第21話 幼馴染と電話

 菜奈さんのお悩み相談会も終わって家に帰るとすぐに俺は彩花にLINEでメッセージを飛ばしておいた。彩花にそれとなく俺からも聞いておくという約束を菜奈さんとしていたので早速実行していた。


 彩花にメッセージを送ってから夕飯を食べて、楓と少しゲームをして風呂に入って上がった頃にようやく彩花からの返事が来ていた。ここまで彩花から返事がないのも珍しい気がする。といっても、彩花とLINEをしたことなんて数回しかないのだが。


『どうしたの?』


『今、大丈夫か?』


『うん。大丈夫だよ?』


 さて、俺は何を聞けばいいのだろうか? 最終目標としては菜奈さんに冷たい態度をとっている理由を聞けばいいのだろうが、いきなりそれを聞いていいものだろうか? ……まっ、いいか。


『菜奈さんのこと避けてるのか?』


『ごめん。いきなり何を言ってるの?』


 まぁ、そうなるわな。それに、彩花のこの反応だと菜奈さんのことが嫌いになったということは無さそうだ。彩花に嫌われたかもしれないというのは菜奈さんの早とちりだったのだろう。それなら今更、俺が何か探る必要も無いだろう。勝手に1人で自己完結をしていると、返事がないことに痺れを切らしたのか彩花から電話がかかってきた。


「もしもし」


『ねぇ、悠くん。私がお姉ちゃんを避けてるだなんていきなりどうしたの?』


「あぁ、それはな……」


 別に隠すことでもないので俺は菜奈さんに呼び出されたこと。そこで聞いた話を正直に彩花に話した。すると、どこか彩花も納得したようであった。


『あぁ、確かに最近は部屋からあまり出てないかも……』


「部屋にこもって何してんだ?」


『う~ん……そこは乙女の秘密ってことで!』


「ふ~ん。まぁ、別に言いたくないならいいけど」


 正直、彩花が部屋で何をしているのかというのには想像はついていた。ゴールデンウィークに入る前の彩花を見ていたら誰でも簡単に分かるだろう。けどまぁ、彩花にはそれが知られたくないらしいので、ここで指摘するというのも野暮というものだろう。


『悠くんってドライだよね?』


「そうか?」


『うん。けど、今はそれがありがたいかも』


「なら、良かった」


『ふふ。悠くんも変わったね』


「?」


『小学生の頃の悠くんはもっと明るい子だったよ』


「あぁ、確かにそうかもな。俺も大人になったってことじゃないか?」


『大人って……悠くんも私もまだ高校生だからね?』


「間違いない」


 それからも彩花としばらく雑談をしていた。電話をしている感じだと特に変わった点はなく普段通りの彩花であった。ただ、少しだけ違和感があったとするならテンションが普段より微妙に高いような気がする。まるで、久しぶりに誰かと話したかのような感じな気がする。気のせいだとは思うのだが。


「それじゃ、菜奈さんと少しでも話してあげてくれよな」


『うん。なんか、ごめんね?』


「いや、いいよ」


『ふふ。悠くんは優しいね』


「ドライなのにか?」


『ドライでもだよ。悠くんが優しいのは小学生の時から変わってないね!』


「……」


『照れてる?』


「うるさい」


『ふふ。それじゃあ、そろそろ切るね?』


「うん」


『おやすみなさい悠くん』


「おやすみ」


 これで大丈夫だろう。基本的には普段通りの彩花だったし、菜奈さんのことを避けていたり嫌っていたりする様子は全くなかった。多分、彩花のことだからすぐにでも菜奈さんに話に行っているだろうと思っていると、スマホが振動してメッセージが届いたことを教えてくれる。


『悠くん! ありがとう! お姉ちゃん嫌われてなかったよ!』


『よかったね』


『うん!』


 これで一件落着だろう。俺は少しの達成感と眠気が同時に襲ってきたので、今日のところは時間的には少し早いが眠ることにしようとベッドの上で横になるのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る