第38話 東京の夜の街でー、やべぇ奴が出会ったー

《side東堂歩》


 ……端的に言って死ぬかと思った。いや、物理的な面ではそんなに危なくなかったんだけど、恐怖演出って意味ではクソ怖かった。能面みたいな無表情で追ってくる呪いの人形ロリはガチホラーでした。


「……ふぅ……」


 とは言え、流石の関東支部トップ戦姫様も俺の機動力には勝てなかったようで。何とか無事に逃げ切ることに成功。……次会う時が恐ろしくもあるけれど、その時はもう素直にしばかれても良い気がする。後半部分は開き直って煽った部分もあるし。レッツコミュニケーション?


「……んー、てかなぁ。あの人、何であんなに過剰反応するんじゃろ? コンプレックスは本人以外がどうこう言うもんでもねぇけど、ぶっちゃけあそこまで見た目が整ってたら誤差の範疇だろうに」


 ガチ逃げしながら思った、というより実際に口に出して鎮めようと頑張っていたのだけど、先輩はロリロリしい見た目なんて気にする必要は無いんじゃねえかなと。だって先輩、客観的な評価としてガチの美少女な訳で。その気が無い人種でも、迫られたら普通に陥落しかねないぐらいにはやべぇ見た目してるんよ。『貧乳はステータスだ。希少価値だ』っていう名台詞はあるけど、それをマジで体現してるのが先輩やからな。


「男なんて大抵がマザコンかシスコンかロリコンだし。剛の者は全属性持ちだし」


 かくいう俺とて、シスコンとロリコンの気はあるし。あくまでキャラ属性の話で、現実とごっちゃにする気はないけど。……ただぶっちゃけると、合法ロリな先輩は実際アリ。恋愛云々は別として、普通にそういう対象にはなる。

 尚、それを弁明に乗せたら『うん、セクハラ』と無表情のまま制裁が激化した模様。次会う時が本当に怖ぇぜ☆ セクハラしたのは事実なんで甘んじて受け入れるけども。

 ……とまあ、そんな破滅の未来はさておきですわ。面倒ごとは未来の自分に任せて、今を考えましょうか。


「さーて、この後どうしよっかなぁ」


 先輩からガン逃げかました結果、対策局から脱出してしまった為に現在は外。なし崩し的に退勤しちまったので、時間帯がかなり微妙だ。今から直帰すれば家の夕飯には間に合うけど、それでも少し遅れそうな絶妙な時間というか。……ていうか最近、母さんが俺の夕飯を作るの面倒がってきてる節があるからな。最初の内は帰宅時間が割と遅かったし、戦姫待遇になってからは早上がりも自由になったせいで帰宅時間がかなり不定期になったのが原因かと。給料入ってからは外食もちょくちょく挟んでたから余計に。


「今から帰るって電話しても、『アンタの分の買い物してないんだけど』って宣いかねんからなあの人……」


 それでも帰れば夕飯は用意してくれてるだろうけど、多分小言がセットで付いてくるな。……やはり外食か。

 という訳で、母さんにポチポチと外食の連絡を。するとソッコーで『了解』との返事が。この返信速度はやはり俺の分は無かったな……。

 ま、そんな無常はさておき。良さげな飯屋を探す為に徘徊開始。最近は給料、それも戦姫待遇の額が入ったことでスーパーお大臣なので、お高い感じのお店を求める所存。


「んー……ん?」


 ふらふらと適当にぶらつきながら、店を探すこと数十分。良さげな店の代わりに、珍しい光景と遭遇した。


「ねぇねぇ。キミさっきからずっとここにいるけど、もしかして暇? 暇だったら俺たちと遊ばね? あ、日本語通じる?」

「てかキミめっちゃ可愛いじゃん! もしかしてモデルとかやってる!? そのカラコンも超似合ってんね! いやマジですっげぇ美人さんでヤバいわ!」

「……連れを待ってるんだよ。だからあっち行け」

「お、日本語分かるの!? 超ラッキーだわ! てか、連れって女の子? だったらその子も一緒に遊ぼうぜ!」

「……チッ、しくった」


 ……今どきこんなステレオタイプのナンパってあるんか。

 あまりにもテンプレみたいな光景が目の前で繰り広げられていたので、ついつい立ち止まって見入ってしまった。なんなら道行く人の中にも立ち止まってるのがチラホラいるレベル。それ程までに、目の前の光景は『らしい』。


「あ、でも確かにあの娘可愛いな」


 あまりにもテンプレ的光景なので一瞬ヤラセを疑ったが、女の子の方を見たらなんとなく納得してしまった。ああ、うん。あのレベルの娘なら、女好きが集ってくるのも当然かもなと。

 ざっくり説明すると、絡まれてるのは金髪赤眼でボーイッシュなビジュアル系美少女(外人)だ。但し美少女と言っても、クラスで一とかそんなレベルではなく、有名モデルやアイドルでも見劣りするような『超』がつく類。戦姫の面々とタメ張れるぐらいと言えば、その凄さが伝わるだろうか。


「ねぇねぇ! 俺たちと遊ぼうよ! 待ってる子も一緒にさ。なんなら奢るから!」

「あ、連絡先教えてよ。SNSとか何かやってる? 相互フォローとかしようよ!」

「……うっぜェ……」


 ……うーん、この見事なまでのテンションの差よ。てか、ナンパ野郎たちの典型的なDQN感が凄い。女の子側の機嫌とか一切無視して自分たちだけで盛り上がってる。あんなあからさまに邪険にされてんのに完璧スルーだもん。

 いや、分かるよ? 声掛けたら外国語が返ってくる可能性を考慮して尚、お近付きになりたいと思った美少女だもんね? それで日本語が返ってきたらテンション爆アゲにもなるよね? でも傍から見ていてヤバいのよ。お前らナンパ下手かと。地味に増え続けてるオーディエンスからもそんな気配が漂ってきてんだよ。

 ……てか、それ以上に気が気じゃないんだよね俺。だってさ、あの娘もしかして対策局、いやそうでなくとも裏の世界の人間な気がするんだもん。なんか容姿の人間離れさ的に、そんな気配をひしひしと感じるんだもん。あの赤眼とかカラコンじゃなくて地では?


「……うちの戦姫、ではないよな」


 少なくとも、関東支部の戦姫ではない筈。五人しかいないと聞いてるし。……となると、他所の支部の戦姫か? 多分、日本の術者とかではない筈。いや日本の術者に詳しい訳ではないけど、それでも歴史万歳血統万歳みたいなイメージがあるし、外人はいない気がする。


「んー、ただなぁ……」


 本当に戦姫かあの娘? その割には発している気配が剣呑なんだよなぁ。印象的には姐さんに近いんだけど、あくまで近いだけだアレは。姐さんの場合は、例え面倒な輩に絡まれたとしても、犯罪者でもない一般人相手に何かすることはないと思われる。だがあの娘の場合は普通に手が出る気がする。なんなら次の瞬間には手加減無しで〆にいきそう。だからちょっとハラハラしてる。……いや、チャラ男が痛い目に遭うのは個人的にスルーしても良いんだけど、何かそれだけじゃ済まないような『ヤバさ』をあの娘から感じるというか。


「例えるならそう。野生の熊相手にちょっかい掛ける馬鹿を見てる気分」


 実際に神秘関係者だったら野生の熊以上に危険な可能性が高いので、あながち間違ってないのが笑えないのよなぁ。……てか今気付いたけど、よくよく考えたら俺のヤバい奴センサーが反応してる時点で、あの娘一般人じゃねぇわ。更に意識を研ぎ澄ませると、戦姫とかそっちの類、いやそれ以上かつ異質な『ナニカ』を感じるし。


「……割って入るべき? え、ヤダぁ……」


 思わず自問自答。だって、ねぇ? 状況的には明らかに介入した方が良いんだろうけど、心情的にはすげえ嫌なんだもん。あんなコッテコテなテンプレシーンに、主人公よろしく割って入れって言われたら、普通はマ?ってなるじゃんそんなの。

 しかも何が嫌って、善意、正義感、職業意識を抜きにしても、あの状況に介入した方が良さそうっていうのが嫌だ。あの娘から感じる異質な気配が、俺の直感にビンビン訴えかけてくるんだわ。『厄ネタ!!!』って。


「……はぁぁぁぁ」


 渋々。そう渋々だ。悩みに悩んだ果てに、直感を無視するのはアレだという理由で、俺は介入を決意した。


「──だぁぁぁ!! うっぜェんだよお前ら!!」

「んぎゅ……っ!!?」

「あがっ……っ!?!?」


 それと同時に、我慢の限界が来たらしい少女がチャラ男どもに、惚れ惚れするような鋭い金的蹴りを叩き込んだ。


「ったく! ……あ、おいヒナ!! 遅せぇぞお前! お陰で厄介な奴らに絡まれたじゃねえか!!」

「……セロ。アンタ大人しく待ってることもできない訳? 何騒ぎ起こしてんのよ」

「うるせぇ! 鬱陶しく絡んできたコイツらが悪いんだよ! いいから行くぞ! あとそのクレープ一個寄越せ!!」


 そしてオーディエンスの全員が唖然とする中、金的少女(仮称セロ)は丁度やってきたこれまた戦姫レベルの美少女のもとへと駆け寄り、苛立たしげに夜の街へと消えていった。


「……」


 取り敢えず、全てが面倒になったので、俺は何も見なかったことにした。……なので一回聞こえた『パチュッ』という嫌な音は勘違いである。



ーーー

あとがき

一人称視点だとこんな感じになるよね、と思いながら書いてる。主人公の独り言が多くなったり、一人称視点故に地の文が砕けたりとか。

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