side 愛海

 ウェディングベルが聞こえない……




 40年以上生きてきて、あなたに出会い、私は初めて人を愛することを知った。

 愛しいあなたは、私よりはるかに若い、親と子くらい年の離れた男(ひと)。


 私はあなたを愛し、あなたを導き、あなたを育てた。

 あなたは、立派なビジネスマンになった。

 私の横に立ってもおかしくないくらいに。


 でも、あなたは私より、あの子を選ぶのね。


 私よりも若く、私よりも綺麗で、私よりもあなたと運命の絆が強い、幼馴染の女の子を選ぶのね。

 わかっている。

 私よりもあの子がお似合いなのは、私にだってわかっている。


 だから祝福した。

 結婚式の相談にも応じた。


 だけど……

 


 幼いころ、普通の恋愛や結婚をすると思っていた時に夢見ていた結婚式のイメージがあった。


 小さな教会

 オルガンの音が静かに流れる中……

 最愛の人である新郎のもとに向かって、サムシングフォーに身を包みウェディングロードを歩く新婦の姿


 そんな私のイメージ通りの結婚式を、あなたたちは行うのね。

 そして、私にあなたたちの最高に幸せな瞬間を見せつけるのね


 楽しそうに微笑みながら結婚式準備の苦労話をしていたあなた。

 あの時、あなたの私への想いを知って、私はどれだけ惨めな気分になったのか、あなたは知らない。


 だって、私は必死に心の仮面を被っていたから。


 でも、気づいて欲しかった。

 私のあなたに対する切ない想いを……


 女心に気づかないあなたは酷い人

 私の心を奪ったあなたは愛しい人

 

 あなたが私の事をそんな風に思っているのなら

 私ができることは1つだけ

 

 でも、それを行うの事は私に取って……


「本当にそれでいいのですか? あなたは納得できるのですか?」


 私は突然聞こえてきた声に驚き、顔を向けた。

 なぜなら、私は自宅で物思いに耽っていたからだ。

 

 鍵をかけていたはずなのに、初老の紳士が私の眼前にいた。

 初めて見る男の人だったが、柔和な笑みを浮かべていた。

 その笑みをみるだけで心が落ち着いていく気がした。


 老紳士は、私が手にしていたものを見て、目を細めると、私を見つめる。

 その目は、まるで私の心のすべてを見透かしているようだった。


 老紳士は囁くような声で、再び私に問いかける。


「あなたは、それでいいのですか?」

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