第36話 マジでやべぇよこの世界

《side東堂歩》


 合法ロリ改め、呪いの日本人形改め、先輩に全力で謝り倒し、なんとか首絞め状態から解放して貰いまして。

 で、その後に折角の帰還を訓練施設で祝うのもどうかということで、取り敢えず全員で休憩室へとGO。


「それで今回はどんな感じだったんだ?」


 一通りの労いの言葉を掛けた後、話題は二人の遠征内容へとシフトした。こっちの業界に身を置いて間も無い、ついでに勉強の類も殆ど進んでない為、この辺りの部分では俺は非常に無知だ。裏社会の他国との関係性とか、内容的にも大変興味深くもある。という訳で、勉強の意味も込めて茶化したりせずにいく方向で。


「はい質問。そろそろ何で二人は遠征に行った訳? 何か日本が戦姫の派遣所みたいになってるとは聞いたけど、今回のはどういう理由なん?」

「ああ。そういや東堂は経緯をほぼ知らねえのか。んじゃ、その辺も含めて説明していくか」

「そうだね。わ・ざ・わ・ざ、アユ君の為に説明も交えてあげようね?」

「手間を掛けさせてるのは分かってるから何もしないが、その強調に関しては今後根に持つので覚悟しておくように」

「まさかの何も無し!? 仕返しがプールされる方が怖いんだけど!?」

「知らんがな」


 ここで反撃したら話がまた脱線して進まねぇだろ。真面目に聞くモードに入ってんだよコッチは。てか反撃されるの分かってておちょくってくるの何なの? Mなの?


「で、話を戻すけど。何で二人はイギリスに?」

「えっとですね、単純に言うと向こうのキャパを超える頻度でイクリプスが出現しまくっちゃったんですよねぇ」

「そ。私たちが着いた時は、向こうの戦姫は皆疲労困憊だった」

「へー」


 曰く、二人の派遣が決まる少し前くらいから、イギリスにおけるイクリプスの出現頻度が跳ね上がったそうだ。イギリス全体で半月に十いかないぐらいの頻度だったものが、一つの地域で週に数回レベルで頻発したらしい。その殆どが下位の戦姫を一人派遣すれば問題無いレベルの小規模なものだったそうだが、塵も積もればなんとやら。頻繁に人類の脅威が出現した結果、戦姫は勿論向こうの国の対策局ウチみたいな組織も諸々の対応に終われてさあ大変。そこに駄目押しとばかりに大規模なイクリプスの出現反応が観測され、こりゃ駄目だとなって日本に緊急の応援要請が飛んできたのがことの経緯なのだという。


「イクリプスってそんな大量発生みたいな湧き方するのな」

「私たちも専門に調べてる訳じゃないので詳しくは分かりませんが、なんでもその地域の時空が不安定になった時に出現頻度が上がるそうです。あくまで一過性のもので、時空が安定し始めると元に戻るらしいですが」

「そうそう。特にここ数年は酷くてな。イギリスみたいにキャパオーバーになりかける事例が度々聞こえてくるんだわ」

「えーと、私の知る限りだと他にアメリカ、ロシア、中国、カナダとかがパンク寸前でヤバいことになってたかな? 直接見たor人伝に聞いた話だけど、何処の国も繁忙期のブラック企業みたいになってたね」

「薄氷過ぎない? この世界の平和」


 割と国際社会的に倒れられたらマズイ国が死にかけてるじゃねえか。しかも理由が経済とかじゃなくて、イクリプスとかいう物理的にアカン脅威で。対応できなくなってイクリプスが暴れ回るのは勿論最悪だけど、隠蔽しきれないとかでも世界的なパニックになる案件だぞイクリプスって。


「だから私たちが派遣されたんです! イギリスを救う為に!」

「そ。私たちと向こうの皆で協力して、なんとか大規模は乗り切って。そのあとは、私と夏鈴も向こうのローテーションに混ざって、頻度が下がるのを待った。で、落ち着いたから漸く私たちも帰ってこれた」

「なるほどねぇ」


 応援使ってピンチをなんとか凌いだ訳か。先輩という日本の最高戦力の一角を送り出したあたり、マジでのっぴきならない状況だったんだろうなぁイギリス。

 ……ん? でも待てよ?


「ちょいちょい。疑問なんだけどさ、向こうの方って戦姫以外にも戦姫と戦える奴いるんでねぇの?」

「何でだ?」

「いやだって、ヨーロッパって魔法とかの本場でねぇの? 現実ではそうなのかは知らんけど、伝承とかを見る限りだと魔法使いとか多いんでね?」


 あの魔法小説の金字塔の舞台になるぐらいには、ヨーロッパ周辺は神秘が浸透している土地だ。火のないところに煙は立たないとも言うし、そういう伝承が多く残るには相応の理由があって然るべきで、つまりその手の人種が結構な数いるのではないかと考えた次第で。

 何か利権やら伝統やらで関係性はよろしくないとは聞いてるけど、明らかにウダウダ言ってられる状況じゃねえし、他国に頼るよりそっちから人員引っ張ってきた方が絶対早いだろ。


「それね……」

「仰る通りなんですけどねぇ……」

「それができれば苦労は無いというかな……」

「それは確かに理想的だね。あくまで理想だけど……」

「現実はままならいんですよ、歩さん……」

「おk。その反応で無理なのは理解はした」


 戦姫全員で遠い目をされたらね。多分天地が逆転するぐらいにありえないことなんだろうね。


「イクリプスなんて外敵がいても人間は団結できんのか……。流石は人類を殺してる生物ランキング第二位」


 因みに一位はモスキートさんらしい。アレはもうイクリプスに並ぶ人類の天敵だと思う。まあ、そういう生存競争とかでなく、種族目線での壮大な内ゲバを有史以前から引き起こしてる人間の方がどうしようもないのだけど。


「そりゃまあ、人間なんてそんなもんだわな」

「あとは単純に、イクリプスが相手だと普通の術者や能力持ちだと相性が悪いってのもあるね」

「んあ? 確か前に、そういう家柄の奴らが勝手にイクリプス狩ったりしてるって言ってなかったっけ?」


 基本的には非協力的な癖して、ボランティアを謡って対策局の領分にズカズカ入り込んでるとか、そんなクソ面倒ムーブをかましてきてると聞いた気がするのですが。


「そりゃ術者の中でも上位の連中だな。単純に地力が高かったり、強力な魔道具を持ってたり、聖遺物レリックの契約者だったり。そういうひと握りの奴らしかイクリプス、特に上位の個体とは戦えねぇんだ」

「何で? 魔法は魔法なんじゃろ?」

「対イクリプスで必要となるのは、結局のところ魔力出力だからだね。戦姫の場合は、最新科学を筆頭に手当り次第色んな技術でブーストしてるからなんとかなるんだけど、術者の【術】はどっちかというと相性とか属性を利用したテクニカルな性質のものが多いんだよ。だから対イクリプスって意味だと相性があんまり良くないの。アイツら異次元からの怪物だけあって、【五行】とか【四大元素エレメンタル】とかの概念の外にいるから」

「はえー」


 つまりはアレか。戦姫は火力正義の初期の対戦しない『ポ〇モン』みたいなことをやってて、逆に術者の方は最新寄りの『ポケ〇ン』のランクマみたいなことをやっていると。

 で、イクリプスは弱点無し+追加効果無効+変化技無効+HP換算でダメージ80以下無効のクソポケなので、レベル固定気味のランクマ勢の大半の術者は相性最悪。逆に高レベかつ小学生の技構成みたいな火力正義のレトロストーリー勢たる戦姫は相性が良いと。

 いやまあ、わざわざ【魔導】なんてもんを新たに開発してる辺り、従来の術の類では対処が難しいのだろうなとは思ってたけど。


「まあ、術者でもやろうと思えば触媒使ったり、儀式系の術を使えば火力自体は出せるそうですが。前者は費用が嵩みますし、後者は時間が掛かって戦闘では現実的じゃないんです」

「なるほど」


 だからひと握りの上位者、単純に火力も優れた術者じゃないとイクリプスとは戦えない訳か。他に魔法使いとかいるのに戦姫が『人類の希望』扱いされてるのか不思議だったけど、そんな理由があったのね。

 ……たださ、それ違う部分で不穏な気配が漂ってる気がする僕だけですか?


「はい質問」

「ん。何?」

「平均的な術者と平均的な戦姫はどっちが強いんです?」

「戦姫。単純に火力が違う」

「高位の術者と平均的な戦姫は?」

「……術者。火力は並の戦姫以上で、それでいて手札も豊富。戦姫よりも対人経験が豊富な場合も多い」

「高位の術者と高位の戦姫は?」

「……一概には言えないけど、Aランクの戦姫と高位術者なら……術者。Sまでいくと戦姫の火力も洒落にならなくなるから、完全に相性。でも術者側がレリック持ちの場合は術者」

「ほうほう……」


 先輩の答えを纏めると、平均的な戦力では戦姫有利。しかし、上位の戦力的には術者側が対人経験や手札の関係で若干有利気味と。


「……ええんかコレ? 半敵対派閥みたいな奴らの方が戦力的に優勢な気がするんやけど。各国の戦姫陣営、内ゲバったら押されない?」

「いやいやいや! 何でいきなりそんな話になってるんですか!? 人類の脅威を前にして、流石にそんなことは起きませんよ!」

「でもそんな人類の脅威を前にしても、非協力的な姿勢貫いてるのが現実じゃん。そこは木崎さんも否定してなかったじゃん」

「うっ……」


 普通、共通の敵が出てきたら相性とか関係無しに協力できる筈なんよ。しかも上位の実力者なら相性云々もどうにかなるんじゃろ? それでも今回、イギリス政府は日本の対イクリプス組織を頼った訳で。その時点でもう、少なくともイギリスの方では『術者陣営=現時点で敵対してないだけの潜在的敵』でファイルアンサーだろコレ。


「話を聞く限りだと、マジで本格的な衝突が現状起こってない理由、『バックに国がいる』と『イクリプスの処理をぶん投げたい』ってだけでは? 何かのバランス崩れた途端、一気に暗闘が始まりそうで笑えねぇんだが」

「大丈夫大丈夫。そんなの世界中の戦姫たちが常々思ってることだから」

「全然それ大丈夫じゃねぇ……」


 前々から思ってたけど、マジでこの世界って事実は小説よりも奇なりというか、砂上の楼閣の上に【平和】が成り立ってるんだなと。

 正真正銘の全生命の敵のイクリプスに、半分敵みたいな頭の固い術者陣営。前門の虎後門の狼ってこういうことを言うんだろうなぁ。はぁ、本当にクソですねお疲れ様でした。




 ーーーー

 あとがき

 お久しぶりでございます。モノクロウサギです。

 まずは更新が遅れたことに謝罪を。何か気まぐれで書き始めたもう一本がエグいことになりましてね……。そっちに集中してしまいました。あとはワクチンの副反応(現在進行形)でダウンしてたりとかで、こんなに遅れちゃいました。ごめんなさいね?

 ……いやはや、にしてもマジで一瞬で抜かされましたなコッチ。もう笑うしかねえっす。コッチももう一本程じゃなくても伸びてくれると良いんですが。マジで主人公が癖強いからな……。好み別れるよなと思いながら書いてます。同じように伸びてくれればペース配分を均等にするのですが、ここまで差があるとどうしてもコッチの頻度が下がってしまうので、そこはご了承くださいm(_ _)m。

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