Section-2: 彼の者はメスガキ
第29話「それは背中に飛びつく少女のように」
第3惑星「ダンカー」攻略作戦が始まった。作戦目標はマスドライバーのある宙港の制圧なのだが――この攻略作戦の主力に指定されたのが、表現の自由戦士隊のウォリアー隊であった。
というのも、連邦正規軍ウォリアー隊はガス雲の中で大損害を負って再編成を余儀なくされており、そこで比較的損害の少なかった表現の自由戦士隊に白羽の矢が立ったというわけだ。
まあ、主力と言っても何も敵と正面からやりあう訳ではない。その仕事は、連邦正規軍の陸戦隊が担うことになっている。連邦軍艦隊は軌道爆撃を実施し帝国軍の対空兵器をあらかた破壊した後、揚陸艦を使って大規模な陸戦隊を宙港周辺に降ろした。
帝国軍陸戦隊はこれを迎撃するため、軌道爆撃を逃れた地下要塞群から出撃し、激しい地上戦を展開している――こうして帝国軍陸戦隊を宙港外縁まで引きずり出した後、比較的手薄となったマスドライバーに攻撃を仕掛けるのが俺たちというわけだ。
降下ポッドから放り出された俺たちは、なんの抵抗もなくマスドライバー周辺に着陸した。天を衝くような巨大な煙突めいた建物、これがマスドライバーだ。
「ふむ、これで地上部は制圧したわけだが……」
『次は地下にある管制室、ですね』
「ああ」
マスドライバーは巨大なレールガンなのだが、砲身を確保しただけでは使い物にならない。地下にある管制室や、レールガンに電力を供給する発電所を押さえねば利用出来ない。そしてそれらは地下に存在した。俺とジェシカは、事前に割り振られた突入口である「第三搬入路」へと接近した。
それはウォリアー3機が並んで入れるサイズのエレベーターであった。民生用ウォリアーで操作するためのものなのであろう、これまた巨大なボタンを押すと、「チーン」という音と共に扉が開き、何も乗っていないエレベーター・リフトが姿を現した。
「ジェシカ少尉、乗りたいか?」
『いえ……さ、流石に罠なのではないでしょうか……』
「だよなぁ」
俺はエレベーターを懸架しているワイヤーに向けてマシンガンを放った。ワイヤーが千切れ、エレベーターが落下していく……その数秒後、エレベーターの縦坑から爆炎が噴き出してきた。
「まあ、こうなるよな。どれどれ」
俺は爆炎がおさまった後、縦坑に「フザール」の頭を乗り出させた。頭部レーダーや光学センサーで下方を走査する。
「最下層は瓦礫で埋もれてしまったようだが……200m下あたりに無傷の扉がある。そこから突入してみよう」
『了解です』
俺はインナーメスガキに身体を預けると、彼女は「フザール」を駆って縦坑へと身を投げた。200m落下したあたりでジェットを吹かして滞空。真正面に扉を見据える。直上にジェシカがやって来たのを確認すると、扉にビーム砲を向けた。
「ふふっ、まるで煙突からお家に入り込むサンタさんみたいだねぇ……んじゃサンタさん突入しまーす♡」
そう言うやビーム砲を発射。高温・高圧に圧縮された特殊粒子が扉に穴を穿つと同時、扉を蹴り開けて強引にエントリーした!
「おっとっとっとっと、サンタさんにこの仕打はひどいんじゃないかなー?」
出迎えたのは機関砲の弾幕であった。足裏のホバーで床を滑りそれらを回避――ここは倉庫のようで、高さ50mほどの天井の下に、荷物を陳列しておくための巨大な棚が無数に並ぶ広い空間であった。そして棚と棚の間にバリケードと、機関砲が設置されているのだ。
「でもぉ、あたしは優しいサンタさんだからちゃんとプレゼントあげるね♡」
マシンガンで「火気厳禁」と書かれた荷物を撃ち抜き爆発を発生させて煙幕とすると、棚を蹴ってトライアングル・リープ。機関砲を避けながら空中に飛び上がり、ビーム砲を機関砲座に撃ち込んで破壊。
「まずは一つ♡」
機関砲座は全部で3基。残り2基がインナーメスガキを狙おうと上を向くが――
『させません!』
ジェシカがエントリーしキャノンで1基を破壊。残る1基はインナーメスガキがマシンガンを叩き込むと、砲手が全滅したのか沈黙した。
「さてこれでこのフロアはクリアかな?」
『動く熱源あり! 棚の中です!』
「わぁ、布団の中でサンタさんを待ってたのかな?」
棚の中段から、対戦車ミサイルを構えた歩兵が姿を現した。フザールの軽装甲では、直撃すれば大破は免れ得ないが――インナーメスガキは落ち着いて棚をパンチした。
「ウワアアアア!?」
足場である棚を揺らされた歩兵は姿勢を崩し、照準がブレる。発射された対戦車ミサイルは狙いが逸れ、反対側の棚の積荷に当たって爆ぜた。
「寝てない悪い子はぁ、どうしちゃおっかなぁ♡」
そう言いながら歩兵にマシンガンを向けると、彼は両手を挙げて投降した。
((わかってると思うが……))
「戦う意思がない者は殺すな、でしょ? 仕方ないなぁ……まあいいや、そこのおじさん♡ 生かしてあげるから、管制室への行き方教えて♡」
「ヒィイ、教える、教えるよォ! 右手側の奥に、下に降りるスロープがある……そこから行ける!」
「待ち伏せは?」
「ウォリアーが3機!」
「ありがと~♡ んじゃ逃げて良いよぉ♡」
そう言うと、歩兵はロープを伝って棚を降り、へっぴり腰で走り去った。
「んじゃ行こっかジェシカおねーちゃん」
『了解です』
帝国歩兵から教えてもらったスロープの敵ウォリアーは、棚に積んであった適当な荷物を囮に投げ込むことで発砲を誘発し、リロード中に反撃することで簡単に撃破出来た。
その時、音響センサーがスロープのかなり上階から響く戦闘音を捉えた。
「なるほどね、各階に兵力を分散させてじわじわ退く作戦だったのかな?」
『ということは、私たちは敵中ど真ん中に突入してしまったということでしょうか……?』
「そうなるねー」
『先に上階を片付けますか? 味方はまだ上で戦闘中のようですし……』
インナーメスガキはレーダーで味方の位置を確認する。俺たちと重なるようにして表示されている光点には、「A中隊第2小隊」と書かれていた(アビー少尉のいる小隊だ)。つまり彼女らが上階で戦っているということになる。
((アビー少尉も含めて、第2小隊は優秀なパイロットが多い。任せておいて大丈夫だろう。俺たちは先に管制室を押さえよう、自爆措置でも取られたらコトだ))
「和唐瀬は下に行くべきだってさー」
『了解です、では私は上から敵が降りてこないか、後方を監視しながら進みますね』
「よろしくー♡」
俺とジェシカがスロープを降りてゆくこと、しばし。ジェシカが声を上げた。
『ソナーに感あり! 後方からウォリアー1機が迫ってきます!』
「おっと?」
俺とジェシカはスロープの踊り場に布陣し、上に向けて武器を向ける。程なくして、1機のウォリアーが姿を現した。インナーメスガキは引き金を引きかけたが――既のところで中断し、武器を下ろした。ジェシカも同じようにした。
「ありゃ、あの機体はアビー少尉だね」
((危ない、友軍誤射するところだったな……だが何故彼女がここに? 味方はどうした?))
「さぁ?」
((ちょっと操縦変わってくれ))
俺はインナーメスガキから身体の操縦権を取り返すと、アビー少尉に通信を入れた。
「アビー少尉、何故1機で降りてきた? 味方はどうしたんだ?」
『まだ上階で戦っています』
「また独断先行か。何故……」
『言ったじゃないですか、追いかけるって』
「アビー少尉、ここは戦場だ。個人の感情で動いて許される場所ではない」
『理解しています。それにこれは正式な命令を受けての行動です』
「何? 小隊長に命令されたのか?」
『いえ――』
瞬間、アビー少尉のウォリアーが急加速した。俺もジェシカも、咄嗟のことで反応出来なかった。いや、何故アビー少尉が振動剣を構えて突進してくるのか、理解出来なかった。
『きゃあああああああッ!?』
「ジェシカ!?」
アビー少尉はジェシカの機体の四肢を斬り裂き、擱座させた。俺は理解が追いつかぬまま、アビー少尉にマシンガンを向けて後ずさる。通信機から、ぞっとするほど冷たく、それでいて嘲笑するような声が響いてくる。
『――皇帝陛下に、命令されました。表現の自由戦士隊の謎のエースの正体を探り、無力化しろと。……ね、ちゃんと命令通りでしょう? 和唐瀬大尉』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます