第13話「弾幕は白き五月雨の如く」
要塞の地表構造物は軌道爆撃で崩壊しており、戦闘能力を喪失していた。しかし周囲にある開口部から、わらわらと戦車や装甲車、果てはライフルだけを持った歩兵まで飛び出してくる。
「んー、ウォリアーが入れそうな開口部は……あった♡」
インナーメスガキはマシンガンで歩兵を掃射しながら、ジェシカに目標の座標を送った。
「んじゃ突入~♡」
「た、大尉。私たちだけで大丈夫でしょうか?」
「大丈夫大丈夫、どーせ敵は旧式の戦車と民生用のウォリアーしかいないんでしょ? 楽勝だよぉ」
そう言いながらインナーメスガキとジェシカは開口部に突入し、要塞地下へと潜り込んだのだが――すぐさま熾烈な砲火にさらされ、物陰に隠れることを余儀なくされた。
『ウワーッ! 無理です無理です無理です! 引き返しましょう!』
「いやー、こうなっちゃたら背中見せたほうが危ないんじゃないかなー?」
俺たちは今、資材搬入用であろう広い空間にいる。正面奥にはさらに奥へと繋がる通路が見えるが、そこにウォリアー4機が陣取っているうえに、砲台やガトリング・タレットが設置されていた。
敵ウォリアーは民生用(つまり建設作業用)にマシンガンを持たせただけのものだが、砲台やタレットと援護しあいながら間断なく射撃を加えてきている。
「んー、弾幕が厄介だなー。一瞬でも目眩まし出来ればどうとでもなるんだけどなー」
『め、目眩まし……? あっ! わ、私、煙幕弾持ってます!』
「わぉ! 気が効く~♡」
『わ、私の役目は大尉の援護だと思って、念のため持ってきたんです!』
「さっすが~! じゃあジェシカおねーちゃん、それ正面に投げてくれる? あとは私がどうにかするから、出来そうなら援護して♡」
『りょ、了解です。じゃあ投げますよ……今!』
ジェシカ機が物陰から煙幕弾を投げ込み、それは敵ウォリアー隊と俺たちの中間あたりで爆発した。白煙が立ち込め、視界が遮られる。俺たちの軍用ウォリアーのカメラなら赤外線ヴィジョンで何も問題なく見通せるが、民生用ウォリアーにはそんな機能はついていないのだろう。途端に弾幕が乱れる。
「じゃあ、はじめよっか!」
インナーメスガキが物陰から飛び出す。煙幕の影響を受けていない砲台やタレットが途端に砲弾を送り込んでくるが、直撃するものだけ避け、それ以外は装甲の曲面で受け流す。またたく間に装甲表面の塗装が剥がれ、無数の白い傷跡がつく。
「やーん、ぶっかけされたみたいになってるじゃーん♡」
((気持ち悪いこと言ってないで敵を倒せ!))
「わかってるよぉ、それそれ♡」
マシンガンでタレットを破壊。ビーム砲で砲台を焼き切る。そしてジェシカの援護も加わってゆくと、あっという間にタレットと砲台が全滅した。残るはウォリアー。振動剣を抜き放って襲いかかる。
『うわあああ、来るな! 来るなー!』
「あはっ、女の子に近づかれて逃げちゃうなんてー、ウブな童貞さんなのかなー?」
乱射されるマシンガンの弾幕を避けながら、1機の懐に潜り込んだ。
「はい童貞1人斬り~♡」
『ぐわあああああ!』
振動剣で胴体を斬り裂き撃破。次の1機に向かう。
『畜生、畜生―ッ!?』
そいつは棒立ちのままマシンガンを撃ってきたが、そのマシンガンが爆ぜた。ジェシカの援護射撃だ。
「ナイス援護♡ はい童貞2人斬り♡」
『ぎゃあああああ!』
コクピットに振動剣を突き刺す。残り2機。
『こ、こんなところで死ねるかよぉ!』
『生き残りゃ貴族に叙任してもらえるんだ、邪魔するんじゃねぇーッ!』
「んー? それが貴方たちの戦う理由なんだー?」
残る2機は、右腕に取り付けたショベルアームを振り上げて突撃してきた。だがインナーメスガキはそのクローアームを無慈悲に斬り落とす。
「じゃあ貴方たち貴族になれず、平民のままここで無駄死にするの確定だね♡ だってあたしが殺しちゃうからねぇ♡ ざーこ♡ ざこ平民♡ 封建ヒエラルキーの下層民♡ まともな兵器与えられなかったことを呪いながら死ね♡」
袈裟斬り。逆袈裟斬り。抵抗する隙すら与えず、2機を撃破。ご丁寧に刃の軌道がコクピットを通るように斬ったので、確実にパイロットは死んだだろう。
これでこの資材搬入場の敵は全滅だ――破壊された砲台から、生き残った砲手が這い出してきた。彼は俺たちを見ると両手を挙げた。その顔は恐怖に歪んでいた。
しかしインナーメスガキは口角を吊り上げ、砲手にマシンガンを向けた。
((待て、やめろ! やつは降伏の意思を示している!))
「だからなぁに? 敵でしょ? 殺しても問題ないじゃーん」
((もう戦う意思が無いんだ、あいつは! ……戦う意思が無い者を殺すのは、違う))
「はぁー? またくっだらない軍人の矜持ってやつぅ? 復讐したいんじゃなかったのぉ? それともやっぱり無駄だからやめたくなっちゃったぁ?」
((黙れ、メスガキ! ……今は、黙っていてくれ))
確かに復讐はしたい。だが、戦う意思の無い者を殺すのは――無差別爆撃と同じだ。そう、思ったのだ。
俺は身体の操縦権をインナーメスガキから取り返した。マシンガンの砲口を下げ、手振りで「行け」と示した。砲手は脚をもつれさせながら、要塞の外へと逃げていった。
『大尉、大丈夫ですか……?』
「ああ、大丈夫だ。インナーメスガキがちょっとな……」
『い、インナーメスガキ……?』
あ、いけない。ジェシカにはインナーメスガキのことを言っていなかったのだった。言えばとうとう狂ったかと思われるかもしれないし、何より女性に打ち明けるのが気恥ずかしかったから言わなかったのだが……事ここに至っては、話さざるを得まい。俺は脳内同居人であるインナーメスガキのことを打ち明けた。
『……え、えーと。なんていうか。ご、ご愁傷さまです?』
「や、やめてくれ、憐れまないでくれ……むしろ笑ってくれたほうがいっそ楽だ……」
『わ、笑って良いんですか? いや正直、大尉のメスガキロールプレイが面白すぎて笑いを堪えていたので、許可が出たら笑いが止まらなくなる自信があるんですけど……』
やっぱ面白い、というか珍奇な目で見られていたのか。そりゃそうだよな、20代男性が裏声でメスガキロールプレイしてるんだもんな!
「……好きに、してくれ……」
『えーと、はい……極力、笑わないよう努力します……』
ジェシカに気を遣わせてしまったことで、二重に俺の自尊心が傷ついた。
「ともあれ、まだ要塞には先があるようだ。行こう」
『アッハイ』
微妙な空気になった俺たちは、奥の通路へと進んでいった。
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