第34話 やべぇ奴と新たな戦姫たち
《side東堂歩》
新たに生み出した技でゼンダマをボコり……もとい投げまくることはや5分。手も足も出ないというゼンダマの叫びと、見ていて憐れ過ぎるという観客(姐さんと時音ちゃん)の制止により、ゼンダマとの模擬戦は俺の勝利という結果で幕を閉じた。
いやはや。こんな風に適当にバトって遊んでたり、それこそ仮眠室で爆睡かましてたしりても、出勤さえしてれば大金が転がり込んでくるのだから堪らないよなぁ。普通に現場職員の道に進んでたらこうはいかないだろうし、戦姫相当というのは本当に良い立場である。神崎さんには改めて感謝の念を送っておこう。
「意味分かんない! 何あれ本当に意味分かんない!! 何で遠くで睨み合ってる状態で地面に何度も叩き付けられなきゃなんないの!? 理不尽過ぎるんだけど!?!?」
尚、横の方では遊び半分の俺にボロ負けしたゼンダマが猛抗議を行っている模様。
「俺はそっちのオーダーに応えただけなんやが?」
「実現されると思ってなかったんだけど!?」
「おい待てどういうことだコラ」
つまり無茶振りしてた自覚あるってことだなそれ? ただただ俺を困らせようとしたってことだなそれ? はいアクダマ降格ー。
「……でも、実際アレどうやってたんですか? 」
「時音。聞いたところで理解できねえから質問するだけ無駄だ」
「断定が酷い」
折角の時音ちゃんの質問を、真横から姐さんがバッサリとぶった切った。なんて酷い先輩なんだ。
「今回はそんな難しいことやってないんだけどなぁ」
「魔導も無しに人間はそんなことできねえんだよ」
「やられた身からすると一切意味分かんなかったんだけど。それが難しくないとか基準ガバガバ過ぎない?」
と、常識人枠の姐さんと被検体のアクダマは宣う訳ですが。実際のところ、今回のはマジで簡単というか、前の【グララララ】みたいな俺自身も良く分かってない謎物理は働いていないのだ。だってアレは究極的に言うとただの反射だし。
「しょうがないにゃあ。そんなに言うならネタばらしをしてやんよ」
「あ、お願いします」
「いや。別に頼んではねえが」
「……まあ、やられた身としては気にはなるけど。それはそれとしてその顔はムカつく」
「取り敢えず、素直な時音ちゃんを見習え二人とも。特にアクダマ」
良いから黙って説明きいてろっての。……あ? 何故わざわざそんな語りたがるかって? 俺みたいなオタクはそういうのが大好きだからだよ。明らかに不利になるのに能力の解説するキャラとか良いよね。
「アレは簡単に言うと──」
「木崎夏鈴と日暮ノア! ただいまイギリスから帰還しました!三人ともお久しぶりです!」
「ん、帰ったよ」
「……んー、タイミングぅ……」
意気揚々と解説しようとしたところで、謎の乱入者たちに邪魔されてしまった。何かほんの僅かに聞き覚えのある声なんだけど誰だっけ?
そんな風に一瞬浮かんだ疑問に意識をもってかれたのが悪かったのか。次のタイミングには俺の周りにいた筈の三人が乱入者たちの方へと。置いてかれましたねこれ。あと、解説の機会が完全に流れましたね。
「夏鈴さんにノアさん! 戻ってたんですか!?」
「うん。ちょっと前に戻った。神崎さんにはもう報告済み」
「おー。遠征お疲れー。どんなんだったー?」
「色々と大変でしたけど、なんとか怪我なく帰還できました!」
「そうかそうか。無事でなによりだな」
かしましく騒ぐ女性陣に対して、完全に俺は蚊帳の外になっていた。なにせやってきた二人の少女は、今さっき思い出したのだけど海外遠征に行ってたという戦姫の二人。つまり顔をチラッと見ただけの相手であり、俺の方から進んで声を掛ける程の関係性は構築されていないのだ。別に声を掛けてもいいっちゃいいけど、再開を喜び合っている状況で割って入るのはちょっとハードルが高い。
故にこそ、共通の知り合いである三人に紹介をして貰いたいのだけど……明らかに久々の再開で会話が終わりそうもない。普段は素っ気ない姐さんですら楽しげに会話を交わしているのだから、やはり女子というのはかなり確率でお話好きな側面があるのだろう。
「……ふむ」
……とはいえ暇だ。まさに女性と行動中によくある待ちぼうけ状態。虚無の顔で家電でも見つめておけば買い物に付き合わされたお父さん的なロールプレイもできるのだが、トレーニングルームにそんなものは当然ない。なんなら時間潰せる万能ツールの携帯も無いから余計に手持ち無沙汰だ。……奇抜な動きでもして無理矢理気を引くか? いやだめだな。アクダマにクソ程煽られる未来しか見えねぇ。
仕方ないので、こっちに気付くまで新たな戦姫二人の観察でもしようか。
木崎夏鈴。僅かに茶色がかったような明るい黒髪を……ショートボブ? まあ、なんか短い感じの長さにしてるスポーティーな印象を受ける少女。戦姫の例に漏れず類まれなる美少女であり、男子にも気安そうな雰囲気の為にえげつない人気を誇りそうな娘だ。年齢は見た目の雰囲気的に時音ちゃん以上で俺やアクダマよりは下かね? ワンチャン同い年の可能性もあるが、取り敢えず暫定高一扱いで。性格はまだ殆ど交流が無いので断言はできないが、遠征前にチラッと見掛けた時の印象では、正義感に燃える熱血主人公タイプだった気がする。『困ってる人たちは私が救ってみせます!』みたいな、人助けに凄い熱を上げてる感じの会話してた記憶があるし。
とまあ、そんな感じの印象を踏まえると……なんというか、うん。これから交流を進めるであろう同僚にこんなこと感想を抱くのはアレなんだけど、俺とは相性が悪そうなタイプだと思う。受け答えの時点で伝わる善人気質って言うんだろうか? 素直そうだし日常ではさしたるすれ違いは起きないだろうけど、戦闘時とかのシリアス系の場面ではギスりそうな気がする。だって俺がふざけるから。……いやまあ、全てはこれからの交流次第なんだけどさ。
日暮ノア。木崎さんとは色んな意味で対照的な少女。鴉のような濡羽色の黒髪を背中まで伸ばした、深窓の令嬢……いや文系少女……違う。凄い小柄な体格も合わさって、超丁寧に飾られてるお高い日本人形みたいな少女だ。凄い美少女ではあるんだけど、端的過ぎる会話傾向や独特の雰囲気が合わさって、木崎さんとは違って『近寄り難い』と周囲から完全に距離を置かれるタイプだろう。年齢は不詳気味だ。見た目的には時音ちゃんよりも明らかに下、下手すりゃ小学生と言われても違和感のないロリなのだが、妙にミステリアスな雰囲気が合わさって俺やアクダマと同い年と言われても何か納得しそうになる。流石に年上ってのはないだろうけど……ないよね?
以上の印象を踏まえると……マジで日暮さんだけ相性が読めない。アクの強い戦姫の中でも感じる濃さはトップクラスじゃね? 大丈夫? 実は精神にラスボス相当の存在宿ってたりしない?
「──あっ、そうだ! そういえば歩さんを紹介してませんでしたね!」
一通りの観察が終わったタイミングで、時音ちゃんがそんな声を上げた。漸く想い人が蚊帳の外にいることを気付いたようだ。それってどうなの乙女として?
というか、地味に今の観察のせいで苦手意識みたいなのが生まれてしまったんだけどどうしよう?
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