第20話 やべぇ奴の本領 その1

 目の前には気色悪い人型のナマモノ。攻撃が通らないとしてもボッコボコ、ぶっちゃけるとストレス解除のサンドバッグにすることは確定。おしゃぶりの恨みはそれだけ深い。


「いやー、急にカッコつけるから何だと思ったよ。盛大なネタ振りだったねー」

「内容自体はガチで言ってるがね」


 後ろから聞こえてくる含み笑いには肩を竦めることで答えとする。確かにコントっぽいことはしたが、それはそれ。何度も言おう。おしゃぶりにされた恨みは深い。


「取り敢えず、コイツは気が済むまでシバく」

「何度も言うけど多分それ無意味だよ?」

「ストレス発散にはならぁよ。それにちょっと試してみたいこともあるんだわ」


 実を言うと、このナマモノどものクソ特性で気になっていることがあるのだ。

 一定以上の魔力攻撃以外の無効化。それに関しては俺自身で実感している。何度も強めに、それこそ大抵の生物なら致命傷を負うであろう威力で攻撃をしているが、手応えらしい手応えは感じなかった。めっちゃ弾力のあるゴムボールを殴っている感触というのだろうか? 衝撃は通っている気はするのだが、ダメージが通っている感覚がないのだ。……言葉にして分かったけど、多分無効化ってよりはそもそも無意味と言った方が近いのかもしれない。

 しかし、しかしだ。そうした結果となったのは、俺が普通に攻撃してたからの可能性もある。普通じゃない攻撃をすれば、案外あのクソ特性も打ち破れるのではないかと思った訳だ。……打ち破れなかったらそれはそれだし。


「ま、兎に角実験だわな」


 なんにせよ、やってみないことには始まらない。

 そんな気持ちでナマモノの方に一歩踏み出した

 その瞬間、


『ギュラァァ!!!』


 ナマモノがまた縦に裂けた。しかも今度はトランスフォームと同時に熱線みたいな奴のオマケ付きで。多分これが環さんのいうブレスなんだろう。


「てい」


 まあ、効かないのだけど。


『ギュラァ!?!』

「……うっわ。ブレス素手で弾いたし。アユ君が滅茶苦茶なのは理解してたけど、実際目にすると大概ヤバイね……」


 素手でペシッとやって熱線を逆に消し飛ばしたら、ナマモノには驚愕され、環さんからはドン引きされた。

 いやいやいや。こういうのは漫画やアニメでのお約束だろうに。


「格下の攻撃を素手で弾く。あらゆる作品で強キャラ描写として使われる基本にして必須技だべ? 義務教育での習うだろこんなの」

「そうなんだろうね。キミの中では」

「ツッコミの放棄はしないでくれません?」


 それ一番辛いボケ殺しなのよ。


「それはそれとして、これすっごい不愉快な。何か唾吐きかけられた気分なんやけど」

「ブレスを唾扱いできるのは多分キミだけだよ……。私でもちゃんと防御固めないと受ける気になんないってのに……」


 何か本格的に環さんに呆れられた模様。個人的には唾の方が不衛生だし不愉快指数みたいなのは上なのだけども。

 そんな俺の内心を見透かしたのか、環さんは大きくため息を吐いた。


「……まあ、良いや。念の為、何時でも守れるように準備はしてたけど、これなら心配いらなさそうだ」

「ご心配どうも。ユックリシテイッテネ」

「何その喋り方……。まあ、ツッコミ入れながら気楽に観戦させて貰うよ」


 環さんが完全に警戒を解いたことを気配で察知する。取り敢えず、見応えのある戦いにしようと決意。ある意味、俺の本格的な非日常へ参入の証人となる訳だしな。

 ……となると、解説いるか?


「ねぇ環さん、ちょっと訊きたいのだけど」

「何、って!? そんなガッツリ振り向かないで! ほら擬態型逃げた!」

「へ?」


 慌てたような環さんの言葉に、再びナマモノの方を向くと……あら遥か彼方。


「イクリプスって目の前の生物襲うんじゃねーの?」

「状況によりけりだから! 勝てそうになかったら逃げる個体もいる! てか、私だって埋められた挙句に強攻撃を軽くあしらわれたら逃げるから!」

「それもそうか」


 勝ち目なしと分かって立ち向かうなど非合理的だもんなぁ。そりゃ本能が邪魔してもでも逃走一択か。


「はえー。にしても見事な逃げっぷりで」


 既にナマモノの姿はない。山ということで木々が茂っているし、それを抜きにしてもあのナマモノのスピードは中々のものである。人間を超越したスペックを持ってるだけのことはある。


「呑気にしてる場合じゃないから! 逃げられたら厄介なんだよ!? 早く追う!」

「そやの」


 イクリプスってだけで危険度関係なくガン包囲するぐらいだ。奇襲特化のタイプとなれば、逃がしたらまあアカンことになるだろう。

 なので即効確保一択。ってことでセイッ。


「はい見つけたー」

『ギュルラァ!?』


 気配と音を頼りに木々を駆け抜け、ガン逃げ決めてるナマモノを発見すると同時に、即座に後ろに回り込む。


「はい確保」

『ギュギュギュ!!?』


 そしてトランスフォームしないように、人型の首に当たる部分を後ろからむんずと掴んで捕獲。環さんの言った通り、準軟体生物的な関節を無視した抵抗が飛んできたが、そこは適当に振り回すことで無力化した。

 で、またセイッ。


「戻ったで」

「うぇぇっ!?」


 さっきと同じような感じで環さんの元に戻った訳だが、くっそ驚かれた。


「何今の!? 一瞬消えたと思ったら、何でもうイクリプス捕まえてきてんの!? 瞬間移動!?」

「いや高速移動」


 残念ながら、俺はそういう転移みたいな一部の魔法的な現象は起こせんのじゃ。今やったのだって、さっきの場所から逃げるナマモノの場所まで駆け抜けて、引っ捕まえて走って戻ってきただけ。駆け抜けた距離が合計で八百メートル近いことと、全てのプロセス合わせて掛かった時間が三秒弱ってところを除けば、まあ普通のことしかやってない訳で。


「いやあの、その理屈だとアユ君銃弾より速いんだけど……」

「そりゃまあ、高速移動なんて教材にこと欠かないかんな。瞬○、瞬○術、神速、神速通、縮地etc…。漫画やアニメ嗜んで、そん中の理屈を再現、後は適当に掛け合わせれば音速ぐらいは余裕で越せるわ」

「薄々勘づいてたけど、アユ君って自分だけの物理法則を持ってない?」

「何その超越者」


 物理法則ってある種の世界のルールじゃねえか。そんなん持ってる訳ないでしょうに。というか自分専用の物理法則って何だそのパワーワード。


「全部理屈に則ってるんだよなぁ」

「そもそもその理屈がおかしいんだよなぁ」

「へいコラ魔法少女」


 魔導なんて使って物理法則ガン無視する存在が言って良い言葉じゃないんよ。俺なんかよりよっぽどトンデモねぇ現象起こせるじゃねえか。


「いやあの、私たちは対価で魔力を消費してるから」

「そもそも魔力自体がイカサマ過ぎるというか」


 消費するにしてもできることに幅があり過ぎるんだよ。電気や熱を見習え。


「そこは否定しないけど……。ただ表向きは観測されてないだけで、一応ちゃんと存在するエネルギーだし。裏物理というか」

「裏物理」


 新しい単語ができたな。


「それに対してアユ君はどうよ? 私たち戦姫は魔導、トンデモ現象は魔力で起こしてる訳だけど。そっちは何を対価にしてるの?」

「……筋力?」


 強いて言うならカロリー?……待って何でそんな可哀想な奴を見る目をするの?


「……ゴメンね。魔法使いと脳筋は相容れないんだ」

「甚だしい侮辱の意志を感じた」


 この怒りもまたナマモノという名のサンドバッグにぶつけるしかあるまいな。


「……ところでアユ君。訊いて良い?」

「んにゃ?」

「キミのトンデモ理屈は一旦置いといてさ。何でさっきからずっと擬態型をビタンビタン地面に叩きつけてる訳? そろそろ無視するのも苦しくなってきたんだけど」

「抵抗防止?」

「……憐れ過ぎる」


 関節とか無視して抵抗してくるナマモノが悪い。適当に振り回しとく方が安全、というか鬱陶しくないんよ。


「まあそれは兎も角。ちょっと前の話に戻りたいんだが?」

「前の話?」

「コイツが逃げる前にしてた奴」


 つまり解説がいるかどうかを訊きたかった訳なのだけど、ナマモノが逃亡してくれたお陰で見事に話の腰が折れたんだよな。……そう思うと腹立ってきたな。良し叩きつける速度倍。

 そんなこんなで、片手で憂さ晴らししつつ訊いてみた。


「せっかく観客なんだし、楽しめるよう色々解説してあげようかなと」

「……お願いしようかな。何かもう、アユ君のやることが突拍子も無さ過ぎて……。弁解を聞きたい」

「弁解て」


 解説だって言ってるでしょうに。だからその頭痛を堪えるような表情やめーや。





 ーーーー

 あとがき。

 ちょっとどうでも良い補足ですが、主人公と環しか会話に登場してこないのは、主人公の通信機が壊れてるから。聞こうとすれば環の通信機の音も聞こえるけど、面倒だから聞いてない。必要そうなら環がスピーカーモードにするだろうと考えて主人公は横着してます。……まあ単純に司令部もまた絶句してたりする。


 とまあ、そんな前フリは兎も角、ここからが本題。

 ありがたいことに1500PVを突破しました。ここに感謝を。順調に読者の方が増えてるようで作者としては嬉しい限りです。……というか急に閲覧数増えてきたんですが本当に何かありました? いや、凄い嬉しいんですけど。

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