第3話 そのアイデアお届けします。

 「……もしもし」

 震える声で女性の声が電話越しに聞こえる。


 公衆電話……魔法のテレホンカードで彼女に電話している。

 あぁ……そんな痛そうな顔するなよ。


 そんな……あんたらの知っている世界ではありえないような……

 嘘なような世界で、根暗な僕の最初で最後の……

 一世一代の告白タイムだ……


 どうか……僕と一緒に……彼女の答えを聞いてはくれないか?



 誰も知らない田舎町……

 ようやく見つけた公衆電話……


 誰も知らないそんな町で……

 僕は魔法のテレホンカードを使って彼女に電話をする。


 ……誰にも知られず……死に行く戦場へと向かう彼女。

 僕はその身代わりになるために……

 僕はこの告白を成功させないとならないんだ。



 …………


 夕日はオレンジ色に世界を染めていた。

 大きな建物なんてないそんな田舎町は……僕を公衆電話の透明なガラスの壁を貫き僕を赤く染めている。


 僕は彼女にどんな話をしたんだっけ?


 彼女の答えを待つ……

 

 彼にテレホンカードを届けた配送業?の女性はそんな夕日を眺めながら……

 そんな彼の行く末など興味無さそうだ。


 不意に後ろからツーツーと電話が切れた音がした。



 「……あれ?」

 さきほどまで、公衆電話の中にいた彼が消えていた。

 忽然と男が消えてしまったように、受話器がブラリブラリと宙を揺らいでいた。

 



△△△




 もしも……この世界には宇宙人が居て、人類は今、その宇宙人と戦っているんだと言ったら君は信じるかい?


 わかっている……君たちはそんな話とは無縁で……そんな僕の話など鼻で笑ってしまうような話なんだろ?

 ただ……もしも、もしも……君たちのそんな暮らしは……君たちの知らないどこかの田舎町の人間が犠牲の中で成り立っていた……としたら……

 

 君たちはそんな僕たちに少しは感謝してくれるのだろうか?


 そんな嘘のような……僕と彼女の物語。


 



 そこで産まれた者は……人生を選ぶ事ができない。


 政府により……秘密裏に隠されるように存在する町。


 僕はこの町の外の世界を知らない。

 だから……普通や日常がここと同じ基準なのかは知らない。


 それでも……必要の無い高層の建物などが無いこと以外はほとんど同じなんじゃないかって思う。

 この町で産まれた者は……普通に親に育てられ、普通に学校へ通い……そして……数ある厳選の中……選ばれた者は……宇宙人と戦わないとならない。

 この町の外の世界を守るために……僕たちはこの町で産まれた瞬間にそう運命が決め付けられているんだ。

 この町の外の人間が……そんな抗争を知らずに生きるために……。


 とは、言っても……宇宙人に対抗するための武器はまだ余り揃っていない。

 だから、その宇宙人と戦うべく選ばれる兵隊は限られている。

 ……だから、何の取り得の無い根暗な僕に……この町の仕来りも……人としての青春も全て僕には無縁だと思っていたんだ。



 だから……そんな嘘のような場所で産まれた僕の人生もなんら……何事も無く退屈に終わる予定だった。



 カーテンを閉めずに寝ていた……何時の間にか天辺にまで昇った太陽の光に照らされ、その寝苦しさに目が覚めた。

 

 いくらぐーたらに生きていようと、おなかは空く……

 僕はダルそうに起き上がると、狭い部屋の冷蔵庫を目指し歩き出す。


 「あっ…いたっ」

 片付けられていないダンボールを蹴っ飛ばしひっくり返し中の物が零れ落ちる。

 黙ってそれを起こし直し、中身を適当にダンボールの中に投げ戻していく。


 そして……懐かしい一つのノートを見つけ……ひろげた。


 中身は思わず目を背けたくなるようなモノだったが……


 この街はそとの世界との交流がほとんどない。


 食料は困らない程度に無料で支給される。

 町には小さな商店が一つあり……

 

 そこの店主の頑張りで外の世界のものをいくつか取り寄せてくれるのだが……

 僕は、いつしか店主の気まぐれで置いてあった一冊の漫画本を手に入れた。


 それから数冊、店主が取り寄せるたび……僕はそれを購入していた。


 本当に数冊……続きが気になったって手に入らない。



 そんな漫画本の後書きとなるような場所で……アイデア募集中とあった。

 小さい頃といっても……まだ17歳になったばかりの僕には、7,8年くらい前の話になるのだけど……その本は不思議なアイテムや魔法で、駄目な主人公を成長させていくようなそんな物語だった。


 そんな作品に感化され、僕は一つのアイデアを書いた。

 魔法のテレホンカード。


 そのテレホンカードで電話し、その相手と心が通じ合い、相手の言葉に「はい」と答えてしまうと、その電話の相手と自分の居場所が入れ替わってしまうというもの。

 それを、外に届くかわからない郵便ポストに小さな僕はそのアイデアの葉書を投函した。


 下手をするとあの葉書は今もあの郵便ポストの中にずっと回収されずに眠っているのかもしれない。


 僕は少しだけ懐かしそうにノートの中を眺めた後、同じようにダンボールの中にそのノートを投げ捨てると、目当ての冷蔵庫を目指す。


 その日は、午後から学校の授業に参加した。

 そして……それは凄い悪いタイミングだったなと思う。


 宇宙人と戦う兵隊に一人欠員が出たという報告……

 そして、このクラスから一人、新しく名誉ある兵隊が厳選されたということ。



 黒板の前に立ち、嬉しそうに笑顔を振りまく彼女。

 気さくで明るい彼女。

 そもそもが、同い年、異性の少ないこの町で……世の男性は一度は彼女に恋をしているだろうと思う。


 この世界の為に死んでくれ……そう言われ喜んでいる。

 家畜のようにそう言い聞かされ……それだけが選択肢の中生きて来た。

 

 死の宣告のようなそんな報告を喜んで受け入れるしかないのかもしれない。


 そして、彼女は最後に……学生として……一つの権利が与えられる。

 たった一日……外の世界に出ることが許される。

 学生と言う青春……外の世界の人間なら誰もが嫌でも与えられる権利を……

 この世界の最後の思い出として……


 そして、その相手に一人だけ……異性でも、同姓でもいい……一人だけ選んで外の世界に行けると言うのだ。


 世界のために戦うヒーローも……学生時代の青春にも僕には縁の無い話だ。

 何となく、気まずい行事に巻き込まれてしまったな……と思いながら、窓の外を眺めていると……日の光に照らされていた僕の前に影が下りる。


 ざわざわとざわつく教室に……


 「よければ、明日、私とデートしてください」

 見上げた彼女は僕にそう告げた。

 僕はきっと世界で一番間抜け顔でそれを聞いていた。


 担任の教師の車に乗り、町の端の方に向かっていた。

 訪れた事すら無かった、町のゲート……

 本当にこの町は隔離されていたのだな……と思う。


 僕たちはこの街の外を知らない。

 街の外の人たちは、僕らのことを知っているのだろうか?


 この街の存在を知っているのだろうか?



 「ごめんね……」

 車の後部座席……僕と彼女は少し離れた位置に座りながら。

 突然、彼女は僕に向けてだろう、謝罪をする。


 「……たいして、知りもしない君を選んで」

 町の外に出る相手……デートの相手。


 「好きな人や……大事な人と……これ以上思い出……作りたくなかったから」

 そうボソリと言う。

 ショックじゃないといえば嘘になる。


 僕は平然な顔をしながら……

 恋人……とか居たのだろうか……そんな自分が今彼女の隣にいる罪悪感を少しだけ感じていた。



 「……自由と言っても余り、羽目を外すな、基本は見てみぬふりをするが……我々の監視下にある……それだけは覚えておけよ」

 教師はそう僕と彼女に告げる。


 「……わかったら、寝ておけ……外の世界に居られるのは明日、一日だけだからな……寝て明日に体力を温存しておけ」

 そう教師は僕たちに告げる。



 それは彼女の気まぐれ……深い思い出にならないための……僕と言う存在。

 だが、その気まぐれで僕は外の世界を知る。




 ・

 ・

 ・



 な……なんだ……ここは?

 初めて出た、外の世界……


 見たこともないような大きな建物があっちこっちに並んでいる。


 僕も彼女も……まるで同じ世界と思えないというように……その景色に圧倒されている。

 行きかう人の多さ……先ほどまで乗っていた車でさえ……まるで別世界のものに思える。



 僕たちは……この世界を守るために……産まれてきて……そして、彼女はこれからその使命を背負うことになるんだ。

 今日、一日を遊ぶにはきっと十分すぎるだろうお金を支給される。


 そんな彼女に許された……たった一日の贅沢。

 


 「うわぁーーーー」

 僕は訪れた店の一つで大きな感動を覚える。


 あの町で見つければ、奇声を上げたいほど喜んでいた漫画の本が山積みになっていた。

 夢にまで……見たあの物語の続き……

 この世界には余るほど有り……僕の知らない物語がいくつも眠っている。


 「……楽しそうだね」

 一人はしゃぐ僕を見て……彼女はそう言った。


 「……初めて……この外の世界の漫画というのに触れた時にさ……もし……僕があの街の外で……産まれていたなら……僕が書いたものが、ここに並んでいた……なんてことあったのかな」

 そう語ってしまったと思った。

 あの町で産まれたものには……タブーであろう……そして、そんな生き方を許される事無く……明日戦争へ向かう彼女……


 その後、何事もなかったように、お互い買い物を楽しんだ。


 そして、食事をした。


 初めて食べるもの……全てが新鮮だった。


 気がつけば、二人とも笑って今を楽しんでいた。



 近づく今日という終わり……

 僕たちの夢の世界が終わりに向かう。



 「あーーーーっ楽しかった!!」

 彼女は笑いながらそう満足そうに言った。


 その言葉に少しだけ僕は不機嫌になる。


 先ほどまで楽しそうに笑っていたのに……彼女は不安そうに僕を見る。



 「本当に……いいの?」

 僕のそんな言葉。

 意図することがわからず彼女は不思議そうに僕を見る。


 「君の人生……本当にこれでいいの?」

 これで終わっていいの?僕はそう尋ねる。


 「うん……それが私の使命」

 そう彼女は不満もなく答える。


 「……なれるといいね、漫画家」

 彼女が続けて言う。


 「……なれる……わけないじゃないか」

 あの町で……あの隔離された世界で……


 「なれるよ……」

 彼女は迷いなく言う。


 「……なんで……」

 なんでそんな事……


 「……私が悪いの全部、全部やっつけて、あの町の仕来りも……全部なくしてあげる」

 そう彼女は言う。


 「……それとも、君が私の人生を全部無かった事にしてくれる?」


 ……そう悲しそうに彼女は笑った。


 気がつくと彼女の手を取っていた。


 「最後に付き合ってほしいところがあるんだ」

 最後の時間……僕は一つの洋服店に入る。


 適当に衣類を選び、試着室でそれに着替えると、試着室に今着て居る者を置いてくるように彼女に指示をした。

 そして、その服の料金を支払うと店を出る。


 店の中、店の外に不自然に居る黒服の男。


 僕は彼女の手を引き彼等の目を盗むようにその場を立ち去る。


 そして、一人の黒服が僕たちの着ていた、発信機付だろう服を手に持ち慌てて外へ出てくる。


 僕はエンジンがかけっぱなしのスクーターに跨り、彼女をその後部座席に座らせると、運転した事の無いそれを少ない知識だけで操縦する。

 側でスマホを片手に話していた男が、自分のスクーターの強引な盗難に驚き近づいてくるが、僕は余りのサイフの中身を彼に渡すとそれを走らせる。


 追ってくる車……

 スピードは完全に負けているが、小回りのきくスクーターで狭い道に入り、その追っ手を追い払う。


 最初は不安そうにしていた彼女だったが……

 彼女は振り落とされない用に僕の腰に片手を回し、

 余った片手で握りこぶしを作って天に掲げ、


 「GO!GO!」と実に楽しそうに後ろで喚きたてる

 追いつかれそうな、そんな窮地さえも楽しむように彼女は……

 僕のその行為を喜んでくれているようでもあった。



 スクーターを途中で捨て……宿泊場所に身を隠す。

 身分証明の要らない、ラブホテル。

 もちろん、その仕組みなど僕たちは知らぬわけだが……


 その部屋の造りにどことなく如何わしい場所なのではという脳裏が過ぎる。


 彼女はお構い無しに、ボフっとその一つしかないベッドに倒れこむと……


 「あははは……こんなドキドキしたの初めて」

 そう思い出すように笑う。


 「何してるの?君もこっち着て座りなよ」

 そう言って、自分のベッドの隣のスペースを叩く。


 「あ……うん」

 僕は戸惑いながらもその言葉に従う。


 そして、彼女は僕の顔を斜め下から覗きこんでいたことにドキリとする。


 「うーーん、やっぱり、それは似合わないかな」

 彼女はそう言うと、僕が変装ようにかぶっていた帽子とメガネを奪うと、ベッドの下に投げ捨てた。


 「何がいい……」

 斜め下から覗き込む反則的な顔に……

 その言葉の意味がわからない。


 「……私を救い出してくれたお礼」

 そう……少しだけ急にしおらしい口調で言う。

 ただ……戸惑う僕に。


 「もう……意気地なし」

 彼女は僕の肩を押し付けるように、両手を置いて……

 僕の唇に自分の唇を押し当てるとその場に倒れた。


 少しだけ、その唇を押し付ける行為を及んで、身体を起こすと……


 「馬鹿だなぁ……わたし……なんで君を選んじゃったのかな」

 そう呟く。

 僕なんて……つまらない人間……そう解釈しようとしたが……


 「馬鹿……逆だよ」

 僕の心を読むように彼女は言って……


 「ありがとう……今日一日…楽しかった」

 そう悲しそうに笑った。


 「僕……もっと頑張るから……もっと、もっと頑張るから……これからも君の事守れるように頑張るからっ!!」

 だから……あそこにはもう帰らないで……ずっと僕と……


 「……ありがとう」

 そう彼女は再び悲しそうに笑う。

 たぶん……彼女は気がついていたんだ。

 その終わりを……


 急にブウンという音と共に室内の全ての明かりと電源が落ちる。


 真っ暗になった部屋。

 それとほぼ同時に……何かの激しい爆発のような音と共にドアが吹き飛ばされ、人の駆け寄る足音が響く。


 密かに購入していたナイフに手をかける前に僕の身体は腕を捻られ、床に叩きつけられる。


 「女をつれて、先におもてに出ていろっ」

 聞き覚えのある男の声と共に、その男以外の気配が消える。


 同時に部屋の明かりが復活した。


 彼女とは別の男がベッドに腰をかけている。


 何時もとは違う黒いスーツ。

 先ほどの黒服達を取りまとめているといっても疑わないくらいの貫禄。

 教師は実につまらなそうにベッドに座っている。


 「期待はずれだな……」

 教師はそう言って、立ち上がると一発僕の顔面をぶん殴った。

 壁に激突する勢いで吹っ飛び、そのまま尻から崩れるように座る。


 ポタリ、ポタリと鼻から血か床に落ちる。

 それを拭う気力すらなく……虚ろな目でその血を眺めた。


 「しっかりしろよっ……なぁ?」

 教師は僕の目の前にしゃがみこむと、前髪を鷲づかみにし僕の顔を自分の顔の側まで引き上げる。


 余った片手で自分の心臓を叩きながら……


 「俺はてめぇに刺される覚悟でここでいるんだぜ?俺を刺して彼女を救うくらいの覚悟で事に及んだと思ったんだけどなぁ?」

 教師はそう……僕に言う。


 「あの町の、糞みたいな仕来り……終わらせてくれるのだと信じていたが……」

 僕のその目を見て諦めたように……立ち上がると、僕を担ぎ上げると車に放り投げ……僕は帰るべき町に連れ戻される。


 

 古臭い学園の校庭……高級車数台と護衛車が数台止まっている。

 

 クラスメートとの別れ……そして恋人らしき男との別れを交わしていた。

 恋人……居たんだな。

 ぼんやりと僕はその光景を眺めていた。


 「おっとっと……すいません、すいません、失礼しまーす」

 そんなお偉い様が、集まる人ごみの中をわざわざ通り抜けるように一人の少女が現れる。

 郵便屋のような服装で小さなバックを肩から下げ、大事そうに封筒を抱えながら僕の方を目掛け歩いてくる。


 「貴様っ……何処から入ってきた!!」

 驚き半分、怒り半分に教師が叫ぶ。


 「へぇ……?」

 怒りの意図がわからないというように、あっちと少女は指を指す。


 「……で、何しにここに来た」

 教師の台詞にその郵便屋の少女は


 「あっ……お届けモノでーす」

 そう僕にその封筒を手渡した。


 僕は受け取った封筒をその場で開封する……

 古い一冊の雑誌が入っていた。


 目次のひとつには、魔法のテレホンカードというタイトルが有り、

 一つの手紙が付いている。


 貴方のアイデア預かりました。

 そう書かれていた。


 郵便屋の少女は難しそうな顔をしながら、こっちを渡すのは彼でしょうか?


 そう言って、もう一つの小さな封筒を彼女の彼氏らしい男に手渡す。


 「あっ!」

 説明書らしいものを教師は郵便屋の少女から取り上げ……


 「このテレホンカードを使って公衆電話から電話をし、心の通じ合う人間と会話して、その相手から「はい」と返事を貰えればその人間と居場所が入れ替わる?なんだこれ……すげぇじゃねーか」

 教師は馬鹿にしているのか本気かわからないトーンで言う。


 「どうする……これを使って彼女と入れ替わるか?」

 そう目の前の彼氏らしい男に教師は問うが……


 「えっ……」

 男はかなり戸惑ったように……声をあげる


 「……安心して、私……兵隊になるのを変われって言われてもはいと答えないよ」

 そう彼女は笑う。


 その責任から逃れたように彼氏らしき男は力が抜けたように膝から座り込んだ。


 「残念だったな、受け取り拒否だ」

 教師は胡散臭い商品を持った少女を摘みあげると、校庭の外へと連れて行く。




 「君は何も言ってくれないんだね……」

 兵隊となった彼女は何時の間にか僕の前に立つと……そう告げる。


 ……いまさら、僕に何が言えるというのか……


 「……初デートと初チュウ相手だったのにな……」

 そう彼女はイタズラっぽく笑うと。


 「……ねぇ、戦争が終わって……帰ってきたら、またデートしようね」

 彼女はそう笑って僕に背を向ける。


 僕はそんな彼女に手を伸ばし……言葉を飲み込む。



 車に乗せられる彼女を背に……



 「あーーーーーーーーーーーーーーーーーっ」

 僕は腹の底から叫び声をあげる。


 そして、何処かを目掛け全力で走り出す。


 そんな馬鹿みたいな話を信じるのかって?

 こんな嘘みたいな場所で産まれたんだぜ?

 こんな理不尽な世界で生きて来たんだ……


 それぐらいの……不思議な出来事が起きたっていいじゃないか。

 そんな奇跡……あったっていいじゃないか……



 僕は全力で走り回り、その背中を捜した。



 「待ってっ!!」

 ようやく追いついた背中を僕は呼び止める。


 「ふぇ?……なんでしょう?」

 郵便屋の少女は振り向く。


 息切れする呼吸を整えながら、僕は片手を彼女の方へ向ける。


 「それさ、元々僕に届いているものだったんだろ?」

 そう彼女に品を要求する。


 「そうですけど……」

 そう言って、素直に少女はぼくにその品を渡す。


 そして、僕は次に懸命に公衆電話を探し走り回った。





△△△




 そして、冒頭に話は戻る。

 ようやく見つけた公衆電話で……僕は彼女に電話をする。


 「………もしもし」

 震える……彼女の声。

 戦場へと向かう彼女。

 

 「……公衆電話から電話してるの?例のテレホンカード?」

 彼女は昔書いた僕の……あんな馬鹿げたアイデアを信じているのだろうか?


 「……さっきも言ったけど……わたし、はいなんて答えないよ」

 そう彼女は、自分の使命と向き合う。



 「……僕には関係のない感情だと思っていた……僕には一生似合わない言葉だと思っていた……」

 テレホンカードの残量は30秒しかない……


 「……たぶん……一生に一度……今日、この日の今……最初で最後……だから……どうか真剣に答えて欲しい」

 僕はそう電話口の彼女に話しかける。


 「貴方の事が大好きです…よければ僕とお付き合いしてくださいっ!!」

 そう僕は一世一代の告白をする。

 テレホンカードの効力とか……そんなことよりも……僕はきっと彼女にこれを伝えたかったのだろう。


 「……ずるいよ……そんなの……」

 彼女はぼろぼろと泣きながら……


 「……はい……

 電話口からその言葉を聞いた瞬間……男の姿が消えた。

 何となくその行く先を見届けに着ていた郵便屋の少女は不思議そうにその公衆電話を眺める。

 さっきまで、男が持っていた受話器が持ち手を無くし、ブラブラと宙にさ迷っていた。


 ………宜しくお願いします」

 わぁっ、さらに郵便屋の少女は驚く、気がつくと目の前にさきほどの兵隊となった女性が居た。


 「…………そんなの……断るなんてできないじゃない………」

 



 それは……君たちの知らない町の話。

 そんな嘘のような物語。


 その世界さ、僕が守ってあげる……

 君のためじゃないけどね……


 彼女を救うための方法……


 

 僕のアイデアが届きました……。

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