第29話 やべぇ奴の職場関係 その二
《side東堂歩》
腕の中で時音ちゃんがあかん具合に悶え、それでも尚不退転の覚悟で筆頭ハゲを煽り。
「……ねえ何で俺こんなハゲの為に社会的名誉をチップに掛けてるの?」
「知るか!!」
ふと我に帰ってしまい全てが嫌になった。何やってんだろ俺。吐きそう。
「……そこで素に戻るあたり本当に煽りレベル高いよねアユ君……」
「……マジでそのうち人を憤死させるんじゃねえの?」
「……本当にコイツは……!!!」
真横でドン引きしてるアクダマと姐さんは兎も角。更に言うなら筆頭ハゲは眼中に収めず。兎にも角にも冷静になった今、やるべきことは腕の中のポン犬の対処である。
「……取り敢えずゴメンね時音ちゃん。何か乱心したわ」
「ひ、ひえ、らいじょうぶれふ……」
「大丈夫じゃないですねコレ」
もう呂律が回ってないもの。自分からトラバサミに突っ込んできた気がしなくもないけど、その後にやらかした身としては気まずいことこの上ないなコレ。
「しゃーなしかの。よっと」
「ひゃっ!?」
という訳で、腕の中で伸びてる時音ちゃんを横抱きに抱えて立ち上がり。そのまま適当に足で周囲のイスを集めて、アクダマの横に並べる。
「はいちょっと失礼」
「んにゃ!? ちょ、何!?」
で、最後にアクダマのイスを引いてスペースを確保して、時音ちゃんをセット。
「良し。ちょっと横になってなさい」
「……ふぁい……」
「いや良しじゃないが。何勝手に人の膝を枕にしてんのさ」
「パイプ椅子に直置きは可哀想だろ。先輩なんだからそれぐらい面倒みてやれよ。ほら後輩フラッフラじゃねえか」
「原因はアユ君だよね?」
「何なら最後のお姫様抱っこでトドメ刺したまである」
「んなこと言われてもしょうがないでしょう。俺がやったら逆効果なんだから」
俺が膝枕したら余計に茹だるぞこのポン犬。幾らそっち方面に疎くてもそれぐらい分かるから。
「……しょうがないなぁ。貸し一だよ?」
「はいはいゼンダマ昇格おめでとう」
「……待って本当に呼び名コロコロ変わるの? それはそれで落ち着かないというか、好感度みたいなのが如実に現れてて凄い微妙なんだけど」
ゼンダマさんが何か言ってるけど聞こえない。時音ちゃんの処置が終わった時点でこの件はシャットダウンです。
「さて。これで時音ちゃんの方はOKね。ほれ筆頭ハゲ。いかがわしい(笑)こと止めてやったからとっとと消えな。シッシッ」
「……ッ、本当に貴様は……!!!」
絡んでくる理由を無くしてやったんだから失せろと言ったのに、筆頭ハゲは身体を震わすばかりで動かない。聞き分けの無い人ってやーね。
「んだよ。まだ用あるんか? 聞く気ないから話しても無駄やぞ」
「……うわぁ。凄い取り付く島もなくて一周まわって笑えてくるんだけど。良くこれで人間関係に悩んでるとかほざいたねアユ君……」
「そこまで露骨なの止めろよなぁ。アタシらにもなんとかしてくれって相談来てんだぞ……」
いや、んなこと言われても。初対面で喧嘩売ってきたのこのハゲの一派だし。
「因みに相談ってどんな内容? 俺の態度改めさせろとかそういう系?」
「違ぇよ。人の好き嫌いは仕方ないけど、せめて表だってギスらないように説得してくれって内容だよ」
「じゃあ良いや。その感じだとハゲの一派じゃなさそうだし」
「何でそこは寛大なんだお前は……」
いやだって、ハゲの一派じゃないってことは、初対面から人に喧嘩吹っかけてこなかった人たちでしょ? こういうとアレだけど、俺って他の現場職員の人たちには普通に接してるよ? 勿論、敬語使って上司として敬ってるとかそんな感じの態度じゃないけど、そういうとこさえ目を瞑れば極めて普通の間柄よ?
「一応言っておくがね、俺基本的に人当たりはええんよ? ここに入った当初だって、フレンドリーなキャラだと思って貰う為に軽口とかで場を和ませてたんよ?」
それなのにこの筆頭ハゲは、初っ端から『ここは命懸けの職場で学校じゃない。学生気分でいられると迷惑だ』とか、そんな感じの説教してくるし。他のハゲどもも二・三喋った途端に似たような感じのことをグチグチとね。
「何かミスした訳でもないのに、いきなり説教やら文句やら言われれば、そりゃ普通にキレるっての」
「……まあ、うん。アユ君とバチってる人たち、割とお堅い面子だからね。そこは仕方ないとスルーしようよ」
「実際、言ってることは間違ってねえからなぁ。命懸けなのは確かだし。そこにお前みたいなヘラヘラした奴が入ってくれば、釘の1つも刺したくなるだろ」
「味方がいないとは思わなんだ」
あれれー、おかしいなぁ? 戦姫ってフリーダムだしこっち側だと思ったんだけど?
「お前ほどぶっ飛んでねえんだよ」
「多少なりともぶっ飛んでる自覚はあるのね」
まあ、そうでなきゃこんな仕事やってられないか。
「兎も角よ。俺としては喧嘩売られたから買っただけな訳。んで、いきなり喧嘩吹っかけてくるような奴らを好きになれるかって言う話よ。ましてや向こう側もあからさまに俺を嫌ってるんだべ?」
そりゃもう分かり合う可能性はゼロでしょうよ。嫌悪と嫌悪はぶつかるしかないんだよ。
「いや違ぇよ。分かり合うとかそういう話じゃなくて、ことあるごとに煽るな絡むなって話だよ」
「向こう側が態度に出してくるからしょうがない」
「駄目だコイツどうしようもねぇ……」
売られた喧嘩は買う主義だからね。仕方ないね。
「……加藤さん。凄い申し訳ないんですが、コイツは見ての通り何言っても聞かないクズなんで。どうかここは一つ、そちらが大人の対応でスルーを決め込むようにして頂けると……。自称ですが、態度に出さなきゃ何もしないと言ってるんで。悪いのは百パーコイツですが、周りの為にここは是非」
「HAHAHA。姐さん、そんなこと言って聞く奴らは最初から絡んでこねぇよ」
「てめぇは黙ってろこのイカレ屑クソ馬鹿野郎が!」
「え、罵倒長くない?」
そこはせめて一個に絞りません?
いやでも実際、そこでスルーできるようなタイプなら初対面で説教たれたりしないだろ。この一派頭ガッチガチの岩石ハゲどもだぞ。
「……はぁ。周囲から苦情が出てるのは承知している。だがそれ以上にコイツの奇行が目に余るというのが、私を含めた皆の意見だ」
予想通り、筆頭ハゲの返答はガッチガチのお堅いものだった。
「ほら。やっぱりこの石頭たちに何言っても無駄だよ。つまり衝突は不可避」
「──が、それはそれとして一度この関係性をリセットしたいとも思っている。その上でこの先どうなるかは兎も角、少なくとも私たちの最初の認識が誤りであったことは認め、謝罪しよう」
だがその上で、筆頭ハゲはこちらに深々と頭を下げてきた。しかも謝罪が一派の総意であるという言葉付きで。
「え、何急に怖いんだけど……」
険悪な相手からの脈絡のない謝罪は、非常識を自負している俺をしても戸惑うものだった。いや、普通に気味悪いってのが感想である。
そして当然ながら、俺以上に常識的な戦姫二人には正しく晴天の霹靂であった。
「……加藤さん? もしかして体調悪かったりする?」
「休憩ってのも、そっちの意味だったり……?」
「いや、そういうことではない。だからそんな未確認生物を見るような目を止めてくれ」
筆頭ハゲはそう言って苦笑を浮かべ、心配そうに見つめる姐さんたちを宥める。
……ふむ。ここでいい大人が美少女たちを前にええカッコをしてると揶揄うのも有りだが。流石に脱線が過ぎるかね? それに曲がりなりにも謝罪を主張している相手に、それはどうかと思わなくもない。
いや、別に謝罪されたら全てを許そうとは思ってないし、話を聞く義理もないんだけど。どっちかと言うと『謝って済むなら警察はいらない』派だし。基本的に謝罪はパフォーマンスぐらいにしか感じないタイプだ。まあ、状況にもよるけど。
とはいえ、ここで変に煽って話が流れるのもアレだ。単純にどういう経緯で今に繋がったのかは非常に気になる。
「……なーるーほーどー。うん、良いだろう。少し興味は湧いてきた。話ぐらいは聞いてやるから、取り敢えずそこ座れや」
「……コイツ途端に偉そうになったな……」
「……私だったら謝罪する気失せるなコレ……」
「え、マジで? それだと気になって夜しか眠れないから止めて欲しいんだけど」
「「素で言ってたんか……」」
「……取り敢えず、相席失礼する」
ん? ああ、どうぞ。
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