第26話 やべぇ提案の真意

《side東堂歩》


「という訳で改めて自己紹介。なんちゃって戦姫の東堂歩です」

「……相変わらず良く分かんねぇなお前」


 神崎さんから正式な配属が通達されたので、検査が終わった後に俺の所属で特に関係のありそうなメンバー、即ち戦姫ズのところに報告に向かいました。そしたら返ってきたのがこの言葉ですよ畜生。


「姐さん、人が笑顔で挨拶してんのにその返しはどうよ?」

「唐突に模擬戦中のド真ん中に湧いてでなきゃ、アタシだってもうちょいマシな対応してやんよ」

「そこはスマンと」


 いやだって、適当な職員から三人が訓練場にいるって教えられたから顔出してみれば、姐さんと環さんが模擬戦で良い感じに睨み合ってるからさ。ついニュって湧き出てみたくなったというか。


「ちょっとアユくーん! 折角盛り上がってきたのに水刺さないでよー!!」

「ごめんなさい」


 環さんから割とガチなクレームが入ったので、しっかりと頭を下げておく。そういやこの人、バトルジャンキーよりの方だったなと。


「……はぁ。まあ良いよ。その代わり何か埋め合わせしてよ?」

「代わりに俺が模擬戦やろうか?」

「……くそぅ。絶対勝てないって分かってるのに、ちょっとグラつく私がいる。いっぱいハンデ頂戴?」

「環さんのその欲望に正直なところキライじゃないぜ☆」


 あとそのサラッとハンデ求める爽やかな厚かましさも素敵だぜ☆。


「……なんというか、もう東堂さんが瞬間移動じみた現れ方しても誰も驚かなくなってきましたね」

「ふっ。まず瞬間移動ではなく高速移動だと言っておこう。単にキミ達が見えてないだけだ。動体視力鍛えなさい」

「……私って一応、戦闘モードだと拳銃ぐらいまでなら視認できるんだけど」

「因みにさっきのスピードで、大体一秒で五キロぐらい移動できる」

「マッハ十を余裕で超えてるんだよなぁ……」

「そうなんよ。お陰で普通にやったら衝撃波出ちゃうから工夫がいるの」

「違うそうじゃない」


 知ってる。でも取り敢えずあのポーズを。……そんな露骨な舌打ちせんといてよ姐さん。


「で、話を戻すが。なんちゃって戦姫ってどういうこった? お前、確か現場職員で研修してたろ」

「うむ。因みに正式配属も現場職員ではある」

「なんだいつもの妄言か」

「断定までが早いんだよなぁ……」


 普段の言動と言われればそれまでだけども。


「違うんですよ。これ神崎さんから下されたガチの内容なんですよ」

「神崎さんが? どういうことだ?」


 凄いね。神崎さんの名前出したら即効で姐さん信じたんだけど。やっぱり普段の言動って大事ね。

 ま、それはそれとして説明しましょうか。という訳でかくかくしか──。


「あ、ちょい待ち」


 説明しようとした途端に環さんからストップ入りました。え、このタイミングで?


「なんぞ? 話の腰がギックリいったよ?」

「いやさ、多分これ説明からの雑談で結構時間使うし、なんならそのままトレーニングも流れる気がするんだよね。なら一旦シャワー浴びてきたいんだけど」

「あー……」

「それは、確かにそうですね」


 環さんの提案に対して、己の状態を確認しながら頷く二人。言われてみれば確かに、三人は結構な汗を流していた。さりげなく俺から距離を取っている辺り、三人とも自分の状態にアウト判定が出た模様。


「ふむ。盛り上がってたってのは本当みたいやの。俺が来る結構前からトレーニングは始めてた感じ?」

「そう、ですね。今から……二時間ぐらい前ですか?」

「……ああ。そっから相手変えながらぶっ通しで模擬戦してたな」

「なるほど。それなら確かに身嗜みは気になる感じやの。その提案が環さんから出たことには驚いたけども」

「どういう意味かなぁ?」


 そういう意味だよ、この女子力低レベルめ。まだ短い付き合いだけど、それでもそんな印象を持つ程度には普段からズボラだろキミ。


「兎も角! お陰で汗だくなの。ぶっちゃけ腰を据えて話をするのは抵抗あるんよ。幾ら相手がアユ君でも」


 最後の一言いりますかねぇ? 今のディスへの反撃か?


「いやー、悪いね。アユ君的にはこのまんまでいて欲しいのかもしれないけど」

「誰が汗フェチじゃい!」


 んなニッチな趣味嗜好はしてねぇよ!? やっぱり反撃か!? 反撃だな!?


「え。でも漫画とかで主人公が汗だくの女の子『良い匂いするよ?』とか『女の子の匂い』とかって言ってない? フィクション大好きなアユ君なら鵜呑みにしそうだし?」

「いや確かによくある描写だけども! それとこれとは話が別でしょうが!」


 そもそも俺が好きなのはバトル系であってラブコメものは……まあ嫌いじゃないけどさ。


「てか、俺とラブコメ系の主人公を一緒にすんなっての。その気になれば香水、洗剤、石鹸やらと体臭の区別ぐらいできるわ!」

「「「ちょっ!?」」」


 ……何でそこで皆して一斉に距離を取るんですかね?


「待って。待って! もしかしてアユ君めっちゃ鼻良かったりする!?」

「いや基本は人並み。でも研ぎ澄まされば超鋭くできる」


 嗅覚は……まあ野生動物レベルまでは余裕よ。人混みとかだと匂いキツいからそんなやらないけど。


「……ちょっと試しにこの距離から環の匂い当ててみろ」

「待って奏なんで私!?」

「んー、そうさなぁ……」

「いや止めてよアユ君も!?」


 んなこと言われても。姐さんの命令だしなぁ。という訳でくんくんくん。


「……感じからして香水とかはつけてないっぽい。ただ頭の方から柑橘系の香りとバニラっぽい香り……これは柑橘系が整髪剤で、バニラの方はシャンプーかね? あとは身体の方が……メーカー忘れたけど知ってるところの洗剤やの。フローラルなんとかって名前の。で、そこに混ざるバニラっぽい香りがボディーソープかな? あとは普通にあせ──」

「ぎゃあああ!? 止めて止めて止めて!! 待って本当にキッツイし恥ずいんだけど!? そんな詳細に嗅ぎ分けなくていいしてか止めろ!」

「うわマジで当たってるんだけど……」

「……鬼ですか奏さん。いや私としては自分じゃなくてホッとしてますけど」


 命令されてやったら超ドン引きされた模様。ちょっと酷くないですか?

 まあ、それはそれとして思ったこともあるんですけど。


「何か意外な反応やの。環さんって実はズボラだけど、感性の方は結構女の子してる? 身に付ける香りは甘めのバニラ系で統一してるし、そこにアクセントに爽やかな柑橘系入れてるっぽいし」

「アユ君は私のこと何だと思ってるのかな!? そりゃズボラな方なのは自覚してるけどちゃんと乙女ですが!? 人前出る前では身嗜みにも気を使うし、こういうことされるとしんどいぐらいには羞恥心だってあるっての!!」

「そのようで」


 うん。全身を茹でダコみたいにしてる人が言うと説得力が違うね。


「てか地味に釈然としないのは、人の恥ずいとこ探っといてアユ君がめっちゃ平然としてるとこなんだけど!? 何だそんな顔して実は経験豊富か!?」

「突然の容姿ディスは宣戦布告なんだよなぁ!?」


 そこまで言われるような顔ではないんですが!? いや別に容姿を誇ってる訳でもコンプレックスがある訳でもないけども! それはそれとして腹立つんですがねぇ!?


「……ビジュアル云々はさておき、確かに東堂さんって年頃の割にガッツいてないですよね。私がエッチさせても良いって言ったのに、アレ以降何の音沙汰もないですし」

「え……。待って時音お前そんなこと言ったのか? 正気かオイ」

「姐さんの言い方には遺憾の意を表明したいけど、こればっかりは同意です」


 恋愛対象どころか同じ人間としてすら見られてないようなニュアンスだったのは引っかかるけど、それ以上に小森さんの台詞は正気じゃないので置いておく。というか、人が無かったことにしてた話題をサラッと蒸し返してこないでマジで。


「だって東堂さん命の恩人ですし」

「その『だって』はおかしいんだよなぁ」

「いやいや。東堂さんだから大丈夫でしたけど、あのミスは普通の人だったら即死してましたよ。それで身を呈して助けて貰ったんですから、私としても精一杯のお返しをしたいんです」

「それで何故エロ方面にいくんだよお前は……」

「私が与えられる物の中で一番価値が高いと思うからです。幸い見た目は良い方ですし」

「自分で言うかぁ……」


 いやまあ、実際めっちゃ可愛いんだけどね小森さんって。どっかの漫画のボブヘア幼馴染系のヒロインが実写化した感じというか。総評すると、アイドルなんか目がないぐらい可愛い癖に、一緒にいても気後れしない雰囲気を持つ、オタクの理想っぽいマジで洒落にならないレベルの美少女。


「そりゃ顔は良いだろうよ。だって時音も戦姫だし」

「何故そこで戦姫を出すのか。いや確かに戦姫全員、それこそ前にチラッとだけ顔合わせた二人も超可愛いかったけど」


 実はちょっと前から不思議に思ってはいたのよな。魔法少女が可愛いのは古来よりのお約束だけど、それはフィクションだからな訳で。現実の戦姫全員が美少女ってのはどういうこっちゃと。


「ほら、前に話したでしょ? 魔力とかの神秘の素養がある人は、大抵がかつていた超越者の末だって」

「能力があるってことは、当然その血が色濃く出てるってことだからな。そういう超自然的な存在の特徴が身体に出たりするんだよ」

「まあ、容姿云々に関してはあくまで下地が良いだけで、不摂生を続けたら存外簡単に崩れますけど」

「はえー」


 なるへそ。戦姫たちが美少女揃いなのは、文字通り神レベルの美貌の遺伝子が濃いからと。てことは、そっち系の人は全員美男美女ってことか。元の素質に胡座かいてなければという注釈は付くが。……あれ俺は?


「確か俺、そういう超越者の先祖返り説浮かんでなかった? 神レベルの美貌は?」

「……いや、うん。アユ君はなんというか……例外?」

「違えだろ。そういう理由じゃねえんだ、コイツの力は。ただ単に理解できないデタラメなんだろ。コイツは多分そういう奴だ」

「……んー、下地は悪くないとは思いますよ? 派手さはないですが。しっかりメイクすれば化けると思います。私は結構好きな顔です」

「取り敢えず、環さんと姐さんが俺をディスりたいのは分かった」


 そして小森さんはステイ。


「ま、話を戻しますと、そんな訳で私の中で一番価値が高いのってやっぱり身体だと思うんですよ。だからお礼はエッチが最適かと」

「ステイって言ってんだよ止まんねぇなキミ!?」


 何でわざわざそこに話を戻すんだよ!? そういうのって男側がしつこく食い下がるもんだろ!? 何で小森さんがグイグイくるんだよ!!


「こんな純情そうな台詞は吐きたくねえけど、そういうのは好きな人とやりなさい! 女の子は身体を大事にしなさい! ご家族が泣くぞ!?」

「うわ似合わね」

「ちょっと笑えてくるね」

「そこ二人うっさい!」


 自分でも言ってて寒気してるんだよ! それでも言わなきゃ止まんねぇんだよこのポン娘は!


「前も話したけどさ、何でアユ君そんな避けるの? 気にせず美味しく頂いちゃえば良いじゃん」

「それをやったら気まずさMAXだって前も言ったよなぁ!? ついでに言うなら年齢的にも中学生はアウトだよ!」


 それは間違いなく超えてはいけない一線なんだよ! だって小森さん中三だぞ!? しかも前チラッと年齢きいたら早生まれでまだ十四だぞ!? そんな子に手を出すとか倫理観ガバってる自覚ある俺でも躊躇するわ!


「というか二人も止めろよ! 同僚で年下の女子が一回の恩返しで大暴走してんだぞ!?」

「んー、時音が決めたことだし。私としてはエピソードが知りたいのでむしろ推奨」

「……まあ、相手が東堂なのは正気を疑うが、そういうのは人それぞれだしな。無理矢理なら兎も角、自分から言い出してんなら無理に止めるのも筋違いだろ。後悔してもそりゃ自己責任だ。忠告するにしても、せいぜい避妊はしとけぐらいだな」

「ダメだコイツらも非日常組だった!」


 方向性は兎も角、揃って倫理観ガバってる面子だ! 唯一の頼りだった姐さんも、相手が俺ってことには引いてても最初から止めてはいなかったし!


「……じゃあ逆に訊きますが、私が高校生なら手を出してくれるんですか?」

「……そこに関しては、色々ある抵抗の一つが無くなるとだけ言っておく。でも何でそんなにキミは俺に執着する訳?」


 恋愛感情があるのならまだ分かるんだけどさ。どうしたってキミから感じるのは親愛であって、恋愛感情ではないんだよ。……まあ親愛にしてもすげえ高い訳だけど。

 それでもだ。身体を差し出すことに躊躇が無いのはもうそういうものだとしても、そこまで頑なに差し出そうとする理由が分からん。


「お礼だって言うなら、俺としてはありがとうの言葉で良いんだよ。それでも気が収まらないのなら、適当な飯を奢ってくれ。それで良いだろう?」

「いえ駄目です」

「だから何でよ!? 俺が良いと言ってるのよ!? ぶっちゃけキミの扱い困るんだけど!?」

「これはお礼であると同時に、私のケジメだからです」

「……はい?」


 どういうこっちゃと俺が首を傾げると、小森さんは何時になく真剣な表情でこちらを見つめて言った。


「何度も言いますが、あのミスは本来なら東堂さんの命が喪われるものでした。今こうしてバカ話ができるのだって、東堂さんが普通じゃなかったからという一種の『奇跡』です」


 ……なんだろう。真剣な話をしている筈なのに、ちょくちょく入るツッコミどころのせいでシリアスになり切れない。小森さん、俺との会話を容赦なくバカ話で括ったよ。ついでに言うなら面と向かって異常と言ってもいたよ。無意識に毒吐くのは相変わらずだな。


「実力不足の結果ならまだ良いんです。死ぬ気で精進して、救えなかった人の分以上に人を救ってみせるから。……でもアレは私の慢心が招いたこと。その結果誰かの命が、ましてや親しい人の命が失われたら、私は一生自分を許すことができない!」


 ……サラッと述べられた修羅思考はスルーすべきなのだろうか? ロクデナシな身としては眩し過ぎるのと同時に、一人の年上としてその考え方は止めとけと忠告すべきな気がするのじゃが。


「……奇跡なんですよ。今後は絶対に起こらない筈の。だから二度は無いということを、この身体に刻みつけなきゃいけないんです。本来喪われる筈だった貴方の身体で、私の心の奥底にしっかりと! 私にはその義務がある!」

「いや無いよ!?」


 ダメだ。やっぱりダメだ! 凄いマジ語りしてたから空気呼んで黙ってたけど、流石に堪えきれなかった! だって根本的にツッコミどころが満載なんだもの!


「あのね!? ミスをしないという心意気は立派です! でもその為に処女膜捧げて消えない戒めにするとか馬鹿なの!? 何でそんなアホなことするの!? 普通に次はしねえと誓うだけで良いじゃん!?」

「そんな軽い気持ちじゃ、また命が失われるかもしれないんですよ!?」

「処女膜捧げればうっかりポカしなくなる思考回路がアホと言ってるんだよ!!」


 キミは自分の処女膜に何の力が宿ってると思ってるんだ。その思考回路がもうポンなんだよ。そんなアホなこと考えてんなら、何したところで絶対次もまた致命的なミスするよ。


「あのね!? ポカなんて誰もがするの! それで誰か不幸な目に遭うのもしょうがないことなの!そんなの 今考えたところで無駄なの!」

「しょうがないで済ませることじゃないでしょう!? 命が失われるかもしれないんですよ!?」

「それは起きてから考えることだと言ってんだよ! ポカってのはどんなに注意しても発生するからポカなんだよ! その結果誰かが死んだとしても、それはその時の当事者が考えること! 対策は大事だけど限度があるんだって! てか処女膜捧げるのは対策ですらねぇ!!」


 それはただの自己満足って言うんだよ! 自己満足で満足してちゃ本当にまたやらかすって気付けマジで!! いやそもそも、自己満足に他人を巻き込んでる時点で擁護できねえし本末転倒!!


「キミのそれはアレだ! 思春期特有のお年頃な勘違いだ! お礼の気持ち100パーならまだ一考の余地はあったけど、その理由聞いたらもうマジでダメだ! 例えキミが成人してようが絶対抱かん!」

「何でですか!?」

「何でもクソもないんだよなぁ!?」


 やだよ人の黒歴史に手を貸すとか! しかもこの場合の黒歴史、厨二病特有の外野は笑えるorくだらねぇと冷める系のしょうもない奴じゃなくて、タチの悪いDQNと付き合いました的な外野は笑えないし当事者もエグい後悔するしな、一番キツいタイプの黒歴史じゃん。絶対にそんなのの片棒担ぎたくねぇ!


「ちょっと、黙って観戦してる二人からも何か言ってくんねぇかな!? 流石にこの間違った思考回路の結果なら二人も止めるっしょ!?」


 小森さんの思考回路があまりにもアレだったし、なんなら未だに迷走しているっぽいので、正気に戻す為に先輩ズに援軍要請。

 如何に倫理観ガバの『よしやれあとで詳細よろぴこ』思考と『全部丸っと自己責任だろ』思考の二人であっても、この迷走は流石に目に余る筈。


「んー、そうだねぇ……」

「あー、その、なぁ……?」


 そんな思惑で観客席から引っ張り出したのだけど、返ってきたのは煮え切らない反応。


「どうした二人とも!? 流石に止めるべきだって思わんか!?」

「いやね? 確かにアユ君の言葉も間違ってないんよ」

「何でですか!?」

「時音は落ち着け。アレが本心ならアタシだって止めるわ」

「でしょう!?」

「そんな……!?」


 姐さんの言葉は俺を援護するもの。即ち小森さんの考えは、観客だった二人をして首を捻るようなものだったということだ。

 そんな訳で我が意を得たりと言葉を続けようとしたのだが、そこでふと気付く。


「……ん? 本心だったら?」


 何かこの言い方だと、小森さんの本心は別にあるような感じじゃね?


「え、どういうことなの姐さん?」

「あー、いやな。当事者で熱くなってたお前は気付かんかったろうが、蚊帳の外だったアタシらからするとな……」

「うん。ぶっちゃけ甘ったるい痴話喧嘩を見てる気分だった」

「何でじゃい!?」

「痴話喧嘩ですか!?」


 いや確かに内容的には『ヤるorヤらない』って話だし、痴話喧嘩と言われたらそれまでだけども! だからってそういう話ではねえだろ!?


「まあ、傍目八目とも言うしねぇ。時音自身が自覚ゼロっぽいから、そりゃアユ君も気付かんよね」

「だから何が!?」

「うーん……こういうのを第三者が伝えるのは抵抗があるんだがなぁ」

「しょうがないんじゃない? 時音はちょっとアホの子だし、多分今後も気付かないよ? それだとこんな感じの言い合いがちょくちょく発生して面倒だし。実害あるんだからさっさと教えるのが吉だって」


 難しい顔をする姐さんをバッサリと切り捨ててから、環さんはこちらに向き直り、言った。


「あのね時音。私もアユ君な奏の言うとおり、さっきの言葉が本心なら反対派。でも、傍から聞いてるとそうじゃないっぽいからやっぱり肯定派」

「何がですか!? 私は本心から言ってますよ!?」

「いや違うね。単純に時音がアホの子だから、本心を勘違いしてそれっぽい理屈を捻り出しただけだよ」

「じゃあ私の本心って何なんですか!? そんなに言うなら教えてくださいよ!?」

「良いよ? 多分めっちゃ恥ずかしくて後悔するだろうけど」


 その時環さんが浮かべていたのは、ニタニタとした実に嫌らしい笑みであった。……何言うのかは想像できんけど、これ多分環さんなりの仕返しだな。さっきの匂い検証の際の『私じゃなくてホッとした』宣言の。


「実はさ、時音さっき無意識で本心ぽいこと言ってたんだよねって。『本来喪われる筈だった貴方の身体で、私の身体の奥底に──』って。つまり時音さ、アユ君が死んでたかもしれないっていうifを思い浮かべて、ずっと不安になってたんだよ。だから抱かれて安心したかったんでしょ? 自分の奥底に、物理的にも精神的にも、アユ君の存在を刻みたかったから」

「………………っ、〜〜〜〜!!!?!?」


 ……個人的にもめっちゃ気まずかったので、数瞬後に小森さんの羞恥の悲鳴が訓練所に響いたことだけ記しておく。







 ーーー

 あとがき

 仕事が忙しくて更新遅れましたことをお詫びします。でもその分長くしたから許して?

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