第35話 やべぇ奴の苦手な戦姫

《side東堂歩》


 片方は性格の相性的に、もう片方は雰囲気的に若干の苦手意識が湧いてしまったのだが、まあそれはそれだ。まずは挨拶。挨拶は大事。古事記にもそう書かれている。まあ僕たち別にNINJAでもなんでもないけどね。


「どもども。わてくし、新たに現場職員となった東堂歩と申しますですわ。よろぴこ」

「……え、あ、はい。木崎夏鈴です」

「えっと……よろしく? 日暮ノア」


 礼儀正しくペコりと頭を下げたところ、どうしてか凄く戸惑った反応が返ってきた。何故だ。挨拶しただけだろう……!?


「ちょっとアユくーん? 初っ端の自己紹介から意思疎通が不安になるようなチャンポン言語止めてくれる? 二人はキミのキャラを全く知らないんだからさ。せめて最初はちゃんと擬態してよね」

「え、俺そんな変なこと言ったか?」

「自覚無しはマジでヤバいから頭の病院行こっか」

「ジョークに決まっとろうが」


 流石に今の挨拶が自然と思う程に言語中枢は狂ってねぇよ。だからそんなガチの真顔すんなアクダマ。


「……えっと、その……変わった方なんですね?」

「言葉を選ばなくて良いぞ夏鈴。見ての通りの狂人だから安心しろ」

「安心する要素、ないよね?」


 ……何かアクダマと話してる間に二人からの警戒レベルがグングン上がってるのですが。やっぱり最初は猫かぶっといた方が良かったか? でもどっちにしろバレるしなぁ……。

 と、悩んでいたら時音ちゃんがズイっと前に。そうだった。俺には頼れる味方が一人だけいた。頑張れ時音ちゃん! 是非俺のことをフォローして二人の警戒レベルを下げてくれ!


「あの、本当に大丈夫ですからね? 確かにちょっと変わった人ですけど、歩さん凄い頼りになる人ですから! 全然心配する必要はないですよ!」

「……? 時音ちゃん、やけに東堂さんのフォローに熱入ってません?」

「何か、変……?」

「いや、気のせいだと思うよ。最近の彼女は大体こんな感じだからネ!」


 ゴメンやっぱり別の地雷が起爆するから時音ちゃんあんまり頑張らないで? ……味方すらこういう方面じゃ信頼できないって辛くね?


「いやにしてもスマンね。笑って貰おうと思っただけのちょっとしたジョークだったんだけど、余計に警戒させちゃったみたいで。どうも俺のセンスはズレてるみたいだ」

「ズレてるのはセンスじゃなくて存在そのものだろ」

「イクリプスとも別枠の異次元の使者でしょアユ君」


 何か横からツッコミが入った気がするけど、ここで化けの皮が剥がれるのは困るので仕方なく無視。


「まあ、兎も角だ。今後は一緒に戦う仲間な訳だし、よろしく頼むよ。現場職員の中じゃ一番年齢も近い訳だし、是非とも良い関係を築いていきたいね」

「え、あ、はい! よろしくお願いします! すいません何か気を遣わせちゃって!」

「うん、よろしく。変なことしないのなら、仲良くするのもまあオッケー」


 うむ! 爽やか好青年っぽい感じでいったら、どうにか警戒レベルを下げてくれたぞ! まだ打ち解けてはいないが、少なくとも不審者を見る目ではなくなったのでヨシ。目が合う度に警戒させるのはやっぱり面倒だしな。


「それにしても、東堂さん本当にお若いですよね。私たちはほぼ入れ替わりみたいな形だったので詳しくは知りませんが、確か学生さんなんでしたっけ?」


 警戒レベルが下がったお陰か、早速とばかりに木崎さんが話し掛けてくれた。向こうもなんとか打ち解けようとしてくれているのが分かる。


「そそ。石瓦高校って私立の二年よ。何か帰ってる途中で猫型のイクリプスに襲われてさ。それ返り討ちにしたらスカウトされたのよね」

「……何か、今変なワード入った?」

「そこに関してはマジで気にするなノア。コイツの異常性を気にしてたら身が持たんぞ」

「私たちの学校の系譜、じゃないし。野良の能力持ち?」

「そんな感じだ」


 ……待って。横の姐さんと日暮さんがすげえ気になる会話してるんだけど。


「ちょい失礼。日暮さんの台詞的に、もしかしなくても皆ちゃんと学校通ってる? てかそもそも、戦姫って学校どうなってるの?」


 何か凄い今更なんだけど、その辺りの事情ってどうなってるの? 何かちょくちょく何年生とかそんなワードは出てはいたけど、ぶっちゃけキミらマトモに学生生活送ってる気配なくない?


「あ、そっか。アユ君は一般の出だからこの辺りの事情は知らんのか。簡単に言うと、裏の世界に身を置いてる住人専用の学校が全国にあるんよ」

「アタシらみたいな戦姫や、術者の家系の子供が主に通ってるんだ。そこで一般常識やら、裏の事情などを教わったりする。……と言っても、実際は表で通用する学歴を獲得する為の意味合いが強いがな。出席日数とか単位とかすげえ融通してくれるし」

「因みに、表向きは宗教系の学校法人で通ってますね。ただ魔導や魔法込みの情報規制がガチガチにされてるので、一般の方が耳にする機会は滅多にありません」

「はぇー……」


 そんな便利な学校があるんだな日本って。ていうか、こっちの事情は聞けば聞くほどにアレだよな。事実は小説よりも奇なりというか、思ってた以上にファンタジーしてるというか。


「ついでに言うと、私と奏はクラスメート」

「へぇ。日暮さんと姐……へぁっ!?」


 ナチュラルに飛んできた爆弾発言のせいで変な声が出た。……クラスメート? 姐さんと日暮さんが? この日本人形型のロリが?


「……念の為にお尋ねしますが、お幾つで?」

「十八」


 まさかの姐さんよりも年上だったでござる。いや単に誕生日の関係なんだろうけども。それにしたって十八とかマジか。雰囲気的にワンチャン年上かもとは思ってたけど、本当に年上だとマジで反応に困るな。


「……にしてもガチの合法──」

「それ以上言ったら殺すよ後輩」

「ア、ハイ」


 ガチトーンかつこれまでの口調が変化したので、日暮さんに合法ロリというのはマジの禁句なのかもしれない。……それはそれとしてドスがあり過ぎるのですが貴方様って正義の味方ですよね?

 因みに、この会話で俺の中の逆らってはいけない人ランキングのトップが更新されました。まず間違いなく怒らして一番怖いのは日暮さん──いや先輩である。普段の言動的には姐さんが上っぽいけど、先輩の場合は雰囲気的にも逆らいがたい何かを感じる。……というか、物理的に逆らいがたい状況になっている気がするのだけど。具体的に言うと、首にピアノ線みたいな何か巻きついてたんですが。こう、首周りに輪っかの状態で『シュンッ』て現れて、そのままキュってしまったのよ。


「……これ、状況的にもしかしなくても先輩の魔導ですよね?」

「うん。私、糸使い。東堂、失礼なこと言ったから教育」

「何この人怖い」


 合法ロリの一言で絞殺しようとしてくるとか、マジでやべぇじゃねえかこの呪いの日本人形。しかもこの糸、魔導由来なのか全貌が全く見えねぇ。何かに引っかかってる感じはあるんだけど、糸の先が不自然な感じで途中から消えてるせいでまるで分からん。もしかしなくてもこれ、障害物無しの拓けた場所だろうが関係なく漫画とかの糸使いムーブができる奴だな?

 ……てか、この組織さ。オッサンやアクダマみたいに、殺意無しで雑に殺しに掛かってくる奴多過ぎない? 特殊な力もった裏組織がそれで良いのか本当に。


「一応補足しておくと、ノアは関東支部のNo.1だぞ。ランク的にはA+。限りなくSに近い日本でも五指に入るトップ戦姫だ」

「それ生殺与奪の権を握られてるこの状況で言います?」


 その補足はただの恐怖演出なんよ。




 ーーーーーー

 あとがき

 遅れました。……いや、新作書くのがちょっと楽しくなっちゃって、つい。今後は二つを気分で並行して書いていくので、ちょっと更新頻度が落ちるかも。

 ……それはそれとして異世界物ってやっぱり強いッスね。まだ3万文字ちょいなのに段々フォロー数がこの作品に追い付いてきてるもん。


 まあ、一応は宣伝しときます。本作のアクの強い狂人主人公に胸焼けしたら、気分転換にどうでしょう。

 ものぐさ系最強主人公の王子様がお隣の最強国家で優雅で怠惰な捕虜(名ばかり)生活を送る話。


【怠惰の王子は祖国を捨てる〜捕虜から初める退廃生活】


 読んでね! あとこっち含めて☆とハートくれると作者が喜ぶよ!

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