第17話 席替えと嫉妬

 カラオケに行った翌日からは平和そのものであった。クラスメイト達からの視線も日が経つことに減っていき、1週間が経過した今では全く無くなっていた。俺は本来望んでいた地味で平凡な日々を謳歌していた。そして今日は待ちに待った席替えの日であった。これで1番前の席から解放される。俺はこの席替えにかける思いは他の生徒よりも人一倍強いものがあった。


「いないだろうが一応聞いておく。席を1番前を希望するやつはいるか? 希望者がいるなら優先して1番前の席にするぞ?」


 桜庭先生が生徒達に問いかけるも、生徒達は一斉に先生から視線を外す。それもそうだろう。目が悪くて黒板が見えないと言った理由でもない限り好き好んで1番前の席を希望する生徒なんて極めて稀であろう。


 灯台もと暗しだとか言って、1番前の席は意外と目立たないなんて言うのは嘘だ。その証拠に1番前の席で授業中寝るなんてすげぇよなという評価が得られるのは、それだけ目立つところでよくやるよという意味に他ならないのだから。


「いないな。だったら、1人ずつ前に来て先生の作ってきたくじを引いてくれ。これで恨みっこはなしだからな?」


 そう言って桜庭先生はくじが入っているのであろう箱を教卓の上に置く。ただその箱は先生が作ってきたのだろう。ご丁寧にアニメのキャラクターが描かれたプリントを貼っつけてある。こんな些細なイベント事でも布教していこうとする先生の熱意をひしひしと感じる。


 席替えのくじは出席番号順に引いていく。俺は出席番号が30番なので俺が引く頃には箱の中には10枚ほどしかくじが残っていないので何だか損をした気分になってしまう。確率的にはいつ引こうが一緒なのだがそれでも損をしている気がするのは仕方のないことだろう。


「いやぁ、これで悠ともしばしの別れか」


「だな」


「まっ、定期的に話に行ってやるから寂しがるなよ」


「それだと何の別れでもなくないか?」


「はは。確かにな」


 今回の席替えでも智也と近い席になるということはなく、俺は窓側の席のちょうど真ん中くらいであって智也はまさかの席の移動は無しだったので廊下よりの智也とは位置的には俺と正反対の席だ。


 俺達は先生の指示に従って各々の席へと机を運んで移動する。個人的に今回の席替えでの席はそこそこの当たりであった。可もなく不可もないポジション。つまり、地味。最高である。


「あれ?」


「ん?」


「悠くんの席はそこなの?」


「あぁ」


「嘘!? お隣同士だね!」


「まじか」


 俺の隣の席は彩花であった。智也の次は彩花の近くの席になるとは……運がいいのか悪いのか……。彩花の隣の席になることはもちろん嫌では無いのだが、彩花は可愛い。それもこのクラスだけでなく入学して2週間経った今では学年でも知れ渡るくらいにだ。要するに何が言いたいかというと、男子達からの視線が痛い。


 俺は彩花と幼馴染というだけで嫉妬の対象であったのに席まで隣になると血の涙を流さんとばかりに男子達から見つめられる。見つめられると表現するといい感じになるかと思ったが、どうやらそれは気の所為であった。男子達からの視線なんて鬱陶しい以外の何物でもなかった。


「まさか悠くんのお隣さんになれるなんてね!」


「よろしくな」


「うん! 帰ったらお姉ちゃんに自慢しちゃうね!」


「えっ……」


「ふふ。冗談だよ。お姉ちゃんに自慢するとまた大変なことになりそうだしね」


「このクラスに乗り込んで来そうだしな」


「さすがにお姉ちゃんもさすがにそこまでは……絶対来ちゃうね……」


 彩花としても菜奈さんが教室に乗り込んで来るのは思うところがあるらしい。俺も身内がクラスに乗り込んで来るなんて恥ずかしくて耐えられない。幸いと言うべきか、楓の場合は学校では大人しい子を演じてるらしいので中学時代に教室に乗り込んできたりといったこたは無かった。菜奈さんも俺達の前以外では優等生を演じているらしいが、正直信じられない。


「まぁ、何はともあれよろしくだね!」


「だな」


 彩花と隣になった事で今日1日男子達からの視線を浴び続けたこと以外は問題がなかった……と言いたいところであったが、お昼休みにお弁当を食べる時に彩花の友人達が彩花の席の近くで食べるので俺の肩身は狭すぎた。お昼休みにゆっくり弁当を食べられる場所を一刻も早く探さないといけないと心に俺は固く誓ったのだった。

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