第27話やべぇ奴の恋愛事情

《side東堂歩》


「で、なんちゃって戦姫ってのがどういうことかと言うと」

「ヘイヘーイ。どうしたアユ君。一旦シャワーで中座したからと言って、さっきの話題は終わってないよ?」

「終わらせてくんねぇかなぁ!?」


 本人も理解していなかった真意を指摘され、小森さんが逃亡し。その捕獲ついでにシャワーということで三人が離席。その後、休憩室で話の続きとなった。

 で、さっきまでの個人的に極めて遠慮したいセンシティブな話題だった為に、本題である俺の所属について自然に移行としようとしたのだが、そうは問屋が卸さないと環さんが蒸し返してくれやがりましたとさ。ちくせう!


「いやもう、ぶっちゃけアユ君の所属とかどうでも良いんだよね。さっきチラッと考えてみたけど、こっちで自由にできる対イクリプス戦力が欲しいって感じでしょ? 神崎さんとかよく零してたし」

「折角の本題を容赦なく暴いていくのやめてくれません!?」


 これだから本質インテリジェンスな人間は! 予想で簡潔明瞭に正しい解答ぶっ込んでくるんじゃねえよ! 逃げ道無くなったじゃねえか!


「ていうか、マジで何でそんな頑ななの? アユ君もしかしてガチ初心?」

「そそそそそんなんじゃねえし!?」

「ほう? ネタに走った……フリをした割とガチめな反応な気がするな? まさか意外な弱点発覚か?」

「姐さんも容赦ねえな!?」


 そういう分析やめてくれませんマジで!? 変なフィルター掛かるから何言っても裏目に出るんだよ!


「……ああもうっ! しゃーないから白状すると、こういう話題の当事者になるなんて思ってなかったんだよ! 俺ずっとこんなんだし」


 恋愛とか完全に外野で楽しむものと決めつけてた人生なんだよ。だから色んな意味でむず痒いってのが本音で、こんな話題で中心にぶち込まれると落ち着かねぇんだ。


「お、つまり初心って認めたな?」

「……いや、正直どうなんだろうな。心理的にそれを認めるのは勿論嫌なんだが、それ以上にマジでそっち方面は管轄外って認識が強過ぎる。俺が面白おかしく生きてく上でそういうイベントは存在しないって思ってたし。なんだろう? AIが心を理解しようとしてるみたいな気分」

「おっと? 何かあっさり白状したかと思えば、予想以上にガチトーンかつ斜め上の答えが返ってきたよ? え、まさかアユ君初恋とか経験ない?」

「……キャラ萌えなら?」


 二次元は素直に可愛いと思ったキャラは結構いるよ? でもリアルは……うん。ぶっちゃけガワは良いと思ってもそれ以上は経験無いっすねぇ。だって絶対に俺と合わねえもん。

 ということを二人に伝えたところ、ドン引きした様子で揃って頬をひくつかされた。


「……奏。これ多分ガチな奴だ。初々しいとかというより無垢な部類だ」

「……なんだろうな。知識も理解もしてるんだろうが、明らかにそれだけだな。その範囲に自分が入ってねえ。肉好きがベジタリアンを見たみたいな目をしてやがる」

「ああ、うん。その例え超しっくりする」


 異文化。そうそれだ。俺にとって恋愛云々って異文化なんよ。外野で眺めてる分には楽しめるし、そうなってる相手を尊重することはできるけど。自分はその文化に染まることはできねぇなぁって、心の奥底から思ってるというか。大多数の日本人がどっかの宗教の敬虔な教徒を理解できないのと同じで。だからこそ強要されたり話題に混ぜられたりすると、異様に居心地が悪くなるというか。


「……因みに訊くけど、アユ君って性欲ある?」

「なんだセクハラか? 普通にあるわい」

「……だよね。さっきも普通に私たちの容姿とか褒めてたし。それなのに恋愛感情は分からないんだ?」

「性欲と恋愛感情は違うと断言できるな」


 むしろ、そういうのを理解できないからこそ言える。男の性欲なんて適当にオカズ見繕ってれば解消されるんだよ。そこに複雑な感情なんてねえ。単純にピンク一色だわ。


「エッチしたいとは思うんだ?」

「さっきからセクハラ質問多くない? ……まあ、童貞をわざわざ守り抜こうとは思ってねえな。成人したら店か何かで適当に相手見繕って捨てるつもりだが」

「……やっぱり初心ではねえなコイツ。かと言って興味無いとかそういうのでもねぇ。今どきこんな奴いるんだな……」

「うん。なんか一周まわって無欲な聖人みたいな印象」


 それはマジで聖人に謝った方が良いと思う。


「うーん。こりゃ時音は前途多難だなぁ……」

「だからそういうの止めろっちゅうに……。なんでそんなしつこいんよ……」

「だって私ら女子だし? 恋バナとか大好物な訳で?」

「ま、こんな面白そうな話題、そういうの関係なくつつきたくなるがな。お前みたいな普段振り回す側の奴が慌ててるだけで価値がある」

「タチ悪りぃ……」


 百歩譲って環さんはまだ良い。なんならその返しは想定してた。でも姐さん、そりゃねえよ。言ってることは分かるけどひっでえよマジで。

 何が酷いって、この二人が面白おかしく突っついてくる度に、俺だけでなくもう一人に対してもクリティカルが出てるところだよ。……具体的に言うと二人の横で茹でダコ状態で机に突っ伏して悶えてる小森さんね。


「……で、そろそろスルーするのもキツくなったんで訊くけど、アンタら可愛い後輩に何した?」

「ん? アタシは普通にさっきの言い合いで思ったことを口にしただけだぞ?」

「私は単純に時音ってアユ君のこと好きなんじゃないのって、色々と例挙げて訊いてっただけだよ?」


 …………。


「……姐さんはまだ良い。だが環テメェは駄目だ」

「呼び捨て!?」

「呼び捨てにもならぁ! お前それやってることほぼほぼ洗脳じゃねえか!?」


 平常心でない相手にそういう刷り込みじみた問い掛けしてんじゃねえよ! どうりでさっきから小森さんの様子がおかしいと思ったよ!


「何か変な悶え方してるなって思ってたんだよ! 最初は変なこと言ってた羞恥で蹲ってるかと思ってたが、その割にはこっそりチラッチラッこっち見てくるなって! しかも妙に熱っぽい目で!」

「気付いてたんですか!? っひゃ!?」

「ほら見ろこの反応! 目が合った途端に引っ込んだぞ!? 明らかに妙な意識してるじゃねえか!」


 顔合わせた瞬間に真っ赤になって再び突っ伏すとか、もう反応が王道過ぎるんよ。マジで頭痛てぇ……!


「さっきまでは違ったじゃん! 上振れ気味だったけどあくまで親愛だったじゃん! お前のせいで好意にまで発展しただろコレ絶対!?」

「……恋愛感情が分からないとか言いながら、そういうのはしっかり把握してんのな」

「あのね姐さん。何度も言うけど『俺自身』が分からないだけで、ちゃんと『恋愛』については知識もあるし理解もしてんのよ。漫画とかでラブコメだって見るし、リアルでも学生やってんだからそういう場面は見たことある訳。それを抜きにしても、この反応で理解できない程に頭は腐ってない。顔すら合わせられなくなってる時点でさっきと違ぇよ」

「そりゃそうか」


 こんなあからさまな反応、さっきまでしてなかったんだぞ。どうしたって小森さんの中で何かが変わったのは察せるっての。で、前の話題からしてそういうことだろ。


「マジで勘弁してくれよ……。そういう悪戯はどうかと思うぞガチで」

「……別に悪戯って訳じゃないんだけど。アユ君が言ってた通り元々感情は上振れ気味だったんだ。あとは切っ掛け次第で時間の問題じゃん」

「開き直りって言うんですよそれは。親愛度が上振れ気味だったのだって、俺が単に命の恩人だったからだろ」


 命を救われればそりゃ多少は好感度だって上がるだろ。でもそれはあくまで一時的で、ほっとけば落ち着いてたよ絶対。


「……いや、どうだろうな。アタシも環の言う通り時間の問題だったと思うぞ? 本人の自覚の有無は兎も角」


 と、思ってたらまさかの姐さんからのフォローが。


「何でよ?」

「お前も察してると思うが、時音は見た目に反してすげえ野生的なんだよ。無自覚な毒舌だって、言い換えれば自分の本心に正直だってことだ」

「……なるほど?」

「で、そんな奴だからこそ多分お前と相性は良い。お前もまた感情、てか本能で生きてるだろ。そういう奴らが顔合わせたら、初っ端で同族嫌悪を起こすか最終的に意気投合するかだ。時音は嫌ってた様子はなかったし、となれば後者なタイプだってこと」


 ……俺と小森さんは意気投合するタイプだったと。まあ、理屈は理解できるけども。


「それとこれとは話が違くね? 恋愛とかとはまた別だろ? 姐さんは男女の間に友情は無い派?」

「んなことは人それぞれだろ。だが、時音に関しては違ぇよ。何度も言うがコイツは野生的だ。だから優秀な男、特にお前みたいな規格外は多分ほっとかねぇ。嫌ってなければ尚更だ」

「……それはもう野生的ではなく獣そのものでは?」

「アホ。男女共に容姿が良い奴に惹かれるのだってそういうことだぞ。その部分が強いってだけでおかしくねぇよ」

「えー……」


 そういうもんかなぁ……? いや、運命とかそういう恋愛(お花畑)思考よりはよっぽど理解できるけどさ……。そんな優秀なオスに集まるメスライオンみたいな思考は人としてどうなの? 単純にそんなイメージを持たれてる小森さんが憐れなんだけど……。


「ま、そうじゃなくても時音は戦姫。人類を守護する最前線で戦ってるんだ。同じ戦場で肩を並べられる男がいりゃ、好感度なんて余程のことがなきゃ下がりはしねえよ。それも自分を逆に守れるぐらいの男となればな」

「……」


 そういう意味で時間の問題だったと言われれば、俺としても黙るしかないぐらいには説得力があった。

 戦姫は普通の女の子じゃない。化け物と戦う戦士だ。イケメン、金持ち、性格の良い男はお呼びじゃないと。そういう普通の女の子が好きそう奴らは、揃って庇護者にカウントされてしまうのだろう。だから戦姫は戦友を、形はどうあれ共に戦える男を求めるというのは、確かに正論かもしれない。冗談ではなく共に戦えるというのなら尚更で。なにせそれが自分の命を救うかもしれないのだから。


「……でもそういうことなら、二人だって俺に惚れるかもしれんよ? 他人事ではねえかもよ?」


 ただそれはそれとして、じゃあしょうがないと素直に引き下がるのは腹立たしい訳で。小森さんのことは嫌いじゃないし、可愛い容姿をしているとも思っているが、何度も言うが俺にとって恋愛なんて異文化。それに巻き込まれるのはマジでしんどいというのが本音。

 そんな気分の元に行った意趣返しだったのだけど。


「いや、お前は性格的に無理。どうやったって友情止まりで恋愛対象外。お前のデタラメが遺伝するとかで、上から命令でもされない限りはまずナイ」

「先のことは分からんけど、その時はその時じゃない? まあ、そうなったら時音にゃ悪いけど美味しく頂くよ」

「オイ。色んな意味でオイ」


 返ってきたのはガチな否定と、なんとも行き当たりばったりかつあけすけな先送りだった。……やっぱり新人の小森さんとこの二人は格が違ぇな。




 ーーー

 あとがき

 堕ちるヒロイン。その経緯がパニック状態での先輩からの洗脳という。そうじゃなければまだ彼女は上振れ気味でも親愛止まりだった。一応、時間の問題でしたが。

 因みにこの手の野生的というか、貞操観念がちょっとズレた感性をもった女性キャラは、KAKE〇U先生という私一推しの漫画家の影響です。

『プリ〇ル』とか『ふか〇ン』とか『クリむ〇』とか面白いですよ。かなり癖があるから好き嫌いはめっちゃ別れるだろうけど。嵌る人は嵌るだろうから読んでみてね!

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