第19話 静雫の回想ーダイヤのエースー

 家族を失ってから、親戚の家に預けられた。

 不自由はないけど、どこか退屈な毎日だった。気を遣われているのが分かっていたし、なるべく家に居たくなくて、いつも港まで歩いては日が暮れるまでただ静かな海をぼーっとみつめて過ごしていた。


 そんなある日、知らない女性が話しかけてきた。

「君、いつもそこにいるよね。海が好きなの?」

「……誰あんた」

「この街に惚れ込んで最近引っ越してきた者よ。この前うっかり大儲けしちゃって、その資金でね~。あ、君ギャンブルは好き?」

「ギャン……ブル?」


 近づいてはいけない類の人だ……と直感的に思うも、なぜかその派手に着飾った姿とは対照的な真っすぐな笑顔が僕をその場にとどまらせた。


「あ、もしかして知らないな~?ふふ、教えてあげる。じゃあまずはブラックジャックからやろっか」

 そう云ってその女性はカードをどこからか取り出し、ブラックジャックの説明をし始めた。初対面の子供相手に、むちゃくちゃだと思った。でも特にやることもなかったし良い暇つぶしになると思って僕は勝負を受けた。


 何度か遊んでみた―――が、いつも僕の負けだった。

「くそ……もう一回!!」

「何度やっても私が勝つわよ。それにもう君、賭けるものが無いじゃない」

「……」

 彼女の云う通り、元々片手で握れるほどしかなかった全財産はなくなっていた。

 するとその人は黙り込んだ僕を負けず嫌いだと笑い、どうしてもというなら、と前置きをした。

「私、この近くにカフェを開こうと思っているの。この勝負で君が負けたら、私の店で働くってのはどう?」

「……乗った」

 


 マスターの異能がどんなギャンブルにも勝つ「完全必勝」だと知ったのは、その後暫くしてからだった。

 あの時、最初から勝ち目なんか無かったんだ。イカサマもいいところ、やっぱり関わる相手ではなかった。


 ……でもあの余裕の笑みでダイヤのエースを突きつけられた時、正直いうと、僕はなんだかほっとしたんだ。


 退屈な毎日から、また楽しさを取り戻せる。そんな気がしたから―――

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