第28話「2人の告白」
俺は椅子に腰掛け、両手を顔に当ててうなだれていた。その正面には、土下座するアビー少尉がいる。
「本当にすみませんでした……」
「プライバシーってもんがあるだろ、いやそれ以前に常識とかさぁ……」
「うう、都会の人たちの距離感がよくわからなくて……」
「あー……うん、そうだったな。よろしいかアビー少尉、田舎ではどうか知らんが、こっちでは人のものを勝手に弄り回してはいけないんだ。OK?」
「はい、深く理解しました……あの、ときに和唐瀬大尉殿」
「なんだ」
「大尉が私を抱いてくださらないのは、そのう……もっと幼い女の子が好きだからですか? ランドセル背負ったメスガキみたいな……」
「違うわ!! ぶち殺すぞ!!」
「ぴい!?」
俺が思わず机を叩くと、アビー少尉は正座の姿勢のまま小さく飛び上がった。
「で、でも、そうとしか思えないじゃないですか! メスガキもの200点以上買ってらっしゃるんですよ!? あっ、では煽りが足りなかったんですか!? わかりました、私一杯煽ったり罵倒したりしますから!」
「違うと言っているだろうが!? ……良いか少尉、俺が君を抱けないのはひとえに年齢の問題だ」
「やはり幼女が……」
「違う!! 年齢差だよ!! ……冷静に考えてみろ、俺と君は10歳以上歳が離れている」
「連邦法では16歳から結婚出来たと思いますが……」
「法ではな? だがともすれば女子高生であっても良いはずの君と、アラサーの俺とでは釣り合うまい。傍から見れば、年長者が経験不足の若者を騙し込んでいるようにしか見えないし、俺もそういう実感を覚えるだろう」
「大尉殿に騙されたとは思いませんが? 私は本気でお慕いしています」
「その恋慕が憧れを履き違えたものなのか否か、正常に判断出来るほど君はまだ人生経験を積んでいない」
「それ、は……」
アビー少尉は反論出来ず、黙ったままふわふわと宙を漂い、天井に頭をぶつけて再び床へと戻ってきた。……うん、この方向なら納得してくれそうだな。仕上げにかかるとしよう。
「率直に言ってしまえば、俺から見て君はまだ子供だ。俺は子供を性愛の対象として見る嗜好は持っていない。君を抱けない理由は、以上だ」
((あっ、バカ和唐瀬。今のは矛盾してるって思われるよ))
インナーメスガキがそう指摘するのと同時、アビー少尉が「なにをいっているのか わからない」という困惑顔になった。
「ん、んん?? えっと、でも大尉はメスガキものがお好きなんですよね?? だって200点ですよ200点。めちゃくちゃ子供を性愛の対象として見てなきゃこんなに買わないですよね??」
((……しまったァー!?))
((言わんこっちゃないバカ和唐瀬! ざこ論理! 話の組み立て方がくそざこ!))
「YESロリコン、NOタッチということでしょうか……? でも私は連邦法上、合法ですよ……? いっとき触れて、慰めていただくだけでも……」
まーたアビー少尉が抱くよう迫ってきた。なんなんだこの娘は、淫乱なのか?? ……しかしマズいことになったぞ、彼女を諸々納得させるためには、俺の秘密を話さざるを得ないのではないか?
((おいメスガキ、なんか良い案無いのか))
((思いつかない。っていうかカミングアウトしちゃって良いんじゃない? 表現の自由戦士隊の人たちならさ、受け入れてくれると思うんだけどなぁ。ジェシカおねーちゃんだって何も言ってこないでしょ? 裏声は流石に面白がってるふうだけど))
((だ、だが……))
((まーたそうやって恥ずかしがって躊躇うー。ここの面子はさ、和唐瀬を仲間として受け入れてくれたじゃん? その仲間を少しは信頼してさ、自分をさらけ出しても良いと思うんだけどなぁ))
インナーメスガキと問答することしばし。アビー少尉が再びパイロットスーツをはだけさせようとしたので、とうとう俺は観念した。そして俺の秘密――脳の神経シートの異常で、メスガキロールプレイをしている間だけ身体能力が強化されること。今までの戦果はその能力のお陰であること。インナーメスガキの存在。メスガキ性を高めるため、メスガキもの作品を鑑賞していたこと――をアビー少尉に話した。
「……笑ってくれて良い。俺でも冗談みたいな話だと思う。だが、本当なんだ」
俺は羞恥のあまり顔を覆ってうなだれた。恥ずかしくて死にたい。……しかしアビー少尉は、俺の肩に手を置いた。見上げてみれば、彼女は至極真面目な顔で頷いていた。
「しょ、正直、全てを理解しきったとは言えません……ですがそれは、笑われるようなことではないと思います。だって発端が事故のようなものですし、メスガキ化を隠す心情だってわかります。恥ずかしい、ですもんね」
「ああ、正直死にたいくらい恥ずかしい」
「し、死なないでください。死ななくて良いんです、私は受け入れられますから。……でも、秘密にしておきたかったことを言わせてしまって本当にすみません」
「…………」
「それと、大尉がロリコンではないこともわかりました。……つまり私は現時点で脈なしってことですね。でも」
アビー少尉は、すうっと息を吸って、それからはにかんだ。
「それでも、私は貴方が戦う姿に惚れたんです」
「……幻滅しないのか? コクピットの中ではメスガキロールプレイをしているんだぞ、俺は?」
「そりゃ勿論、実際見たら驚くでしょうけど。でも、幻滅はしません。和唐瀬大尉とインナーメスガキちゃんは一心同体だから、その強さは和唐瀬大尉のものと言えます。 なら私の気持ちは変わりません。私は、強い人が好きですから」
「少尉、どうして君はそこまで強さにこだわるんだ……?」
「……皆、死んでしまったからですよ。父も、兄も。私を慕ってくれた人たちも、皆戦いの中で死んでしまいました。もう、あんな思いをするのは嫌なんです」
アビー少尉は寂しそうに目を伏せた後、にこりと笑った。
「大尉殿、貴方は私が見てきた中で一番強い人です。だから、貴方が生きている限りずっと追いかけます。私が仕留めるまで、追いかけます。覚悟しておいてくださいね!」
彼女はそう言うや、走って部屋を出ていってしまった。
((すっごい求愛だったねぇ? ずっと追いかけるってさ?))
「勘弁してくれ……」
予想だにしない展開になったが、(追いかけられる以外は)丸く収まったので良しとしよう。……滅茶苦茶に疲れたが。俺はベッドに飛び込んで枕に顔を押し付け、頬を緩めた。ジェシカに続いて、アビー少尉にも俺のメスガキ化を受け入れて貰えたことが、嬉しかったのだ。
インナーメスガキの言う通り、表現の自由戦士隊の仲間なら俺を受け入れてくれるかもしれない。ありのままの俺を。……そう思うと、心が少し楽になった。
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