第15話 物理的にやべぇ奴

《side東堂歩》


「金っ、金っ、金っ〜♪」

「その欲望ダダ漏れの製菓ソング止めません? というか改変が酷いです」

「知ってる」


 なんとなしに歌ってみたけど、我ながらこれは酷いと思ってた。というかあの鳥モドキに怒られそうで怖い。


「で、急に何でそんな俗物ソングを?」

「いやほら、何かちゃんとやらないと折角の割の良い職が無くなりそうだから」

「考え方も俗物ですね」

「お金は大事よ?」


 今後の人生と娯楽を最大限に潤してくれるファクターだもの。超大事よ。

 でも小森さんから返ってきたのはジト目だった。思春期の魔法少女的に俗な言動はアウトなのかしら?


「……ついでに幾つか訊きたいことがあるんですが、良いですか?」

「何?」

「まず、何で付いて来てるんです? 見学ですよね東堂さん」

「まあそうなんだけど」


 現在、俺と小森さんは展望台から移動している最中である。何で移動しているかと言うと、広範囲にイクリプスが出現する予兆が観測されたからだ。で、その予兆を支部の方で分析したところ、どうも今回は質よりも量といった感じらしく、弱めのイクリプスが大量に出現するであろうという結論となった。

 しかし、幾ら弱くとも相手はイクリプス。魔導戦姫以外では太刀打ちできない理外のナマモノだ。一体でも常人には危険だし、もし封鎖範囲から逃れようものならトンデモない被害が出る可能性がある。故に即時殲滅が求めらる訳で。

 そんなこんなで、戦姫三人で手分けして対応することが決定。新人であり三人の中では最弱の小森さんが、群れの中で最も密度が薄いであろう方面を担当し、環さん、姐さんの2人で濃い方から臨機応変に移動しながら殲滅していくことになったのだ。

 で、俺はそんな小森さんに引っ付いて移動しているのである。立場的には待機なんだけども。


「何してるんです本当に?」

「いやほら、金の為に役立っておこうかなと」

「……そうですか」


 ちゃんと役立つってことをオッサンあたりに証明しておけば、切り捨てるなんて選択肢は浮かんでこないだろうし。そんな思惑の元、命令無視して小森さんに引っ付いてきてるのです。

 尚、今のところ命令無視云々については特に何も言われてません。いや、正確に言うと『小森さんに付いてくわー』って伝えた時点ではスゲェうるさかったんだけど。


「……じゃあ一番気になること訊いて良いですか?」

「どうぞ」

「何で私に付いてこれるんです!? こっちは魔導使ってるんですよ!?」


 忍者みたいにピョンピョン跳ねながら移動する小森さんと並走したら、パタリとそんな声も聞こえなくなったのである。いや不思議。


「そんな騒ぐことかねぇ? こんなのパルクールの一種じゃねえの」

「断崖絶壁を生身で駆け下りたりするのはパルクールじゃありません!!!」


 因みに俺たちが通ったルートは、展望台から柵を飛び越えて急斜面を駆け下りるルートである。目的地が完璧な山の方面だったからね。登山道とか使ってマトモに移動してたら日が暮れてたから仕方ないね。


「小森さんだってやったじゃん」

「だから魔導を使ってるんですよ!! 【落下速度軽減】とか【姿勢制御】とか複数の魔導を併用してあの崖は降りたんです! 普通にスザザーって滑ってたアナタがおかしいんですよ!!!」

「だってできるんだもん」


 おかしいったってねぇ? できるんだからしょうがないじゃないの。わざわざ遠回りする必要だってないんだし。


「それで済ませられないから訊いてるんですがね!? 一応言っておきますけど、これ私だけじゃなくて現状を把握してる人全員の疑問ですよ!! 通信機越しに絶句してる気配がヒシヒシと感じますし!」

「やっぱりパタリと静かになったのってそういうこと?」

「まさかの自覚無しですか!?」

「んな訳なかろう」


 全部分かってるに決まっとるやないかい。常識的に考えてやべぇことしてるって自覚はあるわ。現在進行形でNARUT○みたいに木々の合間を飛び跳ねながら駆け回ってんだぞ。そりゃ俺のこと何も知らん奴らが見れば絶句もするわ。


「アナタ本当に何者なんですか……!?」

「どっからどう見ても普通の高校生やろがい」

「『『『んな訳あるか!!!』』』」


 あ、絶句してた連中が復活した。


『歩! 貴様一体何を隠している!? その力は一体何だ!?』

「素じゃい」

『……まさか力ある神秘の系譜かしら? いやでも、あの辺の一族の血は薄まって久しいし、そもそも身辺調査でその辺りとは縁もゆかりも無いのは確定している。かと言って個人の資質の線もない。男性自体が神秘と相性は良くないし、東堂君がそれを覆す程の素質を持っている訳でもない。でも【魔道具】や【聖遺物レリック】の類を所持してる形跡も無かった……』

「神崎さんは神崎さんで意味深な単語を連呼せんといてもろて」


 思考の海に潜ってるのは分かるんだけど、全力でこっちの意識が逸れるような台詞を吐かないでくれ。何だ【力ある神秘の系譜】って。何だ【魔道具】って。何だ【聖遺物】って。気になって集中できんのじゃが。


『……東堂君、良いかしら?』

「何でせう?」

『キミが今見せている機動力だけで、現場職員としての資格は十分に示されたと判断できるわ。だから今から帰還してくれない?』

「はい!?」


 何でここに来て帰ってこいと!?


「俺まだ小森さんのサポートも何もしてないんですが!?」

『キミはそもそも見学で、扱い的にはいない人員でしょう。色々あって流れたけど、キミが動くの命令無視だからね? まずそこのところ分かってる?』

「当然」

『即答するんじゃないこの馬鹿者が!!』


 源内さんにキレられた。正論ではあるので無視しておく。


『……まあ、その機動力と胆力があるなら、時音ちゃんの邪魔になるなんてことは無いんでしょうし、サポーターとして活躍する可能性も十分あるのだけど』

「けど?」

『それでもぶっちゃけ要らないかなー、ってのが正直な話でね。下級イクリプスなら、群れであろうと時音ちゃん一人で余裕で対処できるし』

「え?」

「……その『え?』は一体どういう意味ですかね?」


 神崎さんの言葉につい出てしまった『え?』。そのせいで小森さんにジト目で睨まれてしまった。気まずい。


「……特に意味はないよ?」

「怒りませんから正直に言ってください」

「俺の中の印象では小森さんってめっちゃ弱いから、余裕って太鼓判押されててビックリしました」

「躊躇なくぶっちゃけましたね!?」


 だって正直に言えって。それに割と本心だったから、ずっと誤魔化すのもね……?


「しょうがねえじゃん。小森さんって模擬戦だと他の戦姫の面々にボコボコにされてばっかだし」

「私だって研修終えたばっかりなんですよ……!」


 経験豊富な先輩方に勝てる訳ないでしょう! と叫ばれてしまった。割と後ろ向きな台詞のように聞こえるのは気の所為?


『んー、時音ちゃんのイメージは兎も角。戦力的には十分なのは確かだから』

「いや、それでも小森さんを一人にするの心配なんすよねぇ。命令無視で怒られても良いんで見守ってちゃ駄目ですか?」

「……は?」

『……あらら? それってどういうことかしら?』

「だってこの子肝心なところでポンコツだし。マージンあっても大ポカして酷い目に合いそうな気配がヒシヒシと」


 ここぞと言う時にやらかしそうなイメージが強過ぎて……。


「【マジックショット】!」

「ぬおぉ!?」


 真横から飛んできた藍色の塊を咄嗟に躱す。今この子魔法撃ってきたよな!?


「何すんの小森さん!?」

「アナタが意味深な台詞吐くからですよ!」

「思春期止めて貰っていいですかねぇ!?」


 もしかしなくても心配をそっち方面で受け取ったろ!? 何でそうなるんだよってか、それで勝手にキレるのは流石に酷くねえか!?


「一応山道を全力疾走してるんだが!? 危ねえだろ!」

「いや絶対危なくないでしょ」

「そこでトーンダウンするのズルくない?」


 この流れで素にならないで? 言い合いする流れなのに、一切の感情がこもってないトーンでそういうこと言わないで。


「……ていうかさ、勘違いで逆ギレしたくなる程度には、小森さんって俺への好感度高いの?」

「いや単純に意味深な台詞からの暴言でめちゃくちゃ腹立ちました」

「それで常人に魔法を放つのってだいぶヤバくない……?」

「アナタにしかしませんよこんなこと」

「キミも意味深な台詞吐くじゃん」


 それちょっと思わせぶりなことしてくるヒロインの台詞じゃん。効果無いだろうからって暴力に訴えようとする人間の台詞ではないのよ。


『……傍から訊いてると夫婦漫才なのよね』

「いや現実で高校生が中二に手を出すのはちょっと……」

「誰がロリですか」

「語るに落ちてて草」

「くっ……!」


 誰もロリだなんて言ってないんだよなぁ。


『……兎も角。東堂君の心配は分かったけど、大丈夫だから。常人からすれば脅威でも、戦姫にとっては下級イクリプスは脅威じゃないわ。だから安心して帰還して』

「……何でそんなに帰還させようとするんです?」

『勿論キミのことを調べまくる為よ』

「うわ安心できる要素ねぇ……」


 アレだね。台詞にちょっと嬉色が混じってるのがヤダ。


「拒否は?」

『無理。キミのそれを見て調べないなんて選択肢があるとでも?』

「ですよねー……」


 まあ知ってたよ。気分は異能の力を開花させた主人公。超憂鬱。……まあ、あの手の作品と違って安心できる要素とすれば、ここが元々ファンタジー要素を扱ってるっことなんだけども。


「それでもできれば後回しにしたいなー、と思ってみたり」

『逆にこっちは早く調べたいと思ってるの。で、私はキミに命令できる立場な訳』

「うわ悪辣ぅ……」


 上司マウンティングとかドイヒー。上司命令とか最低ー。


「まあ、それでも拒否するんですがね」

『残念。拒否権は無いわよ?』

「いやー、こっちとしても命令に従えないのは残念なんですがね」

『うん?』

「俺たちの真ん前のちょっと行ったところ。後少しぐらいですか。帰還する暇は無さそうで」


 それと同時に、司令部のオペレーターが俺たちの通信に割り込んできた。


『……っ!! 小森さんと東堂君の地点から十五メートル前方、イクリプス反応あり! 数は三十! 二十秒後に出現します!』


 いやー、これは帰還なんかしてる暇はないなぁ!


「……あの、東堂さん? 今観測機より先にイクリプスのこと気付きませんでした?」

「前の空間が変に揺らめいてたからね」

「アナタ本当に何なんですか!?」




 ───


 あとがき。


 書きだめがつきました。なので先述した通り、週一更新を目指す感じで頑張ります。

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