?」
「そんな顰めっ面で訊ねてくることある?」
「……乙女心という奴です」
それを言われると答え難いんだよなぁ余計に。
「まあ教えちゃって良いよ。その代わり筆まめじゃないと念押ししてちょ」
「……了解です」
「……東堂さん、普通そこで教える選択肢を取るのはどうかと思います」
「いや特に他意は無いからね? 単に他の支部の子に訊かれた時、深く考えずに教えちゃったからさ。何か断るのもアレかなと」
「……他の子にも教えたんですね」
「はい更に地雷を踏み抜いていくスタイル!!」
理由伝えたら余計に騒がしくなった女子二人。いや連絡先ぐらいええじゃろ別に教えても。
「下心有りだと分かってる相手にそういうのを教えられると、先にアプローチしてる身としてはモヤッとするんですよ!! 東堂さんは乙女心が分かってない!!」
「……まあ、はい。重いと思われたくないですし、そもそも片想いしてる立場でとやかく言う権利は無いんですけど……やっぱり、その……」
木崎さんはもう抗議。時音ちゃんは控えめながらもモニョってると主張。んー、困る。
「んな気を揉むようなことでもないだろうに。どうせ猫被るの止めたら、あの子らも直ぐ冷めるだろうよ。むしろ最初の印象がマトモだった分、落差も酷くて幻滅すんでねぇの?」
「例えそうだとしてもですよ!」
「へいコラ。自分で言っておいてアレだが、ちったぁ否定するぐらいの姿勢見せろや」
ノータイムで同意してんじゃねぇよ。もしかしたら時音ちゃんみたいな物好きがいるかもしれねぇだろ!! ……あ、だから駄目なのか。
「はぁぁ。保留してる側がこんなフォロー入れるのもアレだけどさ。今んとこ一番距離が近いのは関東支部の戦姫、とりわけ時音ちゃん、アクダマ、姐さんの三人だから。んで、その内二人は人のことを異次元の生命体扱いしてくれてる訳で。恋愛云々で言えば、時音ちゃんが一番ゴールに近いからね?」
それでもフルマラソン以上の距離はあるのだけど。
「あとついでに言っておくと、重いとか気にする必要もないから。時音ちゃんが独占欲強めなのはとっくに察してる。そして俺はそういうので束縛しようとしてきても気にしない。面倒だったら溜め込まずにその都度ハッキリ拒否るから」
アイアムNOと言える日本人。時音ちゃんが妙なことを口走っても、不満とか感じる前に『無理』って言い切る。速攻で拒否るから煩わしいとかも思わない。引き下がんなかったらほとぼり冷めるまで逃げる。……てか、時音ちゃんじゃ俺を束縛するのがまず無理だし。こちとらネズミ花火みたいな人種だし。
「だから遠慮とか気遣いの類は要らない。そもそも俺がどんだけ我を通して好き勝手してると思ってんのよ? それで他人が同じようにして遠慮しろとか言う訳ないでしょ。相容れなければ反発はするけど、余程のことでもなければ幻滅するようなことはないから。だから好きなだけその気持ちをぶつけてきな」
「はぅっ……!?」
「口説いてます!? これつまり口説いてますよね!?」
「何でそうなるんよ……。今の台詞、気に入らなければ跳ね除けるけどって続く奴やぞ。受け入れるとは言ってねぇぞ」
本心語ったらどういう訳か時音ちゃん撃沈。木崎さんテンション爆アゲ。……何だろうコレ。どっちかってーとアレなこと言ったつもりなのに、こんな反応されると小っ恥ずかしいこと言ったみたいで嫌なんだけど。
「あ! もしかして照れてます!? 東堂さん照れてます!?」
「えっ!? 歩さんって照れたりするんですか!?」
「姦しくなるには一人足んねぇんだよなぁ!?」
ここぞとばかり食い付いてくるんじゃないよ!! そして時音ちゃんも復活早いなオイ!!
……いや、落ち着け。ここで何を言っても余計に調子乗るだけだ。くーるに。そうくーる。意識を集中して、世界を感じとってぇ……。
「……」
……おんやぁ?
「東堂さーん? 恥ずかしいからって黙り込むのは反則ですよぉ?」
「ちがわい。ところでさ、木崎さんってどんな風に戦うの? てか強いの?」
「また露骨に話逸らしてー」
「良いから。答える」
「え、ちょ、何か怖いんですけど……。もしかして怒ってます?」
「怒ってないからはよ答えて?」
「絶対に怒ってるじゃないですかぁ!!」
怒ってねぇって言ってんだけどなぁ!? 顔顰めてもねぇし笑顔でもねぇ、極めて普段通りの表情とトーンだったろ!?
「えーと、夏鈴さんは奏さんと同じBランクの戦姫です。魔導で砂を操って身体に纏い、徒手空拳で戦う近接ファイターです」
「ゲームで言うところの耐久高めの格闘家ってことね。了解」
見かねた時音ちゃんから助け船が入ったことで、なんとか木崎さんの戦闘スタイルは把握できた。
「Bランクか。遠距離主体の姐さんとはタイプは違えど、大体あのレベルか。てことは、時音ちゃんを任せるのは……いや、でもイクリプスだと俺一人で行ったところでか。ならいっそのこと引っ張ってった方が安全か? 何があるのかすら分からんし」
「……あの、本当に怒ってなかった系ですか東堂さん? てか、何か不穏な呟きをしてません?」
「……コレはアレですね。また歩さんが理不尽が発動した感じですね」
横で二人が何か呟いているが、一旦無視。そして支給されてる通信機で神崎さんにコール。
『こちら神崎。どうしたの東堂君?』
「ちょっと気になることあったんで、戦姫二人を引っ張って行きますわ。何もなかったら直ぐ戻ると、神崎さんの方から伝えといてください」
『えーと、急にどうし──』
「じゃ、お願いしまーす」
説明が難しいから切った。感覚的なものだから言語化が中々できないのよね。
「んじゃ、二人とも。ちょっくら一緒に散歩に行くべ。あ、戦闘とか起きるかもだから準備だけしておいてねー」
「ちょっ、急に何ですか!? 理由もなくキャンプ地から離れられる訳ないじゃないですか!?」
「その理由を確かめに行くのよー」
「夏鈴さん、諦めてください。あとしっかり準備しましょう。歩さんがこう言ってる以上は何か起きます。それかあります」
「いやそんな異変とかあったら何か報告あるでしょ!?」
「端的に説明しますと、歩さんは機械よりも先にイクリプスの出現を察知したことがあります」
「ねぇ本当に東堂さんって人間!?」
人間じゃい。良いから行くで。
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