第23話 先生からの呼び出し
「昼休みに呼び出して悪かったな翡翠」
校内放送で職員室に呼び出されたので俺は仕方なく職員室に行くと、俺を待っていたのは菜奈さんではなく桜庭先生であった。桜庭先生に呼び出される心当たりが全くないのだが……。
「俺なんからやらかしてましたか?」
「いや、安心しろ。お前は何もやらかしてなんかいない」
「じゃあ、何で俺は呼び出されているんですか?」
「それはな……」
そう言って桜庭先生は真剣味を帯びた顔付きになって俺の方を見てくる。普段の軽い感じでない神妙な桜庭先生を見るのは初めてだった。これはただ事ではない話なのか?
「翡翠……お前……オタクにならないか?」
「失礼します」
「ちょっ、早い! もう少し先生の話を聞いてくれ!」
俺が馬鹿だった。桜庭先生はやはり桜庭先生だったのだ。俺をオタクにしようとするために校内放送まで使って職員室に呼び出したなんて職権乱用もいいところである。まるで、どこかの生徒会長だ。本当にこの学校は大丈夫なのだろうか?
「翡翠! 私が悪かったから!」
「はぁ……何ですか?」
「真面目な話をしようか」
「最初からしてください」
俺がそう言うと再び桜庭先生は真剣な顔付きになる。今度こそふざけた内容であったならここから立ち去ろうと決めて桜庭先生の話を聞くことにする。
「……柏村のことだ」
「柏村って彩花のことですか?」
「その通りだ」
彩花のこと? どうやらこれが俺を呼び出した本題なようだ。彩花のことなら彩花を呼び出せばいいと思うのだが……。
「最近、柏村の様子がおかしいと思わないか?」
「様子がですか?」
「あぁ。些細なことでもいい」
「些細なこと……勉強を頑張ってる?」
「そうだ」
「それがどうかしたんですか?」
勉強を頑張ること自体は悪くないと思うのだが? むしろいい事のようにさえ思えるのだが、何か問題でもあるのだろうか?
「翡翠は頑張ってると言ったが、私から見たら頑張り過ぎているようにも見える」
「まぁ、確かにそうかもしれないですけど」
「何事も無理をして頑張りすぎれば、それは何らかの形で不調をもたらすのだ。例えば、ゲームのイベントを周回しているとイベントが終わったら急に目がおかしくなったりするだろ?」
「はぁ……」
桜庭先生の例えはあまり分からなかったが、要するに無理して頑張っている間は大丈夫でも、頑張り終えたあとが危ないということなのだろう。頑張ってる間は、使命感だのアドレナリンなどで体が鈍感になるというのは何となく俺にも分かる。ただそれは、あくまで無理をして頑張っていた場合だ。
「彩花は無理をしているんですか?」
「それは私にも分からん。ただ、柏村が勉強をするようになったのは1ヶ月程前。私が中間テスト1ヶ月前だと言った翌日くらいだったはずだ」
「確かに……」
桜庭先生の言う通り、彩花が俺が朝学校に来たら勉強をしているようになっていたのはそれくらいであった。こう見えてこの人も教師らしく生徒をちゃんと見ていたことに俺は内心で驚いていた。
「翡翠は柏村が学校に何時から来ているのか知っているか?」
「知らないですけど……」
「7時だ。柏村は1ヶ月前からずっとな」
「!?」
朝のホームルームが始まる時間は8時30分からだ。基本的に生徒はこの時間までに学校に着いておけば構わないのだが、彩花は毎朝7時に登校してきて朝から勉強をしていた。確かにこれは少し心配になる。恐らく彩花はゴールデンウィークも部屋から出ずに勉強をしていたのだろう。それが原因で菜奈さんにも俺が呼び出されたわけだが。
「私が言いたいことはもう分かるな?」
「何となく分かりましたけど……俺にどうしろと言うんですか? 勉強をするなとでも言えばいいんですか?」
「私も仮にも教師だ。そんなことは言えない」
「だから俺に言えと?」
「いや、それも違う。翡翠には柏村の事を気にかけてやって欲しい」
「気にかける?」
「あぁ、やり方は全て翡翠に任せる」
「えぇ……」
「大丈夫だ。翡翠ならやれるさ。それに、私の気にしすぎであって実際は何ともないかもしれないしな!」
そう言って桜庭先生は俺の肩を軽く叩いてくるが、要するに丸投げじゃないのかこれ? 俺としては桜庭先生の言う通り、気にしすぎなだけであって欲しいと思う。だが、最近の鬼気迫るように勉強している彩花を思い出すと、どうしても不安になってしまうのであった。
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