第18話 やべぇ奴とやべぇ奴ら
《side東堂歩》
ポン娘を助けようとしたら、人型のナマモノがSAN値直葬な変態を遂げて食べられたでござる。……地獄過ぎて草も生えないマジで。
「ダァァァ! キッツ! いやもうマジでキッツい!!」
『ギュルアァァ!?』
「うるせぇ!!」
地面に叩きつけられて半分埋まっているナマモノが何やら鳴いているが、その一切を無視してストンピング。もっと埋まってくれお願いします。
いやね? ぶっちゃけ身体の方は無傷よ? 食われる瞬間に全身を締めたし、ついでにアニメ直伝の硬気功というか○装色モドキを使ったお陰で、肉体的には多少の圧迫感を感じただけで済んだんよ。……ただそれはそれとして不愉快なんだよ!! 普通に考えてこんな気持ち悪いナマモノのお口の中に入りたいですか!? 自分の服ズタズタにしてまで入りたいですか!? んな訳ないよねぇ!!
「というかテメェの口の中どうなってんだよこの野郎! バクっと言って暗くなるかと思いきやメタリックなパステルカラーじゃねえか!! ディスコなの!? お前ののどちんこはミラーボールなの!? 呆然とし過ぎてずっとしゃぶられてたわふざけんな!!」
『ルァァァ!?』
クソったれなナマモノが完全に埋没し、なんなら延々と続けてるストンピングのせいで周辺がクレーターになってるが、それでも尚俺の足は止まらない。どうせ死にやしないのだから気が済むまで踏み潰し続ける所存だ。
「……あ、あのー……」
「あん?」
そんな決意をした途端に誰かさんから声を掛けられた。まあ此処にいるのなんてポン娘しかいないのだけど。
という訳で、ナマモノを踏み潰す足は止めずにポン娘の方を向く。若干態度が悪いがそこは気にしない。何故ならこのポン娘にも俺は若干怒っているから。
「何よポン」
「……反論できないのでその呼び方は甘んじて受け入れます。ただそれはそれとして訊かせてください……何で無事なんです?」
「普通そこは『無事ですか?』じゃねえの?」
「私だって素直に心配したいんですよ! でも貴方がさせてくれないんでしょう!?」
何か逆ギレされたんだけど。
「私の気持ち分かりますか!? 自分のミスで死にかけた癖に、代わりに助けに入ってくれた貴方が死んだ時、どれだけ絶望したことか!」
「生きてるんよ」
「怒りや後悔でぐっちゃぐちゃになっちゃって、それでも生きなきゃいけないって神崎さんたちに説得されて、全部振り切って撤退しようとしたのに!」
「待って俺ナチュラルに見捨てられそうになってない?」
「チラッとみたら死んだと思ってた人が平然と擬態型の口をこじ開けて出てきたんですよ!? なんなら地面に叩きつけてシバキ始めたんですよ!? 私にどうしろって言うんですか!?」
「いや喜べよ」
無事だったんだから素直に喜べよ。何でキレてんだよ。伝え聞く情報的にどう考えてもキレるべきは俺の方だろ。
「喜んで感涙にむせび泣いた上で、自分のしでかしたことを悔いろこのポン」
「……ひぐっ……」
「えっ、待って本当に泣くのは聞いてない……」
その感じ多分だけどガチ泣きの類だよね? え、止めよ? 何でそこで泣くの? 今までみたいに怒鳴るところじゃないの?
「ちょっとどったの小森さん……?」
「…だっで、だっでぇ……!」
「もう待って止めて本当に!?」
『ギルルルアァァ!?』
「テメェはうるせぇんだよ黙ってろコラァ!!」
『ラァァァァ!?』
お前に構ってる暇ねぇの!! 泣く子をなんとかするのに忙しいの!! だからちょっと埋まっててくれる!? 一定以上の厚さなら透過しないんだろなら5メートルぐらいに埋葬するから暫くゴートゥーヘル!!
という訳で悍ましいナマモノを母なる大地に直葬し、足が自由になったところで小森さんの方へと駆け寄る。
「どしたのどしたの本当にもう……。今のどこに泣くところあったの? 自分で言うのもアレだけど、今までの会話殆ど俺の戯言よ?」
「だっでぇっ、どうどぅさん本当に死んじゃったっでぇ……!!」
「あー、はいはいはい。ツッコミに一段落したら安心して涙出てきちゃったのねぇもう。死ぬどころか無傷だから心配しないの」
「ぞれにわだし助げないで置いてごうとぉ……!」
「そこに関してはキミを説得した大人たちの方に直訴するから」
その一点だけは絶対に譲らないから。
「はいティッシュ。泣き顔でぐっちゃぐちゃじゃないの。女の子が見せちゃイカン顔になってるかんね?」
「……お母さんみたい……」
「誰がオカンじゃい。いいから早くチーンしなさい」
泣きながらサラッと変なこと言ってんじゃねえよ。そりゃ確かに若干オネエ口調になってたけども。ガチ泣きされると思ってなくて慌ててただけだからなコレ。
「ったくもう……」
そんなこんなで暫くの時が経ち。漸く小森さんが復活したところで、一息つくことができた。
「本当に勘弁してくれ。色んな意味で」
「……すみません……」
「まあ心配掛けたのは俺も悪かったけどさぁ。だからと言って取り乱しすぎなんよ」
「いやぁ、そこに関しては時音は全く悪くないよね絶対」
「んあ?」
縮こまる小森さんに対して愚痴を言っていたら、第三者の声が割って入ってきた。
声をした方に顔を向けると、ちょうど声の主、環さんがスタッと地面に降り立つところだった。
「あれ環さん? 持ち場はどったの?」
「擬態型……あー、時音じゃ手に負えないイクリプスが出たって報告が来たからね。それで駆け付けたんだよ。因みに経緯の方は全部通信で聞いてた。良く無事だったねアユ君」
「精神的には大ダメージだったがな」
「物理的に即死してなきゃ万々歳だよ」
呆れ気味で言い返された。そんなもんかね?
「一応言っておくけど、中級以上のイクリプスに噛み付かれた場合、常人なら余裕で身体を食いちぎられるからね? 上級なら防御固めた戦姫でも人によっては危ないよ?」
「まあ、全般的にえげつない顎?の力してそうだしな。イクリプスって」
「そ。だから時音が勘違いするのも当然だし、神崎さんたちが現在進行形でフリーズしてるのもまた当然」
「あー。小森さんの方からあの大人ども声が聞こえないと思ったら、予想外のことで固まってんのか」
道理で静かな訳だ。こっちの通信機、というか装備してた機材全般は、上の服と一緒にあのナマモノの口の中でぶっ壊されたからなぁ。てっきり人の通信機ごしだから声ちっちゃくて聞こえねぇのかと思ってた。……今更だけどこれ弁償とかないよね? 絶対これ高い奴だけど流石に不可抗力だよね!?
「急に戦々恐々としだしてどしたの?」
「機材の弁償の可能性が出てきて震えてんの」
「絶対無いからそれは」
「流石に私を守って壊れた機材は大丈夫ですよ……」
「あ、本当?」
良かったー。
「で、よ。ホッとしたところで悪いんだけど、擬態型は? 逃げたんなら放置もできないし、どっち行ったか教えてくれる? 早く討伐しないと」
「あん? ああ、そこの土の中に埋めたよ。逃げてはねぇだろうから心配すんな」
「……は?」
クレーターの中心を指さすと、環さんが何言ってんだコイツと言いたげな顔で見てきた。
「頭おかしくなったアユ君? あ、元からか」
「自己完結やめーや。ほれ見なさい」
『ルラララァ』
丁度良いタイミングでイクリプスが土から生えてきた。ボコッて。透過ができないから物理的に這い出てきたらしい。……色々気に食わない奴だが今ばかりはナイスだ。腹立たしいけど褒めても良い。
という訳で全力のドヤ顔で環さんを見つめる。
「あのね? イクリプスを埋めてる時点で頭おかしいのに気付いて?」
「言われてみれば」
ド正論だったので真顔に戻る。
で、本題のイクリプスだが。
『ルラララァ……!』
「めっちゃ警戒してんなオイ」
「そりゃボッコボコにしてましたし……」
地面に叩きつけられ、踏み潰され、挙句の果てには埋められ。しかもその全ての過程において、抵抗らしい抵抗は一切でぎず。ダメージは無くても警戒されんのは当然か。
とは言え、こっち側も警戒しているのは同じ。小森さんはそもそも力不足で気が抜けない。環さんとて勝てるにしても油断=死に繋がるから真剣。俺は俺でさっきの口内INみたく、知識不足から変な目に遭いたくないので超警戒中。
そうして発生する睨み合い。あのナマモノパッと見だと目とか無いけど。
「さてどうする?」
「んー、まず時音は退避ね。これは私に話が来た時点で決定してたから。一応こっちの方は殲滅してきたけど、取りこぼしもあるかもしれんし、司令部と連携取りながら私の担当地域まで移動して。それで大丈夫そうなら奏と合流。まあ細かいところはそっちで決めて」
「了解です」
環さんの指示を聞き、小森さんが移動用と思われる魔導を発動させる。
「次にアユ君は……どうしよ? まあ適当で良いんじゃない?」
「雑ぅ」
「だって私にゃ判断つかんよ。普通の現場職員なら撤退一択だけど、何か大丈夫そうじゃんアユ君」
「まあの」
それはそうね。……てかこういう時こそ司令部の出番では?
と思ったてたら二人の通信機に反応あり。俺の状態もあり、すかさず環さんがスピーカーモードで対応してくれた。
「あ、待ってましたよ師匠ー」
『……スマン。あまりにも予想外の光景だったものでな……』
『……こっちも同じね。映像のせいで司令部全員固まってたわ』
はい開口一番で言い訳入りましたー。
「予想外の事態で活動停止する司令部とか無能過ぎない?」
『流石にぐうの音も出んな……』
『ただこれだけは言わせて欲しいのだけど。それぐらいに非常識なことやったのよ東堂君は……』
「こっちも速攻で味方に切り捨てられかけるという非常識な事態に遭ったのですが」
絶対に忘れないからなこれ。マジで後で問い詰めるから。
「まあ、この話は後程。で、俺はどうすりゃええのん?」
『……因みに訊くが、お前の中での擬態型の危険度は?』
「んー、さっきみたいな予想外があるから断言はできんけど。ダメージさえ通るなら瞬殺可能な程度。ナマモノの攻撃もしっかり防げば多分大丈夫かね」
あ、でも身体は兎も角服は死ぬからズボンに被弾はアカン。社会的に死ぬ。
『……もう東堂君の非常識さは考えないことにして。それなら環ちゃんの補佐をお願い。時音ちゃんの方は多分危険は無いだろうしね。それなら万が一があるかもしれない環ちゃんの方に戦力は残しておきたいわ』
「あいあい」
そういうことなら残りましょうか。個人的にもこのナマモノには恨みもあるしな。人をおしゃぶりにしたことは絶対に許さん。絶対にだ。
「……東堂さん」
そんな風に闘志を高めていたら、撤退しようとしている小森さんに話し掛けられた。
「多分大丈夫だとは思いますが、無事でいてくださいね? そして帰ったらちゃんとお礼させてください」
「ああ。はいはい」
「絶対ですよ!? 助けてくれたお礼に私何だってしますから! だから絶対に死なないでくださいね!?」
「え、今何でもって?」
「言いましたよ! 命の恩人ですしセックスでも何でもOKです! だから本当に死なないでくださいね!? 怪我も無しですよ!?」
「ねえネタにガチで返すの止めてくれない? あとそういうセリフはせめて羞恥心を持って?」
さも当然のことように身体を差し出さないでくれません? 口ぶりからして多分キミそういう感情ゼロじゃん。潔いレベルで褒賞というかお返し的な意味で言ったじゃん絶対。何なら『死ぬな、怪我するな』がメインでセックス云々は完璧についでやろオイ。
「というかそういうのって全部ひっくるめて死亡フラグなんですけど」
「……兎も角無事を祈ってますから! それじゃ!」
「逃げんな!!」
あのポン盛大に人の死亡フラグ建築だけして撤退しやがった!? もうここまで来たら遠回しな殺人予告じゃねえか!
「ぷくくっ。随分懐かれたねぇアユ君」
「アレ懐かれたって言って良いの?」
「エッチさせてくれるって宣言されたんだから超懐かれてるでしょ」
「それだったら普通惚れられたって言うべきなんよ」
懐かれたじゃ意味合いが大違いなんよ。というか、他人にそう言われる時点でやっぱり恋愛感情はゼロよなあのポン。
「命の対価を身体で払う。言ってる意味は分かるけど、実際にやるってなると相当キマってるよなぁ」
「そりゃそうだよ。常識人ぶってるけど時音も相当ぶっ飛んるし」
「それは知ってる」
漏れ出てる失言という名の毒舌の時点で、あのポンの思考回路が相当キレッキレなのは察してたよ。
「そもそも日常的に戦場に出てる時点で倫理観もガバるからねー」
「エロ方面でガバるのはまた別なんでねーの?」
「いやいや。時音だってちゃんと女の子よ。羞恥心だってしっかりあるから。助けて貰えば誰彼構わず股を開くビッチって訳じゃない。……ただアユ君の場合、身体を許して良いぐらいには時音も気に入ってるんだよ」
「だから『懐く』な訳ね」
随分とまあ思考回路が野生的なことで。まあ、そういう性格ってことで納得するしかないんだろうなぁ。何だかんだ言って非日常の住人だしなあのポンも。
「ま、良いじゃないの。終わった後のお楽しみもできたんだから。さっさと終わらせようぜい?」
「……その台詞を同年代かつ同僚の女子から言われると極めて微妙な心境なんじゃが」
何で女側が率先して進めようとしてるんですかねぇ……?
「私だってそういうことには興味あるし。だから終わったら詳細聞かせて?」
「下世話過ぎて草も生えない」
話す訳ねえだろそもそも抱くかどうかも決めてねえよ!!
「えー? もしかしてアユ君ってそんな性格してて奥手なのー?」
「あのね? 俺だって常識はあるんよ。恋人関係でもねぇ同じ職場の異性に手を出すとか気まず過ぎんだろ」
「一部上司に全力で喧嘩売ってる人が言うと全く響かんねぇ」
「さーてナマモノぶっ飛ばすかぁ。これまでの全ての恨みを晴らしちゃうぞ☆」
『ルララァ!?』
「うわ見事なすり替え」
うるさいやい。
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