第22話 テスト1週間前
長いようで短くもあったゴールデンウィークも終わり、今日からはまた通常授業が始まってしまう。俺は憂鬱な気分と共に教室に入ると今日も今日とて彩花は朝から勉強に勤しんでいた。
「あっ、悠くん。おはよう」
「おはよう」
「お姉ちゃんの件はありがとね」
「あぁ」
お姉ちゃんの件とはゴールデンウィークに菜奈さんから呼び出さた事についてだ。話を聞くと、あれからは菜奈さんとも元通りに話していたそうだ。ただ、普段よりも構われてしまったようで少し疲れたと冗談っぽく言うが、実際に少し疲れるくらいに菜奈さんに構われたというのは容易に想像できる。
「今日からもうテスト2週間前だね」
「やめてくれ……ただでさえ、ゴールデンウィークが終わって憂鬱なんだ」
「ふふ。悠くんもまだそんな顔するんだね」
「?」
「悠くんも変わったなぁって思ってたけど実はあんまり変わってないのかもね」
「そりゃ、人間そんなに変わらんだろ」
「そうだね……だから、頑張らないと……」
「頑張る?」
「ううん。なんでもないよ!」
彩花は変わりたいのだろうか? 現時点でも控えめに言っても変わる必要性が全くないように思える。容姿はもちろんのこと性格だっていい。これ以上何を変えたいと思うのか、向上心が人並み未満である俺には見当もつかない。
それからは、智也にゴールデンウィークに土産話を散々聞かされたということ以外は何事もなく今日の学校生活は終了した。智也は既にこのクラスでできた友人達と旅行に行っていたそうだ。俺も誘われはしたが、秒速で丁重にお断りしていたのだ。
ゴールデンウィークが終って早くも1週間が経過した。今日からはテスト1週間前である。さすがにそろそろ勉強し始めないといけないと思い始める時期ではあるのだが、朝から教室で勉強しているのは彩花だけであった。当初こそは違和感があったが、今では毎朝勉強している彩花は当たり前という認識となっていた。
「おはよう悠くん」
「おはよう」
「いよいよテスト1週間前だね」
「さすがに俺もそろそろ勉強しないとな」
「お互いに頑張ろうね!」
「だな」
それからは今日も何事もなく……と言いたいところだったが、そういう訳にもいかなかった。普段と違うことが今日は2つもあったのだ。1つ目は彩花である。テスト1週間前だからか、朝だけでなく授業間の休み時間。お昼休みにいたるまでずっと勉強をしていたのだ。2つ目は智也であった。
「悠! 俺に勉強を教えてくれ!」
「断る」
「即答かよ!? 俺達友達だろ!?」
「正確に言うなら無理だ。まだテスト勉強を全くしていない俺に何が教えられると?」
「大丈夫! 少なくとも俺よりは頭がいいはずだ! 絶対に!」
そう言って智也が見せつけてきたのは、今日の数学の授業で返された小テストであった。得点は10点満点中の2点。確かに俺の方が頭がいいようだった。俺は今日返された小テストの点数は満点であった。これは、俺が賢いのではなく小テストの内容が基礎的な内容でしかなかったからだ。要するに智也はこのままだと確実に赤点である。
「確かにやばいな……」
「だろ!」
「はぁ……今日だけだぞ」
「さすが悠! 愛してる!」
「……」
「冗談だからガチで引くな!」
俺は仕方が無いと、放課後に教室に残って智也に勉強を教えていた。智也は数学だけが極端にできないらしく他の科目はここまでひどくはないそうだ。1時間ほど掛けて今日返却された小テストで智也が分からなかったところを教えてやった。地頭は決して悪くないらしく、俺が説明すると要所要所で質問されたが基本的にはすぐに理解してくれた。
「いやぁ、助かった! ありがとな!」
「気にするな」
「やっぱ持つべきものは悠だわ!」
「大袈裟すぎるだろ……」
「はは。そんじゃ帰るか!」
「だな」
俺と智也は駅までは一緒に帰ってそこで別れる。何だかんだで智也とこれだけ話したのは久しぶりだった。席替えをする前に智也が言っていた通り、席替えをした後でも定期的に俺の席に来ては話をしてくれるのだが、智也は既に他にも友人が沢山いるようで話す頻度も必然的に少なくなっていた。
それからも、テスト勉強を少しづつしながらも俺が平穏の日々を送っていると忘れかけた頃にやつはやってくる。入学式の日、その1週間後。そして、今日もやつは俺の平穏を妨げるのだ。
『1年1組の翡翠悠くん。今すぐ職員室に来てください。繰り返します。1年1組の翡翠悠くん。今すぐ職員室に来てください』
校内放送である。いつも通り昼休みに俺のベストプレイスに向かおうとした矢先のことであった。ただ、いつもと違ったのは生徒会室ではなく職員室への呼び出しなのであった。
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