第18話 ベストプレイスと兄離れ
やっと見つけた……3日も掛かってしまった……。俺はこの場所を探して学校内を歩き回っていたのだ。それが俺の過ちだった。引いてダメなら押してみろならぬ、内がダメなら外を見ろと言ったところだろうか?
まるで人間社会の縮図のような考え方だ。皆がそれでいいと言うからそうするといった視野の狭い考え方。他のことなど考えるどころか見ようとさえしない。それが大きな間違いであることにも気づかずに。なんて、壮大なことを言ってみるも俺が見つけたのは静かに昼休みを過ごせる場所だ。
席替えをしてから俺の隣が彩花になったこともあり、お昼休みは彩花とその友人達が俺の席の周りに集まってお弁当を食べているので俺は居心地が悪く、こうして教室から出て静かに昼休みを探していたのだ。それがようやく見つかった。俺のオアシスは体育館裏の駐輪場にあった。しかも、そこには何故か2つベンチが置いてあったのだ。
「ここならさすがに誰も来ない……よな?」
この駐輪場と教室のある本校舎は少し離れたところにある。わざわざ、昼休みに教室から自転車を見に来るような人もいないだろう。強いて言うなら昼休みに遅刻してくる生徒が来るかもしれないが、しばらくはそんな偶然も起こらないだろう。
「まさにベストプレイスだな」
俺はそれから購買で購入したパンを袋から取り出して食べ始める。今日からしばらく母さんは仕事が忙しいらしく、お弁当は用意できないとの事だった。購入したパンを食べ終えると、昼休みはまだ20分以上あったので俺はスマホをポケットから取り出して暇を潰す。
しばらくスマホを触っていると昼休みの終わりを告げる予鈴がなったので俺は教室に戻ることにする。ただ、教室のある本校舎までは少し距離があったので少し急がないと授業に遅れてしまいそうだった。明日からは予鈴の鳴る少し前に移動し始めた方がよさそうだ。
「悠くんどこに行ってたの?」
「ん? 食堂だ。母さんの仕事が忙しいらしくて今日は弁当がなかったから」
「そうなんだ。大変そうだね」
「大変なのは母さんだけどな」
こう言っておけば周りからも不自然に思われることはない。完璧である。勘違いしないで欲しいのは俺はぼっちではなく陰キャであるということだ。教室を出て昼飯を1人で食べるなんてぼっちのすることだと言う人もいるだろうが、ぼっちは便所で飯を食う。俺はしない。というか、したくない。不衛生そのものだからな。なので、そこら辺のぼっちと一緒にするのはやめてもらいたい。
午後の授業も受け終えて帰りのホームルームが始まると桜庭先生が俺も忘れていたやつの存在を口にする。入学してから2週間と少ししか経ってないにも関わらずやつは意外とすぐ近くまでやってきていたのだ。
「今日からちょうど1ヶ月後には中間テストがあるから少しずつでも勉強しておくように」
「「「「「えー」」」」」
「そう言うな。高校1年生の最初のテストだ。どの授業でも基礎的なことしかしていないから難易度は低いだろう。だからといって油断して痛い目を見ないようにな」
そう。中間テストである。確かに桜庭先生の言う通り高校生になって最初のテストなので内容自体は簡単なのだろうが平均点もその分高くなる。
明宝高校は平均点の半分以下の点数が赤点となるので、油断して何も勉強しないでいると赤点を取ってしまう恐れも十分にある。とは言っても1ヶ月もあるので、今はまだゆっくりしていても赤点を回避するだけなら問題は無いだろう。
「中間テスト……」
「どうかしたか?」
「!? ううん。なんでもないよ!」
隣を見てみると彩花がやたらと深刻そうな顔をしていたので気になったので声を掛けてみたのだが何でもないらしい。もしかして、彩花って実はそんなに頭が良くなかったりするのだろうか? 小学生の頃は頭が良かったというイメージが俺の中ではあったのだが。
中間テストが1ヶ月後にあるということ以外は特に何もなく帰りのホームルームも終わったので俺は真っ直ぐに家に帰る。
「ただいま」
「おかえりお兄ちゃん!」
俺が家に帰るとやたらとテンションの高い楓が既に家へと帰っていた。楓がこんなにもテンションが高いのかには理由があった。しばらくは母さんが仕事が忙しいこともあってお弁当はない。そして、今日の夜ご飯も仕事で帰りが遅くなるから作れないとの事だった。なので、俺と楓は2人でご飯を食べに行っておいでと母さんからお金を貰っていたのだ。
「お兄ちゃん! どこに行く!?」
「どこでもいいぞ」
「うーん……」
楓はそう言って考え込むもすぐに顔を上げた。
「楓もお兄ちゃんと一緒ならどこでもいいよ!」
「それなら、家でカップ麺」
「それはダメ!」
どこでもいいと言ったのにそれはダメらしい。家でカップ麺を食べれば家から出る手間もないというのに。それに、母さんから貰った夕飯代をお小遣いにすることができる。一石二鳥だ。
「それだとお兄ちゃんとデートに行けないじゃん!」
「デートってお前は何を言ってるんだ?」
「男と女が2人で出かけたらそれはデートなんだよお兄ちゃん!」
「兄妹では違うだろ」
「違うくないの! デートったらデートなの!」
「はいはい……」
お前の妹は何を言っているんだって? 俺もそう思う。けど、ここで否定してと楓は絶対に認めないので言うだけ無駄なのだ。
お互いに何か食べたいものがある訳でも無かったので、俺と楓は家の近くにある大型ショッピングモールのフードコートに行くことにした。俺と楓は家に1度帰ったので私服姿だが、ショッピングモールには俺の通う高校の制服を着た生徒達もチラホラといた。
「なぁ、楓」
「なに?」
「楓はお兄ちゃんと一緒にいられる所を見られたりして恥ずかしくないのか?」
「え? なんで?」
「中学生にもなるとお兄ちゃんと2人でいるところを見られたりしたら恥ずかしいもんじゃないのか?」
「?」
楓は意味が分からないといった顔でこちらを見てくる。楓は兄離れする日が来るのだろうか? したらしたで寂しくもなるのだろうが、ずっとこのままというのも兄としてはやはり不安でしかない。楓も彼氏ができたりしたら変わるのだろうか?
「楓は告白とかされたことあるのか?」
「あるけど、急にどうしたのお兄ちゃん?」
「それなら彼氏とかいるのか?」
「いないよ。全部断っちゃったもん。楓はお兄ちゃんがいればいいしね!」
そう言って楓は俺の腕に抱きついてくる。さすがにショッピングモール内でこれはよろしくないので、すぐに引き離すと楓は不満そうにこちらを見てくる。そのことで、俺がより一層の不安に襲われたのは言うまでもないことだろう。楓に告白してくれた男子諸君。申し訳ない。
それから俺はラーメンを楓はオムライスをフードコートで食べてから、少しショッピングモール内を散策して家へと帰る。楓は終始満足そうにしていたので、やはり兄離れにはまだまだ時間がかかりそうなのであった。
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