第37話 包囲網と逃げるやべぇ奴

《side東堂歩》


 相変わらずの薄氷具合に笑うしかないが、起きてないことに思考を割いても無駄なだけなので、スパッと考えるのを止めた。

 という訳で、自分なりに遠征経緯をザックリ纏めた訳なのだけど。


「やってることが収穫期の農家だよなコレ。他所の人手が足りんからって子供がパスされたりする奴」


 尚、その他所の農家には全く手伝わないニート(術者)がいる模様。


「……多分間違ってないんだけど、何で農家?」

「とある大御所漫画家の農家エッセイが面白くてじゃな」

「お前脳みそサブカルに浸かり過ぎじゃね?」

「幸せな人生でそ?」


 趣味に時間を割けるのは良いことなんじゃよ。


「ま、兎も角。経緯諸々は理解理解。そりゃお疲れ様ですわ。大人の事情で振り回されるとか、本当にご苦労様です」

「あはは。ありがとうございます」

「ん。受け取る」


 遅ればせながらに労いの言葉を掛けたところで、話題は一段落。


「一応訊くけど、この後はどうする訳? 時間的にも夕飯時だし、お疲れ様会とかするん? 待機中でもないし、皆もう帰宅は任意やろ?」


 戦姫の特別待遇その一。待機中、つまりイクリプスの発生予報が出ていない場合、任意で帰宅可能。尚、早退きしても給料は据え置き(高給)という。……イクリプスが湧かない限りは訓練ぐらいしかやることがないとはいえ、普通の社会人だったら憤死案件のフリーダムさよなコレ。まあ、待機状態になったら休日だろうが招集されるんだけども、それにしたってというか。

 兎も角、そんな理由から今日はちゃっちゃと切り上げて帰っても問題は無いのだけど。


「いや、要らんだろ」

「私もパスー」

「うん。二人に同意」


 はい知ってた。やっぱり皆で飯食わない派閥が拒否ってきた。


「案の定というか、なんというか。……てか、先輩もそういう集まり嫌いなん?」

「んーん。嫌いという程ではない。ただ単に、皆で集まると量が食べれないから」

「量?」

「私、大食い」

「ノアはやべぇぞ。毎食毎食えげつねぇぐらいに食う。店の大食いチャレンジとか普通に二週目入ったりするからな」

「化け物かな?」


 姐さんから信じられない補足が入った。大食いチャレンジって基本的に数キロからスタートですよね?それを周回とかマジで言ってる?


「何でそんなに食えるんです……?」

「お腹減るから」

「うーわ、答えになってない」


 そんな自明の理みたいな風に言われてもですよ。


「なんだろなぁ。平然と空飛んでる奴に『飛べばできるだろ?』って言われた気分」

「いや果てしなくおまゆうだよアユ君」

「棚上げって知ってる?」

「あの、堂々と言うことではないのでは……?」


 ノンノン木崎さん。こういう時は自らを省みちゃダメなのさ。だって都合が悪いからね!


「ま、話を戻しまして。集まって食べると量を食べれないから、先輩は一人飯派ってことで?」

「そう。割り勘できないし、個別会計するにしても都合が悪い。食べるのに集中してるから、あんまり話せない」

「なるほろ?」

「あとねー、ノアとご飯食べたりするとめっちゃ注目されるんだよねぇ。それを気にしてたりするのよ」

「うん。私は慣れてるけど、皆に悪いから」

「なるほど……」


 思わず納得。そりゃこんなガチロリが、怖いレベルでバクバク食ってりゃ注目されるわな。俺だって見るもん。


「んー……。ただちょっと見てみたくはあるなぁ。先輩、今度でいいから飯行かない?」

「良いけど、食べてばっかりだよ?」

「半分観客だから全然オッケっすわ」

「そ。じゃ、連絡先交換」

「あいあい」


 という訳で、ちゃっちゃっとアドレス済ませ。これで誘うの楽になりましたな!


「むー……」


 殺気!? いや湿気!?


「……お前。仮にも時音の前でよくそんなナンパみたいなことできるな」

「アユくーん。ちょっとデリカシー足らないんじゃない?」

「あっ……」


 妙な気配+アクダマと姐さんのジト目によって気付く。時音ちゃんむくれてますねコレ……。


「いや、他意はないのよ? 先輩みたいなロリがえげつない量食ってる光景とかさ、絶対面白いじゃん。それだけよ?」


 時音ちゃんとは付き合ってる訳ではないので、別に弁明する必要は無いのだけど、何かこう雰囲気的に自然と口が動いてた。……ヒロインに詰め寄られるラブコメの主人公ってこんな感じなんかなぁ……?

 尚、現実はラブコメ主人公というより裁判中の被告人なのだけど。周りが女子しかいないこともあって針のむしろ!


「……あの、つまり……」

「時音……後輩のこと……?」

「うん。……讃アタック中……」

「……で、あっちが……留中。…クズだろ?」


 ほらぁ! 何とか誤魔化してたのに遠征組にもバレたし! 何か端的に俺の態度だけ伝えられたのか先輩たちからの視線が痛くなったし! 弁解するけど、何食わぬ顔で吹き込んでる横の奴が元凶だからな!? ……え、あ、はい。余所見するなと。さっさと被害者兼裁判長と向き合えと。弁護士何処っすかねぇ!?


「……歩さんがノアさんに変な下心とかを抱いていないのは、私も分かってるんですよ? ……ただやっぱり感情は別というか」

「はい」

「こういうのは客観的に見て重いと思うし、実際私としてもどうかと思うんですが。それでもこう、人が全力でアタックしてるのにも関わらず、目の前で違う女性をご飯に誘うのは、私としても物申したくなる訳で……」

「……はい」

「……今度から、週に一回は一緒にご飯食べてくれたら許します」

「………はい。……ねぇ流れと周りの空気的に頷いたけど、これおかしくない? 何でこんな浮気裁判みたいになってるの?」


 さっきも主張したけど、俺別に時音ちゃんとは付き合ってないからね? あと判決が割と重くない? 別に週一で飯食うのは良いんだけど、ここぞとばかりに外堀を埋めにこられた気配がビンビンなんだけど。普通こういうのってさ、一・二回の外食で手打ちじゃないの?


「……嫌ですか?」

「飯は嫌ではないですがね? 強いて言うならこの空気が嫌だ」

「乙女のアピールを全力で保留してるクズには相応しい空気じゃない?」

「言うじゃねえか後輩洗脳したクズ一号。ちょっと一回表出ろや」


 プライドをズッタズタにする形の模擬戦をやってやんよ。


「……でも、私も東堂さんの対応はどうかと思います。端的な説明しか聞いてない立場ですが」

「うん。後輩、アウト。時音とか関係なく、アウト」

「知ってたけど味方がいねぇなオイ!!」


 まあね!? そりゃ女子の立場からすりゃアレだし、それを抜きにしてもポッとでの俺よりも時音ちゃん寄りの意見になるのは分かるけども! なんなら割と屑いことしてるのは自覚してるけどさぁ! それでも俺の立場もちょっとは考慮してくれてもね!?


「……違うよ、後輩」


 そんな俺の内心の叫びは、先輩の不気味な程のアルカイックスマイルによって断ち切られた。


「私は言ったよ。時音とか関係なくアウトだって」

「……というと?」

「恋愛っていうのは、当事者だけの問題。外野がしていいのは傍観、精々が茶々ぐらい。そもそも、後輩の対応を理解して尚、時音がアプローチを続けているというのなら、それは時音が悪い。惚れた弱味」

「……あれ? 意外と俺寄りだったりします?」

「うん。まあ、恋する乙女の我儘を叶えるのは、男の甲斐性でもあるし。そこら辺は上手くやりなさいとしか」


 ……アレは恋する乙女の我儘で片付けて良いのだろうか? その割にはヘビーというか、策士的なサムシングを感じたのだけど。


「……ていうか、それなら何で俺はアウトなんです?」

「ほら。私も乙女だし、恋バナの類は好きだから。うん、ちゃんと空気は読んだの。時音との話が軽く一段落するのは待ったの」


 あれ? 何で先輩あの端的な感じの口調から流暢な奴に変化して──。


「さて後輩。そろそろ我慢できなくなったから訊くけど……一体誰がロリだって?」

「……」


 ……

 ………

 …………。


「いやだって、普通に考えて不思議に思いません? めっちゃ食ってるのに何で見た目小学生なんだろとか。摂取した栄養とか何処行ってるんだろって。ロリ巨乳とか小太りならまだ分かるけど、先輩ツルペタなスレンダー幼女だし。質量保存の法則故障中?ってなるじゃないですか」

「……遺言、それだけ?」

「──三十六計逃げるに如かず!!!」

「お仕置き」


 全力で逃げた。




 ーーー

 あとがき。


 お久しぶりのやべぇ奴更新です。久しぶり過ぎてキャラが壊れてないか不穏な作者。そもそも三人称視点ばっか書いてたから一人称視点がヤバい。……こんな難しかったっけ?

 ていうか、こんだけ更新期間空いてるのに定期的にランキングに浮上してたのは何なんですかね? 嬉しいんですけどビックリします。


 んー、あとアレだ。定期的にくる感想で、主人公と対策局の関係性にツッコミが入るのですけど、この場を借りて説明するとですね。



 源内、神崎side

 表面上は常識人ぶってるけど、最終的には役立てばそれでOKな本性が修羅思考な軽度なフリーダム系管理者。


 筆頭ハゲたちside

 真面目、悪く言えば頭の硬い大人たち。体育会系というか軍人系の規律重視派。あと思考回路は常人寄り。


 主人公

 言わずと知れた狂人。言動がネタ寄りかつオタク趣味なので勘違いしがちだが、その本質を一言で表すとキッズ+DQN。大体のことは自分優先で、気に食わない相手には取り敢えず反抗するチンピラ……というか蛮族?

 やることなすことのスケールがデカい、腕っ節が異常、典型的なキッズやDQNみたいな小物臭い気性の荒さがなく、単純に頭のおかしい方向に吹っ切れてる、割と周りもフリーダムな奴らが多いetc…といった理由で気付きにくいだけで、正真正銘のアカンタイプの社会不適合者。



 この三タイプの思惑というか、言動が絡み合った結果が主人公と一部職員のギスです。というか、ぶっちゃけると八割近く主人公が原因。協調性皆無かつ命の危険がある現場じゃ安全圏から勝手に出るタイプだもの。新人が独自ルールで動きまくって、尚且つ悪びれずに延々と反抗してくりゃ、そりゃ常人ならキレるという。

 残りの二割は管理者陣営。多分役立つだろうで黙認気味だったオッサンがヤバい。格闘スキル+狂気度で半分合格判定出てた為に、協調性さえ培えれば良いやと考え、現場に出すまで主人公への教育を投げ気味だったのが戦犯。



 とまあ、こんな感じでしょうか。以上、解説半分、作者本人の確認半分のあとがきでした。……ま、半分コメディなので、基本はフィーリングで読んでくださいな。それでもここ気になる!って方はコメントして頂けると。似たようなコメントが複数来るかつ、気が向いたら今回みたいな形で答えるかもです。



そして最後! こっちで主張したか忘れましたけど、Twitter初めてます! もう一個の作品合わせて、更新情報など呟いてますので、よければフォローください。作者ページから飛べた筈です。

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