第5話「腐った同僚」
航宙母艦「ルイズタン」の居住区画、士官用エリア。個室が立ち並ぶ廊下(兵卒は共同部屋だが、士官以上は個室が充てがわれる)、俺の部屋の前に、豊満なバストと豊かな黒髪を持つ女――ジェシカが立っていた。
「すまん、待たせたか?」
「いえ、あの、そのぅ……」
「どうした?」
「……少女漫画みたいに、『ううん全然♡』って言うべきか迷ってました」
「いちいちネタを挟まないで良いんだぞ、そういうのは提督だけで十分だからさぁ……とりあえず入ってくれ」
ジェシカを俺の部屋に招き入れる。基本的な家具以外は何もない部屋だ――自主トレーニング用の機材や、右腕のサイバネティクスの予備部品以外は。殺風景ではあるが、まめに片付けておいて良かったなと思う。女性士官を招き入れても恥ずかしくない。まあ今回招き入れたのは女性士官でも、腐女子で、俺のメスガキロールプレイを聞いてしまった厄介な相手なんだが。
「かけてくれ」
「あっはい、どうも」
俺はベッドに腰掛け、ジェシカに椅子を勧めた。
「……さて、コクピットの中での話の続きだが」
「メスガキの件、ですよね」
「うむ……」
俺は、自分がメスガキロールプレイをしていた理由――脳を損傷し、神経シートでそれを修復した代償として、メスガキロールプレイをすると身体能力が向上することを話した。
フォカヌポウ提督に話したときもかなり恥ずかしかったが、女性に対して話すのは格段に恥ずかしいなこれ。俺の、男としての尊厳がガンガン傷ついていくのを感じる。
「――というわけなんだ」
「そ、そんな理由が……て、てっきり私、少尉はメスガキロールプレイをしながら敵を殺さないと快感を得られないタイプの変態なのかと思ってました」
「どんな性癖だよ! ……いや、傍から見るとそうなるのか……? 確かに戦場でメスガキロールプレイしてるなんて正気の沙汰じゃないしな……」
「だ、大丈夫ですよ少尉。この艦隊、表現の自由戦士隊は異常性癖者の集まり、ですから」
「いや俺は異常性癖持ってないからな?? それとこの艦隊のことが心底怖くなるようなこと言わないでくれるか?? ……ともかく、だ。このことは内密にして貰えないだろうか」
「それは、はい。絶対に」
「本当に?」
「はい。だ、だって、誰にでも人に知られたくないことってあるじゃないですか。それを知ってしまったとして、言いふらすのは、最低の行為です」
ジェシカは陰気そうな目に誠意をたたえ、そう言い切った。腐女子なだけで、根はしっかりした奴なのかもしれない。
「私だって、知られたくない推しカプ……業界では異端視されてるカップリングとか、ありますし」
「オーケー、よくわからないが、俺が知らなくても良さそうなことなことだけはわかった。あと准尉を信用しても良さそうなことだけはな」
艦長と整備班長を脳内で恋愛させているような奴のタブーなんぞ知りたくもない。
「それと、だ。じきに辞令が下ると思うが、こういう事情を鑑みて、俺と准尉で独立した班を組むことになった」
「独立……? ほ、他の小隊には所属しない、ってことですか?」
「ああ。他の小隊に組み込まれると、俺のメスガキロールプレイが小隊員に聞かれちまうからな……それに俺の能力的に、独立した切込み隊として運用したほうが良い。提督はそう判断した」
「な、なるほど……」
「正直すまないとは思っている、事故みたいな経緯とはいえ男とタッグ組まされて、しかも危険な切込み隊にさせられるだなんて」
「い、いえ……命を助けて頂きましたし……前の班はカップリングで揉めてましたし……だ、男性と組むのはちょっと抵抗ありますけど、が、がんばります……」
通常、ウォリアーのパイロットは男女別で班分けされる。理由は簡単、「男性パイロットが女性パイロットに良いところを見せようとして無茶をする」からだ。人類が宇宙に進出してなお、男のバカさというのは改善されていないのだ。
俺もまあ、普通の女性パイロットが相手なら無茶をしかねないし、ジェシカは美人なので気を引きたいという気持ちが湧いてこないわけでもないが……メスガキロールプレイ見られてるしな。脈なしだろ。しかも「リアルの男性はちょっと」とか言ってたし。
「そう言ってくれると助かる。まあ基本的に前に立つのは俺だ、准尉は援護してくれるだけで良い。ぼちぼち、シミュレータで動きを合わせよう」
「わ、わかりました」
「……これからよろしく、ジェシカ准尉」
俺が手を差し出すと、ジェシカは控えめに握り返してきた。……そしてそのまま、俺の顔をチラチラと見ては自身の顔を赤らめている。
「どうした、准尉? 俺の顔に何か?」
「い、いえ……」
「准尉、これからタッグを組むんだ。最低限、君の思考を知っておきたい。思ったことはハッキリと言ってくれ」
「は、はい……では言います。提督×和唐瀬少尉カプもありかな、と」
「ぶち殺すぞ」
俺はジェシカを部屋の外に放り投げた。
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