第20話 お姉ちゃんの不安
ゴールデンウィークに突入して早くも4日が経過していた。今日でちょうどゴールデンウィークも折り返しである。俺はこの4日間は1日を除いて毎日昼過ぎに起きて、楓とゲームをするという日々のサイクルを送っていた。1日を除いてというのはその1日は楓と母さんに半強制的に買い物に付き合わされたのだ。もちろん俺は抵抗したが最後は楓の泣き脅しで俺が折れた。……あれはずるい。
ゴールデンウィークだからといって俺に遊びの誘いなんか来るわけもなく、俺はこのまま自堕落な日々を送れる……と思っていた時期が俺にもありました。俺が見つめる先には新着のメッセージがありますと通知されているスマートフォンだ。
「さすがに無視はダメだよな……」
俺はスマートフォンを手に取ってメッセージの内容を確認する。メッセージを送ってきたのは菜奈さんからであった。この時点で俺は今日家を出る覚悟をしなくてはならないことを悟ってしまった。そして、メッセージの内容はこれである。
『悠くん! 今日時間ある?』
『あるけど……』
俺がそう返事をするとメッセージにはすぐに既読が着く。それから30秒にも も満たないうちに返事が来る。
『悠くんに話があるの!』
『話?』
『うん! 15時に悠くん家からの最寄り駅でいい?』
『大丈夫だけど。楓も呼んだ方がいい?』
『ううん。今日は悠くんだけで大丈夫だよ』
『了解』
俺に話がある? 一体何なのだろうか。菜奈さんの事だからどこかに遊びに行こう! だとかそんな感じだと思ったのはどうやら俺の見当違いだったようだ。
俺は起きてすぐにメッセージに気づいて返事したとはいえ、今は既に13時前なので15時に駅前集合となると意外と時間も無いので俺は部屋着から私服に着替えて洗顔と歯磨きを済ませる。
「おはようお兄ちゃん!」
「おはよう」
「お兄ちゃんが私服なんて珍しいね? お出掛けするの?」
「菜奈さんが話があるって」
「お話? なんの?」
「俺も分からん」
「ふ~ん。仕方ないから今日だけは菜奈お姉ちゃんにお兄ちゃんを貸してあげよかな」
「俺はお前のものじゃないからな?」
それから俺は、母さんの用意してくれていた朝ごはんという名のお昼ごはんを食べてからリビングに置いてあるソファーの上で寝そべるようにしてスマホを触っていると15時前となったので家を出ることにする。
「そんじゃ、行ってくる」
「うん! 行ってらっしゃいお兄ちゃん!」
俺は楓に玄関まで見送られて家を出る。普段は楓を送り出すことが多い俺なので見送られるというのは新鮮であった。我が家から最寄りの駅までは歩いて数分のところにあるので家を出てすぐに駅に到着すると菜奈さんは既に駅に着いていたようだ。
「お待たせ」
「悠くん! 別に待ってないから大丈夫だよ!」
「それで? 話があるんだよね?」
「うん……立ち話もなんだし場所を変えよっか!」
菜奈さんはそう言って俺の手を引いて駅の近くにある喫茶店へと入っていく。彩花も楓も菜奈さんもみんなどうしてすぐに俺の手を引っ張るのだろうか? 手を繋いでいないと迷子になるとでも思われているのか? 俺としては公共の場で手を引かれるというのは少し恥ずかしいものがあるからやめて欲しいのだが。
喫茶店に入ってから俺はアイスコーヒーを菜奈さんはアイスティーを注文した。
「何だかこうしてるとデートみたいだね!」
「楓が言うには男と女が出掛けたらそれはデートらしいよ」
「それなら悠くんとお姉ちゃんは今まさにデートしているわけだね!」
「菜奈さ……菜奈お姉ちゃんとだとデートって感じはしないけどね」
危ない危ない。前に行ったカラオケでの勝負ので俺は菜奈さんのことを菜奈お姉ちゃんと呼ぶことを強要されていた。さすがに本人のいない所では菜奈さんと言っているが本人の前では菜奈お姉ちゃんと呼ばないと無視されてしまうのだ。俺が菜奈お姉ちゃんと呼ぶ度に菜奈さんはニヤニヤとしている。すると、先程注文していたアイスコーヒーとアイスティーが運ばれて来たので俺は本題に入ることにする。
「それで? 話ってなんなの?」
「うん……彩花のことなんだけど……」
「彩花?」
「うん……」
俺が話を切り出すと菜奈さんはさっきまでニヤニヤしていた人とは同一人物に思えないほどに不安そうな顔つきになった。もしかするとこれは、かなり深刻な内容なのかもしれない。
「最近お姉ちゃんに冷たいの……」
「……は?」
「ゴールデンウィークに入る1週間くらい前から彩花がお姉ちゃんに冷たいの! 家にいる時もずっと部屋に引きこもって!」
「菜奈お姉ちゃんが何かしたんじゃないの?」
「してないよ!」
どれだけ深刻な話なのかと身構えていたのだが、要するに彩花の様子が最近おかしい。何がおかしいのかっていうのは家にいる時に構ってもらえなくなった。要するにこういうことらしい。単純に呆れられたんじゃないだろうか? 普段の菜奈さんを見ているとこう考えてしまうのも仕方のないので許して欲しい。
「もしかしたらお姉ちゃん……彩花に嫌われちゃったのかな?」
「それ本気で言ってるの?」
「言ってないけど……でも! でも!」
「はぁ……俺からもそれとなく聞いてみるよ」
「本当に!? 約束だよ!?」
「うん」
俺がそう言うと菜奈さんも少しは落ち着いたようだったが、かなり落ち込んでいたようで菜奈さんをひたすらに俺が励ますことで立ち直ってくれたのだがその頃には外は薄暗くなっていた。落ち込んでいる菜奈さんは完全に幼稚園児のようだったと言えば俺の苦労も少しは分かってもらえるだろうか?
「今日はありがとうね悠くん!」
「うん」
「それじゃあ、またね!」
そう言って大きく手を振りながら駅へと向かっていく菜奈さんの姿が見えなくなってから俺も家へと帰るのだった。
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