第13話 これ普通に計画的犯行では?

《side東堂歩》


 対策局のバイトを初めて1週間程経過した。今のところの業務内容としては現場職員としての研修がメイン。こういう時はああしろだとか、そんな感じのことを源内さんやら先輩職員の方々から教わっている。

 因みに先輩職員たちとの関係は一部微妙だ。性格は様々でも基本的には気の良い人たちしかいないんだけど、対策局の職員って元の所属が警察、消防、自衛隊だからか、上下関係にめっちゃ厳しい人もいるんよなぁ。そんな人たちからすると、俺はまあ生意気に感じるようで。俺自身の性格はアレだし、体育会系のノリやら序列意識やら全く理解してない。極めつけは俺も突っかかられたら普通に反抗する為、衝突は必至というね。源内さん辺りはマジで頭抱えていた。

 逆に仲良くなったのは戦姫の面々だった。小森さんや環さんを通したこともあり、中々に良い関係を築けた気がする。まあ単純に戦姫の面々とめっちゃ気が合ったってのが一番かな。異性とはいえ歳は近いし、イクリプス云々以外ではかなり自由にしてるせいか、根底の部分でフリーダムな奴らが多かったし。なによりイクリプスとの戦場に出ることが多い為か、強さに一定の敬意を払ってるし。猫モドキをあしらったって話が耳に入ってるようで、すんなり仲良くなれました。いや本当、序列意識とかに縛られてる大人たちよりは、遥かに付き合い易いこと。……まあ、それが余計に馬の合わない面々には癪に障るようで。転がり落ちる岩の如くどんどんギスってってる気がする。

 ま、どうでも良いんだけどね。


「ふぁ〜……」


 欠伸をしながら対策局に入局。タイムカード(秘密組織の癖に実装されてる)を切って、俺の職場となっている現場職員用の部屋へと向かう。

 すれ違う職員に会釈しながら歩いていると、ふと気付く。何か今日慌ただしくねえか?

 そんな疑問が頭を過ぎったタイミングで、通路の奥から見知った顔がやってきた。


「お、アユ君じゃーん。オッスオッス」

「環さん。やっほ」


 御影環。この関東支部でもトップ3に入る実力を持つ魔導戦姫で、Theフリーダムな戦闘狂。似たもの同士でタメということもあり、俺としては対策局の中で最も仲の良いと思っている女子だ。いつの間にかあだ名になってるしな。


「で、何かあったん?」


 挨拶もそこそこに、先程感じた疑問を環さんに訊いてみる。


「あー。そういやアユ君はお初だもんねー。対策局ここが忙しくなるなんて1つしかないっしょ?」

「というと?」

「イクリプスだよ。昨日観測機で高尾山の方に反応でたんよ」

「あらま」


 うむ。ちょっと予想はしてたけど、やっぱりそういうことか。

 イクリプス。人類、というか地球上の全生物の敵とも言える怪物。視認不可、物理無効、物質透過というクソ特性を備えた肉食の異次元のナマモノ。

 ここ、蝕獣災害対策局はこの理不尽なナマモノどもに対抗する為に存在する秘密の国家組織だ。まだ所属したばっかだし知らないことも多いが、それでもここが忙しくなるのはイクリプス案件以外ではまずない筈。


「具体的にどんな感じなん? この空気ってどれぐらいヤバい?」

「んー? そうだねぇ。反応が出たのが昨日の深夜。出現予測は明日の午後以降。範囲は高尾山を中心にざっくり三キロメートル以内って感じだから……んー、規模的には中の上ぐらいかなぁ。ただ日本だと結構珍しい規模だよ。外国だと頻繁でなくても定期的に起きるぐらい」

「へー」


 そういや日本って、イクリプス関係だと世界的に結構余裕ある国なんだっけ。確か、日本周辺の時空が結構安定しているとかの理由でイクリプスの出現が他より少ない。龍脈とかファンタジー的な立地の関係でそっちの素質を持った人間が産まれ易い。それでいて国土も狭い。結果としてイクリプス対策は割と余裕あるのだとか。……まあ、その分外国への派遣が多いからプラマイゼロ!って環さんは叫んでたけど。


「じゃあ割と余裕だったり? 環さんも落ち着いてるし」

「いや微妙かなー。猫型みたいな雑魚、Dランクのイクリプスが沢山とかだったら余裕だけどさ。Cランクがそこそことかは地味に面倒だし、Bランクが数体とかだったらキツい」

「えーと、確か危険度的にはDが『小型肉食獣』。Cが『大型肉食獣』。Bが『戦車』だっけ?」

「そそ」


 俺の言葉に環さんが頷く。研修で習ったのだが、イクリプスはD〜Sまでの脅威度でクラス分けされているそうだ。尚、脅威度の目安となるのは攻撃力だそうで、一般人が対峙した場合どれぐらいの被害が出るのかで分けられているらしい。……まあ、純粋な脅威度で見たらイクリプスのクソ特性がある限りランク分けも何もねぇんだけどな。

 因みに、CからBの間にえげつないレベルの差が空いているのは、そこが丁度中級と下級の境になっているからだとか。


「ならもしAランクが出てきたら?」

「いや規模的にそれはない……訳じゃないけど。湧くにしても一体だろうね。ただ出てきてもやりたくはないよねー」

「あれ? 環さんってAランクの戦姫よね?」


 意外な言葉が返ってきて驚いた。

 戦姫たちもイクリプスと同じように、戦闘力でランク分けされている。ただイクリプスと違って基準がちょっとズレており、まず一番下はDランクではなくCランク。これは戦姫として一般的なレベルに達していれば、Dランク程度のイクリプスの攻撃など魔力的なサムシングによって無効化されるかららしい。そして戦姫の場合、同等級のイクリプスには勝って当然とされる。つまりイクリプス側を基準とした場合、戦姫はワンランク上ということになる。

 なのでAランクの環さんなら、Aランクのイクリプスは問題無い筈なのだ。なのにこの反応。この人の場合戦闘狂の気もあることも相まって、余計にビックリだ。


「いや、そうなんだけどさぁ。勝てはしてもキッツイのは変わらないし」

「戦闘狂が何か言ってる」

「どストレート過ぎない? 一応言っておくけど、私アレだかんね? 強くなるのは楽しいけど、命懸けで戦うのは普通に嫌だって思ってるからね?」

「あー。そういうタイプ」


 試合は好きだけど喧嘩は嫌いとか、そっち系なのね。


「でもAランクは勝てるんでしょ?」

「そりゃ勝てるけど……。Aランクって特殊能力使ってくる奴もいるから、色んな意味で面倒なの。観測的にはAランクでも、能力含めれたらSだろお前!って奴も偶にいるんだよ」

「えっと、Aが『戦闘機』で」

「Sが『戦艦』」

「脅威度の跳ね上がり具合が本当に草よな」

「いや笑いごとじゃないから……」


 実際に戦う立場の環さんの苦りきった言葉である。

 因みにSランクのイクリプスが湧いた場合、日本のガチのトップ戦姫であるSランクを突撃させるか、大量のAランクを引っ張ってきて倒すことになるらしい。……一応、ギリギリの死闘を覚悟すれば、相性次第ではAランク一人でもSランクを倒せるそうだけど。基本はやらんらしい。


「何かすっごい他人事みたいにしてるけど、アユ君も出動するんだよ?」

「は?」


 何か急にトンデモない言葉が飛んできましたね?


「え、何で? 俺まだ研修中なんだけど?」

「私も詳しく訊いてないけど、師匠の提案だってさ。出動は日本だと頻繁に起きないし、丁度良い機会だからって」

「……確か今回のって、日本じゃ結構珍しい規模なんよな?」

「うん。場所が山かつ範囲もそこそこだから、出動する戦姫も3人。メインに私と奏、補助と場数を踏ます為に時音。ここ最近だと中々ないレベルだねー」

「……そこにガチの研修生をぶち込むと? あのオッサンはそう言ってる訳?」

「うん」

「クソかな?」


 あのオヤジやっぱり殺人鬼の類だろ絶対。

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