第39話 非常事態で日本がやべぇ
《side東堂歩》
「……フラグってあるじゃん」
「……急にどったの?」
「言いから聞くのじゃアクダマ」
「うん」
フラグ。かつてはオタク用語だったが、時代と共に大衆にも通じるネタとなったネットミームの一種。死亡フラグとかが分かりやすいよね。『生きて帰ったら〜』系とかが代表例。
「発祥とかになってくると古のネット知識の部類だし、そこは俺も詳しくはないんだけどさ。アレって用は物語における定番、一種のお約束を表す言葉な訳よ。だから現実でフラグなんて言ったところで、ネタの一種にしかならないし、本気で言ってたら失笑されるのよね」
「だね。大抵の人は本気でフラグを信じてる訳じゃないね」
「うん。だが、俺は敢えて今この場でそれに『否』と言いたいのよ。フラグってのは現実にもしっかりあるんでねえかって思うのね」
「……何で?」
「いやだってさあ……」
何故とアクダマに問われたので、周囲に視線をやることで答えとする。
現在、俺たちがいるのは対策局の休憩室なのだが。普段は割と長閑というか、職員たちの憩いの場になっている場所だ。
「死屍累々じゃん」
「……まあ、そうだね……」
それが今やブラック企業の繁忙期みたいに、ゾンビみたいな顔した死にかけの職員たちで溢れ返っているのである。なんならアクダマも他の職員たち程ではないが元気がない。
何でかって言うと、理由は凄まじく単純で。大体一ヶ月程前ぐらいから関東で、いや日本全体で阿呆みたいにイクリプスが湧き出ているからであります。端的に言って非常事態よね。
「これさ、やっぱり先輩たちが帰ってきたことがフラグだったんでねーのと思う訳ですよ」
「人聞きの悪いことを言わないでくださいよぉ……」
素直な感想を口にしたところ、俺の隣で死んだ表情で菓子パンを食んでる木崎さんから苦情が飛んできた。
だがその口調に力強さはない。度重なる出勤で疲れ果てているのは勿論だが、遠征から帰ってきて数日もせずにこの大量発生が始まったという事実が、彼女から反論の勢いを奪っているのだ。
「タイミングも神がってるし、そもそも海を超えた理由が他所のイクリプス大量発生だもんなぁ。何か変なもんひっ憑けて帰ってきたんでねぇの?」
「そんなの憑いてたら自力で祓ってますよぅ……」
「うーんこれは魔法少女」
厄の類は自力で祓うというファンタジー住人特有のストロングスタイル。
「というか東堂さん酷いですよぉ。私もノアさんも修羅場乗り越えて帰ってきた途端、また修羅場に突入してるんですよ? もっと労わってくれても良いじゃないですか」
「それは素直に同情する。てか質問だけど、イギリスとこっちじゃどっちが辛い?」
「断然こっちです。何だかんだ言って向こうは応援でしたし」
「やっぱりかー」
割とマジで忙しいからな今。あっちで予報が出たら現場で待機して出現と同時に叩いて、こっちで予報が出たらまた待機して叩くの繰り返し。これが日本各地でほぼ毎日続いている。しかも日に一つなんてマシな方で、酷い時は地域こそ違えど同じ日に二・三箇所で予報が出ることもある。
そのあまりの頻度に、他支部とも綿密な連携を取りながら出動する戦姫、それも一部見習い含めてのローテーションを組んでいる程だ。因みに今日は姐さん、先輩、時音ちゃんが外で待機中だ。
「この一ヶ月家にも帰れてないんですよ?」
「俺だってそうだよ。てか、職員の殆どが泊まり込みだよ」
お陰で嫌でもコミュニケーションが捗っちまうよ。木崎さんにしろ先輩にしろ、最初あった距離感も皆無ってレベルで打ち解けたのは、不幸中の幸いと言うべきかもしれない。……尚、今回に限り筆頭ハゲたちとは互いに完全な不干渉、いや接近禁止という盟約が交わされた模様。
なんでかと言うと、戦姫以上に現場職員たちの方が疲労がヤバいから。エリア封鎖や隠蔽作業の連続で、現場職員のほぼ全員が生ける屍状態で働いているのだ。そんな中で俺とハゲの一派がカチ合えば、俺は兎も角ハゲたちの方がストレスで発狂する。そんな訳で、オッサン直々に『絡むな近付くな』という命令が下ったのだ。……そんな命令なくとも、あの状態の人間に追い討ち掛けるようなことは流石の俺もしないんだがな。良心が痛むとか以前に、身の危険を感じるんだよ。どんなに力があろうとも、世の中には触れてはならぬものがあるのだ。
「まあ、うん。皆辛いんだ。だから我慢だよ木崎さん」
「そんな死ねば諸共発言は嫌ですよぉ」
「そもそも、その台詞を吐いてるアユ君がめっちゃ元気なのがなぁ……」
「俺も補佐だけどキミらと同じローテーションを組まされてるんやで?」
そんな俺だけズルしてサボってるみたいに言わんといて? しっかり働いてるのよ?
「そうは言っても、現場で東堂さん見掛けないし、支部で待機してる時は元気だし、全然働いてるような気がしないんですけど?」
「それは単に俺の割り当ての問題ですぅ。見習い戦姫のお守りやってるんだから仕方ないでしょうが」
俺は戦闘力こそあれど、単体ではイクリプスに有効打を与えられない。かと言って、単純な戦姫の補助に回すには過剰戦力。だが、遊ばせておく余裕もない。そうして神崎さんが頭を捻り、方々に根回しした結果、人手不足を補う為に『優秀な見習いの為の現場研修』という名目で引っ張り出された見習い戦姫たちのサポート、という名の護衛の任が与えられたのである。イクリプスをとっ捕まえて、見習いに止め刺さして安全に処理しろということらしい。……そのせいか俺だけ関東だけじゃなく、日本中を行ったり来たりしてるんやぞ。それぞれの支部が抱える優秀な見習いのお守りとして。
尚、各支部に出向く際は、神崎さんの指示で俺の実力はある程度伏せられている。他所から俺の力が
「……これ改めて思うけどさ」
「何よアクダマ」
「確かに猫の手も借りたい状況だから、助かってはいるんだろうけど。アユ君のせいで見習いの娘たちも出動する羽目になったんだよね」
「……人を学徒出陣の原因みたいに言うのは止めろや」
俺だって薄々そんな気はしてたけど、気付かないようにしてたんだぞ。一緒に出動した見習い戦姫の中には小学校の中学年とかいたんだぞ。あんなリアル幼女を戦場に出させた原因が俺とか、流石に嫌すぎるんだよ。
「兎も角! 俺だってちゃんと仕事はしてるし、何なら木崎さんより忙しいからね!? 日本全国飛び回ってるし、見習いの娘たちが怖がらないよう気を遣ったり、危険がないよう全力で守ったりしてるから。実際のところくっそ忙しいよマジで」
尚、その副次効果として結構な数の見習い戦姫たちからメタクソ懐かれた模様。初の実戦ということで不安にさせないよう、色々と刺激の強いであろう本性を隠して接した結果である。……どうやら俺、言動を改めれば強くてユーモラスな頼れるお兄さんになるみたい。 新発見だった。
「……じゃあ何でそんなにピンピンしてるんですか?」
「素の体力」
「これだから脳筋は……」
「人をゴリマッチョみたいに言うんじゃねえ。細く靱やかな均整の取れたぱーふぇくとぼでぇだぞ」
あと筋肉とスタミナは明らかに別物じゃろがい。
ーーー
あとがき
という訳で更新です。カクヨムで更新する系の奴ではないのですが、リアル関係で最近ずっと文字を書いてる。コレを含めると今日、てか昨日?だけで一万文字は書いたと思う。流石にキツいぜぇ。
リアルがちょっとづつ忙しくなっているので、更新頻度が落ちるかもです。
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