第8話 フィクションだとよくあるやーつ
《side東堂歩》
蝕獣災害対策局に所属することが決まった翌日、さっそく俺は出勤することになった。土曜で学校が休みだった為、神崎さんから『じゃあ早い方が良いし来ましょうか』と言われたのだ。
因みに俺の契約だが、基本は月水金土の週4。平日は学校があるので午後5時から9時までの4時間。土曜は正午から6時間。休憩の1時間を入れた7時まで。給料は高校までは固定で40万+活躍による賞与。卒業後は進学か就職かでこの辺りは色々変わるとのこと。
まあ、学生のバイトとしては破格だろう。命の危険は一応あるが、未成年故に危険な仕事はそこまで割り振らんそうだし。唯一不満があるとすれば、俺の口座には給料の一部しか入らんことか。大半が神崎さんが作った秘密口座に入っちゃうんだよな。いや、全額入ると税金の問題が出てくるから仕方ないんだけども。税金が発生して周りから『お前何した?』ってなると困るし。
「ただ使い分けは面倒なんだよなー……」
そんな風にボヤキながら、通路を歩いていく。
因みに、現在俺がいるのは警視庁だ。いや正確に言えば、魔導とやらで存在が隠されている警視庁の通路である。
昨日対策局を案内して貰った時に教わったのだが、なんと対策局は警視庁一帯の遥か地下にあるという。何でそんな場所にとは思ったが、機密保持とイクリプスの透過能力対策と言われて納得した。なんでも魔導と最新科学でガッチガチに固められているらしい。
この通路もその一つで、対策局職員に与えられる特殊なIDカードを所持していなければ認識することすらできないそうだ。そうした場所が警視庁一帯に幾つか存在しており、職員たちはそこから出入りしているとのこと。
「で、ここでコレを使って……」
通路の奥にあったエレベーターにのり、支給されたIDカードを翳す。すると身体に僅かな浮遊感が襲い、暫くするとエレベーターの扉が開いた。
これで対策局に到着だ。
「んで、神崎さんのところに行けば良いんだっけ?」
えーと確か、右側の通路の先の研究室にいるんだっけ?
記憶を頼りに通路を歩いていくと、第一研究室と書かれた部屋が見えてきた。
取り敢えずノック。
「はーい」
神崎さんの声だわ。
「ちわっす。東堂です」
「あ、はいはい。入っていいわよー」
許可が出たので入る。そしたら中には神崎さんと知らんオッサンがいた。
「……ふむ。キミが東堂君か」
「あ、はい。東堂歩です」
何だこのオッサン。値踏みするような目でこっちを見てくるぞ。
あ、神崎さんの眉間に皺が寄った。
「……源内さん。観察の前に自己紹介を」
「ああ、済まない。俺は武蔵源内。現場職員の纏め役をやっている。簡単に言えばキミの直属の上司だ。よろしく頼む」
「あ、どもです武蔵さん」
「源内で良い。皆そう呼ぶ」
「そですか」
握手握手。……力強ない? 痛くはないけど凄い圧があるのじゃが。見た目もごつくて暑苦しいし。パッと見30代後半の格闘家ボディのオッサンって威圧感ありすぎでは?
「さて。自己紹介も済んだことだし、本題に入ろうか」
「本題」
「そう。キミは神崎さんの判断で現場職員となった訳だが、残念ながら俺はまだそれを認めていない」
「はあ」
おっと? いきなり怒涛の展開キタコレ。さてはこのオッサンせっかちだな?
「何故かと言うと、現場職員は戦姫たちほどではないが命を張っている。その激務に耐えられるという信用がキミには無いからだ」
「まあ確かに」
「ましてやキミは未成年の民間人だ。対策局の職員の多くは警察、消防、自衛隊からスカウトされるが、現場職員はその中でも選りすぐりのエリート。そんな彼らですらリタイアすることがあるのだから、ただの高校生がこの職務に耐えられるとは到底思えない」
「正論ですね」
普通に考えたらそうよな。俺を誘った神崎さんの方が実際ヤバいと思うもん。
「しかし、神崎さんの考えも分かる。現場職員は激務故に人手不足だ。基準も厳しい以上、青田買いもまた一つの手ではある」
「ほう」
「それに信用とは築くものだ。先入観や自身の価値観だけで判断し、築く機会すら与えないというのは大いに問題がある」
「おん?」
何か不穏な流れになってないか? 大丈夫? これ俺の勘違いじゃない?
「故に、まずキミのことテストしてみようと思う。テストの基準に至っていれば、私はちゃんとキミを現場職員の新人として扱おう。基準を満たしていなくても、素質があると感じれば鍛えよう。素質が無い場合は……まあ期間を定めて鍛えはする。それでも芽が出なければ現場職員は諦めて欲しい」
「あー……」
やっぱりこれそういう流れじゃねえか。何で対策局ってフィクションにありがちの展開をもってくるの?
「因みに神崎さん? 俺を勧誘した張本人から何か一言を」
「んー、私にも権限は無くはないけど、現場職員の人事は源内さんに一任してるのよね。まあ、源内さんの言ってることも確かだからね? それにキミなら絶対大丈夫だから、心配しないで?」
「えー……」
謎の信頼を盾に煙に巻かれたのだが。というか一任している筈の人事に口出したのかこの人。権限があるにしてもアウト寄りなのではなかろうか?
そういう意味では、俺のことを信用できんと一蹴しなかった源内さんは懐が大きいと思う。
「そういう訳だから、これから訓練場へと向かうぞ。運動用の服はあるか? ないなら貸すが」
「一応持ってこいとは言われたので」
「そうか」
スポーツウェアを持ってきておいて助かったというべきか。……良く考えたらコレ、神崎さんこの流れ予想してたんじゃねえか? ウェアもってこいってそういうことだろ? アレこれ嵌められた?
「なら行くぞ」
「頑張ってねー。期待して待ってるから」
諸悪の根源に手を振られて、俺は第一研究室を後にした。
ド○ドナでも歌ってやろうかしら?
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