第17話「理解らせられて、理解らせて 後編」
戦闘が始まった――瞬時、俺はメスガキに身体の操縦権を渡した。
((というわけで頼んだメスガキ!!))
「うわっ、くっそ情けなーい……まあいっか、ちょっと遊んであげる♡」
「なんだコイツ? 急に裏声に……ぐッ!?」
インナーメスガキは正確な3連続射撃で、ジョンの右カメラアイを撃ち抜いた。当然防弾ガラス製だが、3連撃も受ければヒビも入ろう。まずは視界を奪う作戦だ。
「貴様!」
ジョンは素早いサイドステップで追撃を躱しながら、左腕をインナーメスガキにかざした。上腕の装甲が展開してサブマシンガンの銃身がせり出し、火を吹いた!
「あははっ、ざこざーこ♡ 油断して右目がダメになった挙げ句、射撃も当たらないなんて恥っずかしい~♡」
インナーメスガキはサブマシンガンの掃射を、驚異的なスプリントで駆け抜けて回避。その間にもアサルトライフルをジョンの頭に撃ち込み牽制する。
「この動き、貴様も機械義体か!?」
「あたしは右腕以外ウェットだけどー? あれあれ? 全身
「貴様は男だろうがーッ!!」
――こうしてインナーメスガキが気を引いている間。ジェシカはジョンの後ろに回り込み、飛び上がった。
頭に組み付き、拳銃で左カメラアイに2発、左右の聴音センサーに1発ずつ接射。
「ぐうっ!?」
「エロ同人は嫌ーッ!」
「このっ……」
機械義体兵は自らの頭を殴りつけるが、その寸前にジェシカは蛇のような動きでジョンの身体をぬるりと滑り降り、頭から胸へ、そして背中へと回った。その間に拳銃を捨て、PDWを背中と背部ジェットパックの継ぎ目に接射。ボルトが弾け飛びジェットパック脱落。
((歩兵課程って凄いんだなぁ))
「そういうレベルじゃない気がするけどねー?」
「女ァ!」
ジョンは背中を反らしつつ、右の踵で背中を蹴った。しかし既にジェシカは胸側に回り込み、ジョンの腹の上に立っていた。股間にPDWの照準を合わせながら。
「えっと、股間は?」
「……ウェットだ」
ジェシカはPDWの残弾を全て吐き出し、ジョンの股間を滅多撃ちにした。
「ぐおおおおおおおおおおおおッ!?」
「こ、これでエロ同人行為は無理ですね……」
ジェシカは地面に降り立ち、彼の頭にアサルトライフルを突きつける。ジョンは股間を抑えて前かがみになっている――その股間からは血液ではない、黒くドロリとした液体が漏れていた。
「ジェシカおねーちゃん離れて!!」
「ッ!?」
ジェシカが飛び退くと同時、黒い液体が発火した。またたく間に、ジョンが炎に包まれる。しかし彼はそれを意に介した様子もなく、すっくと背を伸ばした。
「お気に入りの装備だったのによォー、この火炎放射器……ファックした女をこれで内側から焼き殺すのが最ッ高にスカッとするのによォー……」
「並のエロ同人より酷かった!?」
「キレちまったぜ……遊びは、終わりだ」
ゾッとするほど冷たい声が響くと同時、ジョンは横薙ぎに腕を振った。ジェシカは飛び退って避けたが、ほんの少しだけジョンの拳が掠ってしまった――ただそれだけで、ジェシカの身体が吹き飛んだ。
「ジェシカおねーちゃん!?」
ジェシカは柱に激突し、その身体からだらりと力が抜けた。生死不明。
((や、野郎!))
「死んだか? まあいい、死体でも楽しみようはある……次はお前だ、裏声の気持ち悪い男」
「はぁー? あたしれっきとした女の子ですけどー?」
「ごたくに付き合う気はない、死ね」
ジョンの肩から12発のマイクロミサイルが射出された。さらに右腕からサブマシンガンがせり出し銃撃。
「やっば……」
さしものインナーメスガキも色を失う。アサルトライフルでミサイルを撃墜しながら走り回ってサブマシンガンを回避するが、回避方向は限定されてしまう――そこに、ジョンが回り込んでいた。丸太のような腕の振り回し。
「ひゅっ」
ブリッジ回避。続いてジョンの前蹴り。三点倒立から頭と腕のバネを使って飛び上がり回避。そして上下逆さまになりながらアサルトライフル射撃。全弾をカメラアイに。防弾ガラスが砕け、両目破壊。
「ざこざーこ♡ 格闘戦挑んでこのざま♡」
「今の動きは、悪手だな」
「へっ?」
がし、とインナーメスガキ――いや、俺の胴体が鷲掴みにされた。
「飛び上がった時点で、お前の未来位置は予測出来る……目が見えずとも掴むことは容易だ。射撃せずパーソナルジェットで離脱されていれば別だったがな。功を焦ったか、慢心したな?」
「あ、あれっ? や、やば……」
インナーメスガキは身を捩りながらジョンの手を叩くが、鉄を叩く音が虚しく響くだけで拘束は解けない。そしてジョンは圧倒的な握力でじわじわと胴体を締め上げ始めた。
「ぐえええええ!? な、内臓潰れちゃ……っ」
「殺す前に1つだけ聞きたいことがある。お前の身体能力の根源は何だ? 急にメスガキの真似を始めたからヤクでもキメているのかと思ったが、お前の目はヤク中の目ではなかった。どういう原理だ?」
「は、話しますぅ! 話しますから殺さないでぇ!」
「殺すのは確定事項だ、お前に残された選択肢は喋って楽に死ぬか、喋らず苦しんで死ぬか、この2つだけだ。どちらを選ぶ?」
「嫌ーっ! 生意気言ってすみませんでしたぁ! お目々壊しちゃったことも謝りますぅ! 機械義体兵に勝てると思ったあたしがバカでしたぁ! 生かしてくれたらなんでもするし、全部喋りますぅ! だから命だけは助けてくだしゃいいいいいっ!」
((わ、
「だ、だって無理らよぉこんらのぉ!!」
((ああクソッ……いや、いっそ理解らせられたフリでも良いからあと数秒稼げ!!))
「フリじゃないでしゅぅうう! 本当に理解っちゃったのぉ! 機械義体になんて勝てないのほぉぉおお!」
「誰と話している? やはりヤク中……?」
ジョンがそう首を傾げた――その背後に、彼の巨体をも凌ぐ巨大な影が姿を現した。そいつはジョンの頭を、巨大な指で摘んだ。
「ムッ!? なんだっ、これは!?」
ジョンはインナーメスガキ、否、制御権を取り戻した俺の身体を手放して自分の頭を触った。俺は受け身を取りつつ、巨大な影を見上げた――8mの鋼鉄の巨人、ウォリアーを!
「畜生、道理で来るのが遅いと思ったぜ……」
『いやー、呼ばれて近くまで行ったは良いが、機械義体兵の姿が見えたんでね。こりゃ勝てねえと思って急いで引き返して、ウォリアーで壁掘って駆けつけたぜ』
ウォリアー――右腕をショベルに換装したジェシカの機体から、もと捕虜の声が響いた。
「っていうかお前、ウォリアー操縦出来たんだな」
「戦闘は無理さ、だがこういう軽作業くらいは出来る。なんせウォリアーで秘密通路を建設したのは俺だからな」
「なるほどね……」
『ま、ちと遅れちまったが……結果的に最高の判断になったろ?』
「……へへっ、何も反論出来ないな」
『で、コイツはどうすれば?』
「生かす価値もないクズだ、そのまま捻り潰せ」
『アイアイ』
ウォリアーが、ジョンの頭をつまむ指に力を込め始めた。
「オイ、やめろ!? やめてくれ!」
「……悪いがな、俺と俺の仲間、そして無辜の市民に手を出す奴は許さないと決めたんだ。死ね」
カメラアイを破壊したので見えてはいないだろうが、俺は親指を下に向けた。ジョンはジタバタともがくが、ウォリアーの膂力を振りほどくことは出来ない。彼の頭の装甲板がどんどんひしゃげてゆく。
「ゆ、許して……な、なんでもしま……アガガガガガガ」
空き缶が潰れるような音とスピーカーが壊れる音が同時に鳴り響いた。……ジョンの潰れた頭から、ウェットな脳の破片が飛び出した。
「……よし、操縦代わってくれ。そしてジェシカを診てやってくれないか」
『アイアイ』
俺はもと捕虜と操縦を代わり、中央司令室へと向かった――アマイ少将は、瓦礫の上に置いたカメラに向かって熱弁を振るっていた。
「貴様らの卑劣な工作員は排除した! 即刻、戦闘を停止せよ!! 発破装置なぞいくらでもあるんだ、すぐにでも換装して都市を爆破出来るんだからな!!」
「卑劣な工作員はまだ生きてるぜ、卑劣な将軍殿?」
「なに――あっ」
アマイ少将は、俺の――ジェシカの機体を見上げた。そして観念したのか、ホールドアップした。
「正規軍の方々、聞こえてますかね? 今度こそアマイ少将を確保しました」
――正規軍首脳部と少々やりとりした後、秘密通路を通って陸戦隊がやってきて爆弾を解除しはじめた。帝国兵も集まってきたが、アマイ少将を人質にすると武装解除に応じた――そして「地下市街に浸透され、総司令官が捕虜になった」という報は帝国兵の間にまたたく間に広がったのだろう、地上の帝国兵たちも次々に投降したらしい。
惑星コリンスでの戦いは、終わったのだ。
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