side 愛海

 私は彼を愛している。


 彼には幸せになって欲しい。


 彼女に彼を幸せにしてもらいたい。


 二人を祝福したい

 


 私は影からそっと支えるだけでいい

 だから、彼に会わないほうがいい、新婦姿の彼女を見たら…… 

 私は正気でいられたくなる……


 そう思ったからこそ、私は結婚式の出席を辞退した。

 そのはずなのに、私は教会へ向かっていた。


 あの男が囁いてから芽生えた、私の中に宿った感情に突き動かされていた。



 私ヲ選バナカッタ彼ガ憎イ


 彼カラ私ヲ奪ッタアノ女ガ憎イ


 結婚適齢期ヲ大キク外レテカラ恋ヲ知ッテシマッタ自分ガ憎イ


 世界ガ憎イ


 ダカラ、コワス


 彼モ、アノ女モ、二人ヲ祝福スルモノスベテヲ



 ソシテ、セカイヲコワス

 


 様々な感情が心の中で暴れまわる中、私は教会へ向かっていた。

 でも、あの人のいる教会まであと少しというところで、私の足は止まっていた。


 

 私と同化した何かが、その超感覚で彼を感じていた。

 愛しい彼が、あの教会にいるのは間違いない。

 そして、教会のそばにいるあの女も……


 今の私なら、誰にも気づかれることなく彼女に近づき、そして殺すことができる。

 私の影に染み込んだ「幸せな花嫁」への怨嗟の感情は、影を刃として、あの女をミリ単位で切り刻むことができるはずだ。

 そう私はバケモノなのだから……


 私はビジネスバックにつけた「牛のぬいぐるみ」を見た。

 私の脳裏に彼との思い出が浮かび上がり、私を正気に戻す。


「だ……、だめ……、彼を悲しませる」


 私は一歩退いた。


 それに、たとえ異能により姿を隠し、誰も私に気づかなくても、きっと彼は私に気づいてしまう。

 二人をつなぐものがここにあるから……。

 


 彼女への怒りと、彼への愛情が拮抗する。



 だけど、私には「いかなければならない理由」もあった。

 私は、自らの首にかけたネックレスを撫でる。

 

 このネックレスのことがなかったら、私は、あの男の囁きに屈することはなかっただろう。 

 こんな醜いバケモノになることはなかったのだろう。


 このネックレスが、私の心のバリアに穴をあけてしまったのだ。

 このネックレスが、私を彼を恋するだけの乙女にはさせてくれなかったのだ。


 だって、私は彼の……

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