第13話 覚えのない視線
これは幾度となく繰り返されてきたであろう論争なのだろうが、どうして学校に行く日が5日もあって休みは2日しかないのだろうか? 1週間が7日あるのだから少なくとも休みの日は3日にすべきだと俺は思う。俺というよりも、大半の人がそう考えているのでは無いだろうか?
毎週月曜日の朝、ベッドから起き上がる度に俺はこのことについて考えてしまう。考えたところで変わることもないし、何かあるわけでもないのだがどうしても考えてしまうのだ。ちなみに今日は朝起きたら横に楓がいるなんて事はなかった。
こんなことばかり考えていても仕方がないので、俺はベッドから起き上がり、パジャマから制服に着替えて洗面所に行き洗顔と歯磨きを済ませてからリビングへと向かう。
「おはよう」
「おはようお兄ちゃん!」
リビングへ行くと楓は既に朝ごはんを食べていた。楓は俺よりも学校までの距離があるため、早くに家を出るので俺よりも早く起きて学校に行く支度をしている。母さんも俺が起きて来る頃には既に仕事に行っている。それでも、朝ごはんだけは毎朝用意してくれているので俺はそれを食べて、少しゆっくりしてから学校へと向かうのだ。
「それじゃあ、お兄ちゃん! 行ってきます!」
「気をつけて行けよ」
「うん!」
そう言って楓は家から出ていく。楓が家を出てから10分ほどしてから俺も家を出る。俺の家から俺の通う明宝高校までは徒歩で10分弱くらいの距離にある。だから俺は、8時半に始業のチャイムが鳴るので俺は8時20分に家を出る。教室に入るのは8時28分くらいで遅刻ギリギリであった。
俺が始業のチャイムの鳴るギリギリに教室に入ると、クラスの様子が明らかにおかしかった。俺が教室に入るとクラスメイトの視線を何故かやたらと突き刺さるのだ。俺は視線を浴びながらも自分の席に着く。
「おはよう悠! なんか、面白いことになってるな!」
「おはよう。一体何なんだ……?」
「それはまぁ、後・で・分・か・る・んじゃないか?」
「?」
訳が分からないと考えようにも、すぐに始業のチャイムが鳴り、桜庭先生が教室に入ってきて朝のホームルームが始まったので考える暇はなかった。
朝のホームルームが終わると今日の1限目は体育だったので急いで更衣室に行って着替えなくてはならなかったので、ここでもまた考える暇もなく、体育の授業中も最初の授業だから親睦を兼ねてだとかでドッジボールをすることになった。ここでやっと俺は考えることができるわけだ。
ドッジボールなんて言うのは運動ガチ勢の独壇場であるので陰キャである俺はコートの隅っこに立っているだけなのだから。というか、ドッジボールなんていう殺伐としたゲームでどう親睦が深まるのだろうか?
「分からん……」
ドッジボールが始まってずっと考えていたのだが、俺がクラスの視線を集めるような何かをした記憶が全くないのだ。朝、遅刻ギリギリで学校に来たのがそんなに目立ったのか? けど、それだけでここまで注目されるものなのだろうか?
「おい、悠! あとは任せたぞ!」
「……は?」
智也から急に声を掛けられたので何事かとコートを見回してみると、俺のチームのコートには俺以外に誰も残っていなかった。どうやら、考え込んでいるうちにチームメイト達はことごとく外野に回っていたらしい。もちろん俺は運動が得意な訳でもないのであっさりとボールを当てられてドッジボールの試合は負けた。
体育の授業が終わったあとは、教室での座学科目だけだったので俺はずっと考えていたのだが、やはり原因に心当たりが全くなかった。なぜ俺がここまで真剣に考え続けているのかと言うと、俺は陰キャとして過ごしたいので、注目されることは許されないのである。速やかに原因を見つけて対処しなくては俺の地味で平凡な学校生活が送れなくなってしまう恐れがある。
授業にも集中するどころか、全く聞かずに考えていても答えが出ないまま昼休みを迎えてしまう。昼休みになって5分ほどすると校内放送が流れた。
『1年1組の翡翠悠くん。今すぐ生徒会室に来てください。繰り返します。1年1組の翡翠悠くん。今すぐ絶・対・に・生徒会室へ来てください』
「……………」
なんで、こんな時に俺を呼び出すんだ……。ただでさえ理由も分からないまま目立っているのに、これ以上はもう勘弁して欲しい。けど、ここで行かない方が余計に目立ってしまうので教室を出て生徒会室に向かおうとすると彩花が話しかけてくる。
「悠くん!」
「ん? どうした?」
「あの……その……ごめんね!」
それだけ言って彩花は教室へと戻っていく。彩花がどうして俺に謝るんだ? それも、普段の彩花らしくないハッキリとしないような謝罪。俺はますます意味が分からなくないまま生徒会室に向かう。
生徒会室には前に1度呼び出されていたので、今度は迷うことなく真っ直ぐに生徒会室に辿り着いた。俺はノックをするとすぐに中から返事がある。
「どうぞ」
「失礼しま」
「悠くん! 彩花と一緒にお花見に行ったの!? どうしてお姉ちゃんも呼んでくれなかったの!? 朝、教室に行っても悠くんは来ないし!」
俺が言い切るよりも先に菜奈さんが食い気味に俺に質問責めである。そして、俺は全てを悟った。朝からの謎の視線。智也の後で分かるという発言。彩花のハッキリとしない謝罪。全部繋がった。全ての原因は菜奈さんだったようだ……。
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