第5話 秘密組織よな……?

《side東堂歩》


 爆睡してたら耳元で思い切り怒鳴られました。

 という訳で、俺は今小森さんに案内される形で、蝕獣災害対策局関東支部とやらを歩いている。

 尚、案内してくれている小森さんはと言うと。


「こ、怖かった……」

「ゴメンて」


 俺に対してめっさ怯えています。凄い気まずい。

 いやさ、色々と萎えてふて寝した訳だけど、俺って結構寝付くの早くて、結果としてマジ寝しちゃったのよ。そんな状態で耳元で思い切り怒鳴られたらね、流石にイラッとすると言うか。

 ……いや、小森さんの気持ちも分かるよ? 多分だけど、こういう状況で良く寝れるなコイツとか、寝るの早くない?とか、寝るなって言ったのにガン寝キメるなとか、何で私がこんな失礼かつヤバイ人の世話をしないといけないんだろとか、色々思ってた筈。だからこそ、あんな乱暴な起こし方をしてしまったんだろうさ。


「でも、もう少し丁寧に起こして欲しかったなぁ」

「……だからってあんな目で睨まなくても良いじゃないですか……」

「それは本当にゴメンなさい」


 幾ら起こし方に思う所があろうと、流石に殺気を飛ばしたのは悪かったと思ってます。寝起きで不機嫌だったからとはいえ、やって良いこと悪いことはある。


「いや、我ながら馬鹿やったわマジで。非日常寄りの住人とはいえ、女の子に殺気飛ばすのはなぁ。反省」

「……一般学生が殺気なんてものを飛ばせることにツッコミを入れたいのですが」

「漫画でおぼえた」

「誤魔化しが雑!?」


 事実なんだけどなぁ。信じられないと言われればそれまでだけど。


「……此処にきて今更ですが、東堂さんを支部に連れてきて良かったのか不安になります……」

「信用できないなら帰してくれても良いのよ?」

「命令なので」

「そっかー」


 速攻で断られた。多分俺は(´・ω・`)という顔をしている。

 とまあ、そんな馬鹿なことを考えていると、いきなり立ち止まった小森さんが『応接室』と書かれた扉をノックした。

 どうやら此処が目的の部屋らしい。


「小森です。東堂さんをお連れしました」

『うむ。入りなさい』

「うわぁ……」


 ……おっと? 何故か小森さんが渋い顔を浮かべたぞ。これは今聞こえた無駄に仰々しい返事の主が原因と見た。


「一応訊くけど、何でそんなアレな顔なん?」

「あ、いえ……」


 俺の質問に『あ、やべ……』みたいな顔をした小森さんだが、暫く考えた後に『ま、いっか別に』と呟き、


「えーとですね、ちょっと中にいる人、ウチの支部長なんですけど、すこ〜し面倒な人でして」


 そんな風に説明してきた。

 ……これアレだな。上司の印象を上げようとしたけど、途中でどうでも良くなったパティーンだな。

 そしてそんな扱いを受けるということは、支部長とやらは大分アレだな?


「……所謂クソ上司?」

「いや、クソではないんですよ。支部長はなんというか、世間一般でいうクソ上司とはベクトルが違いまして」

「ほう?」


 曰く、プライドが高い。偉そう。小物臭い。コネで出世したと言って憚らない。支部長という名のお飾り。凄いビビり。とまあ、欠点を挙げていくと大層残念な方ではあるらしい。


「でも、こういう組織の要職に就くだけあって、根が善人のお人好しなんですよ。それでいて小心者なので、パワハラとかする度胸はありません。無駄に態度と図体がデカい人ではあるんですけど、一周まわってマスコット感があります」

「おけ把握」


 カル○アの新所長みたいなタイプってことね。嫌いにはならないけど、日常的に相手はしたくない感じのキャラか。

 それはそうと、小森さん結構ガッツリ言うのな。ノックした時の音からして、この扉そこまで遮音性高くなさそうだけど大丈夫なん?


『コラ小森君! 聞こえとるぞ!!』


 あ、駄目みたいですね。

 小森さんの方を見ると、慌てた様子で扉を開けようとしていた。


「失礼します!」

「本当に失礼だったよ小森君……!」


 中にいたのは、怒りでプルプル震える小太りの男性と、クスクスと笑っている白衣を着た綺麗な女性の二人。

 男性の方が支部長で、白衣の女性は……笑い声からしてあの時の通信の主か。確か神崎さんだっけ?


「全く最近の若い者は。当人のすぐ近くで陰口を叩くなんてどんな神経をしているのだ!」

「あはは……一応、陰口のつもりはなかったんですけど……」

「無駄に態度がデカいや凄く面倒は立派な陰口だからね!?」


 俺もそう思います。てか、小森さんキミ、さっきの台詞無自覚だったんか。もう本当にポン……。

 支部長さんもコレには苦い顔。頭を抱えながら、湯水の如く湧き出しているであろう文句を口に


「あのね小森君、キミのその自覚無き毒舌はーー」

「はいはい、そこまでにしましょう支部長。いつもなら兎も角、今日はお客様がいるんですから」

「ぐぬっ」


 出そうとしたところで、即座に割って入られた。

 ……ああ、うん。ここで説教させてくれない辺り、この組織の序列というか、支部長さんの立場や扱いが分かった気がする。


「時音ちゃんも。貴女の正直なところは美徳だけど、少し注意して発言しましょうね?」

「はい! 以後気をつけます!」

「……何故小森君は、というか戦姫の皆は、私よりも優子君の言うことを素直に聞くのか……」


 キャラじゃない?

 ……危ねぇ。一瞬口にしかけたぞ。初対面の相手にすら雑な扱いを受けたら、流石に可哀想過ぎる。

 そんな俺の内心を他所に、支部長さんはすぐに頭を振って切り替えた。……この手馴れてる感、多分日常的にこうなんだろうなぁ。


「オホン! では本題に入ろう。キミが東堂歩君だね。私は六色蔵之介。この蝕獣災害対策局関東支部の支部長を務めている」

「はぁ、どうも」


 ムシキ・クラノスケ……ムシ、クラノスケ……ムジー、クラノ……いや、何でもない。大して似てないし。


「そして横にいるのが神崎優子君。我が支部の技術主任だ」

「メインが技術系ってだけで、医療やら研究やら他にも色々やってるけどね。支部長の秘書とかもやってるし。まあ、複数部門の纏め役って認識で構わないわ。よろしくねー」

「は、はぁ」


 何かやけに役職?が多い気がするが、どうなのだろうか? それつまり実質的な支部長では? いや、部外者の俺が心配することでもないんだろうけど。


「……まあ、逃げる時はあの人を押さえれば良いと考えれば都合は良いか」

「いや、ボソッと怖いこと言うの止めてくれないかね? しかも真顔で言ってるところを見るに本気だよね?」

「おっと」


 支部長さんにツッコまれ、思わず口を押さえる。どうやら心の声が漏れていたらしい。お陰で横の小森さんからの視線が痛い。……ところで何で胸に手をやってるんです? 貴女の付けてるネックレス、魔法の杖的な何かだったよね?ガン警戒じゃないですかやだー。


「もうそんなに身構えないでくださいよー。ただのif話じゃないですかー」

「それ、もしかしたら実行するってことですよね? 今の台詞で余計に警戒レベルが上がったんですけど」

「なあ神崎君。彼、本当にここに連れてきて良かったのかね? 思考回路が割とヤバいよ? 私たちみたいな秘密組織に武力解決を匂わせた挙句、それを誤魔化す気ゼロだよ?」

「最近の高校生は過激なんですねー」


 HAHAHAとアメリカンに笑ってみせたら、支部長さんと小森さんの顔が盛大に引き攣った。動じてないのは神崎さんだけ。明らかに一人だけ役者が違うなぁ。


「まあ、そんなことにはならないので安心してくださいな。東堂君に危害を加えようって訳でも無いんですから」

「記憶を消したりとかも危害を加える判定ですよ?」

「あれ凄い面倒だからやりたくないのよねー」

「まさかの実在」


 冗談で言ったけど本当にできるのか、記憶消去。面倒ってことは、魔法的な何かで大仰な儀式でもすんのかね?

 まあ良いや。取り敢えず、危害を加えないという言質は取れた。『面倒だからできればやらしてくれるな』的な含みがあった気もするが、言質をとったことに変わりは無い。


「で、俺は何で連行されたんです?」

「取り敢えず、守秘義務の契約と身体検査ね。まあ、検査の方は必要無さそうだけど。パッと見だけど怪我した様子も無いし、その図太さからして精神的にもノーダメージでしょう?」

「図太いは余計では???」

「という訳でコレにサインしてね」

「無視かい」


 何事もなく書類を出してくる辺り、貴女もどっこいどっこいでは? ブーメランって知ってます?

 まあサインするけどさ。


「えーと……はいはい……」

「あ、ちゃんと読むんですね」

「こういう書類系はちゃんと読まなきゃ地獄見るでしょうが」


 このメカニカル魔法少女、俺のことをどんな風に思っているのだろうか。俺そこまでてけとうじゃねーよ? 明らかに重要書類なんだからしっかり確認するわ流石に。

 ……まあ、それはそれとして。書類の内容は大体把握できた。守秘義務というのは間違いないようで、堅苦しい言葉で『絶対話すな。話を広めるような行為をしたら拘束し、罰則を与える』的なことが書かれていた。

 こちら側が一方的に不利な内容ではないことが確認できたので、サラサラとサインをする。


「これでええですか?」

「はい。大丈夫です」


 サインした書類を返すと、神崎さんは署名欄をチラ見しただけで支部長さんの机に置いた。扱いが雑ぅ。


「さてと。それじゃあ本題に入りましょうか」


 え、これ本題じゃなかったの?


「あの、神崎さん。本題ってどういうことですか?」

「私、これ以上話があるなんて聞いてないんだが?」

「俺帰って良いですかー?」

「これから説明するので、時音ちゃんと支部長はお静かに。あと東堂君は帰しません」

「なして……」


 支部長すら聞いてない本題とか、怖くて聞きたくないんですが。

 そんな俺の気持ちをスルーして、神崎さんはこう言った。


「ねえ東堂君。アナタ、うちで働いてみない?」


 なして!?

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