第15話「潜入開始」

 もと捕虜たちと協力して、使えそうな武器を拾い集めた。もともと連邦軍が保有していた武器は全て持ち去られており、集まったのは帝国軍が持ち込んだものだけだ。といっても、その殆どが俺とジェシカと交戦した際に殆どが壊れてしまっていたが。


 結局、使えそうな武器は歩兵用のアサルトライフル4丁、拳銃12丁だけだった。これに俺とジェシカのPDW2丁を足したのが、今使える全ての武器だ。あとはパイロットスーツについているパーソナルジェットくらいしか作戦に役立ちそうなものはない。


 例の秘密通路は途中まではウォリアーで通行出来るが(ウォリアーで掘削したからだ)、地下市街への入り口の扉は生身の人間しか通れない大きさだという。必然的に、これらの武器と装備だけで潜入作戦を実行することになる。


「……まさか全員分の火器すら充足しないとはね」

「こ、これ、潜入する人員を絞った方が良いのでは……? 弾薬も限られてますし……」


 ジェシカの言葉にもと捕虜が頷く。


「ああ、それが良さそうだ。……そもそも俺ら、サボっててまともな訓練積んでないからな。潜入作戦なんて出来そうにもねぇ」

「お前らマジで使えねえな!? そんなんだから要塞が簡単に落ちるんだよ!」

「なんの反論も出来ねえ。まあともかく、俺たちじゃ足手纏いになりそうだ。だが離脱の支援や、もしもの時の突撃要員くらいは務めさせてくれ」

「ああそうしよう、お前たちは地下市街の入り口付近で待機しててくれ」


 結局、潜入作戦は俺とジェシカだけでやることになった。それぞれPDWに加えてアサルトライフルを背負い、拳銃をホルスターで腰に釣った。PDWの装弾数は50発で予備弾薬なし、アサルトライフルの装弾数は32発で予備弾薬は4マガジン。拳銃の装弾数は8発、予備弾薬なし。残りの銃器と弾薬はもと捕虜たちが持ち、予備部隊として控える。


「よし、じゃあ作戦を確認するぞ。俺たちは秘密通路を通って地下市街へと潜入し、そこに仕掛けてあると目される爆弾を発見、無力化する。作戦が成功次第、提督に連絡を入れるが……」

「流石に個人無線機じゃあ地下市街から電波は届かんだろう。だが幸いここの司令室の通信設備は生きてる、こちらで中継しよう」

「よし、頼んだ」


 通信機の設定を終え、ついに俺たちはガイズの地下市街へと出発した。資材搬入場の横に工事中の区画があり、盛り土がしてあるところがあった。


「お嬢さん、あれだ。あの盛り土をどかしてくれ」

『りょ、了解』


 ジェシカが操るウォリアーが、民生用ウォリアーからもぎ取ったショベルアーム(俺たちのウォリアーと互換性があったので換装出来た)で盛り土をどかした。……すると、ウォリアーが通れるような広さの通路が姿を現した。しかも土を掘っただけでなく、コンクリで壁面を補強してある、ちゃんとした通路だ。


「随分整ってるな……」

「ああ、要塞用の建材ちょろまかしてしっかり作ったからな」

「その建材で防御設備を建設しとけ!!」

「なんの反論も出来ねえ」


 その後、ジェシカのウォリアーの手や肩の乗せてもらいながら通路を進むと、行き止まりにたどり着いた。壁面に人間用の扉が1つだけある。


「この扉を開けりゃ、そこはもう地下市街の一番端だ。まだコンクリで補強されてない工事区画だから、こうしてこちらから穴掘ってたどり着けるってワケよ」

「なるほどな……いや、そうなると向こう側からモロバレなんじゃないか、この扉は?」

「ナメるなよ、向こう側の扉の表面はどこからどう見ても岩にしか見えないよう丁寧な偽装を施してある」

「その技術を要塞防衛に活かしとけ!!」

「なんの反論も出来ねえ」


 ウォリアーから降りたジェシカを伴い、俺は扉をゆっくりと開けた。その先には確かにコンクリートで舗装されていない、岩や土がむき出しの空間が広がっていた。


「よし、じゃあ行ってくる。お前たちは扉付近で待機しててくれ」

「ああ。……不甲斐ない俺たちのために、危険な任務を背負わせてしまって申し訳なく思う」

「マジでやる気が失せかける不甲斐なさだぞ??」

「なんの反論も出来ねえ……だがあのアマイ少将とかいうクソ野郎のお陰で目覚めたよ。今こそ、無駄に食いつぶしてきた税金分は働かにゃ市民たちに……俺たちの故郷に申し訳が立たねえ。必要とあればいつでも呼んでくれ、肉の壁くらいにはなる」


 もと捕虜たちは全員頷いた。


「……わかったよ。まあ俺とジェシカだけでどうにかなれば、それが最善なんだがね。さてジェシカ、行くぞ」

「は、はい……!」


 俺とジェシカは地下市街の工事区画を進んだ。帝国軍の哨兵はいないし、トラップの類もない。そのまま歩みを進めると、コンクリートで舗装された広い――都市まるごと1個が入ってしまいそうな――空間に出た。1辺が5m以上ありそうな角柱が、等間隔でそびえ立ち天井を支えている。そしてそれらの間に建設資材や工事用の照明が雑多に置かれていた。


「この広さ、爆弾を探すのは難儀しそうだな……」

「いえ、大尉。あれを見て下さい」


 ジェシカが指差す先には、あの大きな角柱――その壁面に、小型の爆薬のようなものが仕掛けられていた。


「早速か、でかした……いや、この大きさ。これ1つだけということはあるまいな」

「ええ、恐らく……幾つかある、重要な柱に仕掛けられているかと……。てっきり街を下から丸ごと吹っ飛ばすものかと思っていましたけど、この感じだと、街の地盤を破壊するのが目的、なのでしょうか……?」

「かもしれんな。爆薬が足りないならそうするのが合理的……とはいえこの広さだし、構造もわからん。探すのが手間なのは……む?」


 暗くてよく見えなかったが、目を凝らしてみると爆薬からコードが伸びているのがわかった。それは、地下市街の中心部に向かって伸びていた。


「い、今どき有線起爆とはね……帝国軍も有り合わせの資材でこの工作をやったってわけか」

「で、でも、これならこのコードを辿っていけば……?」

「ああ、発破機に辿り着けるはずだ。行こう」


 爆弾から伸びるコードに沿って歩き出そうとしたその瞬間、遠くから足音と話し声が聞こえてきた。


「ったくよォ、なんでこんな年中薄暗いところを警備しなきゃならねぇんだよォ」

「愚痴るな愚痴るな。要塞に配備されるよりは断然マシだったろ?」

「まァ、それはそうだわなァ。なんせあいつら、敵を引き込むためだけの捨て駒だからなァ」


 ……数は2人。会話内容と、投げ出すような足音からして警戒している風ではない。隠れてやり過ごせれば良いのだが……悪いことに、彼らはこちらに向かってきていた。


「どうしましょう、大尉……!」

「柱の周りを回ってやり過ごす……いや、だめだ。巡回ルートがわからん以上、いつ追われる形になるかわからん。やるぞ、静かに」


 ジェシカと小声で話し、頷きあった。帝国兵が、雑談しながら俺たちが隠れている柱に近づいてくる。


「だがよォ、俺ァやっぱ地上勤務が良いぜ。パトロールって名目で民家に押し入ってよォ、女をブチ犯してェぜーッ!」

「それは言えてるなぁガハハハ!」


 ――瞬間、俺は柱の陰から飛び出した。1人の帝国兵の首を、機械義手の右手で掴む。そして軍用機械義手の握力に任せて指を握り込むと、ボキリと音がした。


 その隣で、ジェシカが宙を舞っていた。柱を蹴って飛び上がった彼女は、もう1人の帝国兵の首筋に右脚を絡みつかせ、太腿とふくらはぎの間で首を締め上げた。急にジェシカの体重が上半身にかかった帝国兵は耐えきれず倒れ込むが、ジェシカは彼の頭を素早く両手で掴むと勢い良く180度回転させた。頸椎骨折。彼は痙攣を始め、すぐに動かなくなった。


「……お前、凄いな」

「元歩兵課程、ですから」

「歩兵課程が怖くなってきたよ」


 俺も含めウォリアーパイロットは全員、基本的な歩兵戦闘技能を習っている。ウォリアーが人型兵器である以上、歩兵戦闘技能が活かせるからだ。だが俺はジェシカみたいな動きは習っていないぞ。本職の歩兵は恐ろしいな……。


「……じ、実は、スパイものの映画が好きで……その動きをちょっと真似て、みました」

「な、なるほどね」


 そう言ってにへらと笑うジェシカは、身体のラインがはっきりと出るパイロットスーツの上に各種武器と予備弾薬を身に着けているせいで、「巨乳美人スパイ、あるいは特殊工作員」と言われれば納得してしまいそうな見た目だ。


「まあいい、こいつらの死体を隠して先に進もう」

「は、はい」


 俺たちは建設資材の間に死体を押し込むと、爆弾から伸びるコードを辿って歩き出した。

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