第12話 翡翠家の休日
いきなりだが、朝起きたら横に妹がいる。こんな状況についてどう思う? 妹という生き物を神格化しているような一部の層からしたら目から血の涙が零れ落ちるような羨ましいことなのだろう。だが、そんなことを思っているような人は間違いなく妹がいないからそういった考えになるのだろうと断言できる。実際に妹のいる兄達なら分かってくれるだろう。だから俺は、妹のいる兄達の答えを今から代弁しようと思う。
「何してんのお前?」
「お兄ちゃんの寝顔を見てたの!」
「……おはよう」
「おはようお兄ちゃん!」
そう言って楓は俺に抱きついてくる。信じられるか? この妹はこれでも中学2年生なんだぜ? 普通なら中学生にもなれば下着を一緒に洗うなと言ってきたり、お母さん以外の男の家族からも距離を置きたくなるような年頃なのではないだろうか? うちの妹に関してはそんなことは全くなく、むしろ歳を重ねるごとにくっつく頻度が増えてきている気さえする。
「なぁ、楓。お前も中学2年生なんだからもう少し慎みを持ったらどうなんだ? お兄ちゃんも男なんだからベッドに入り込んでくるのはどうかと思うぞ?」
「なんで?」
「なんでって……」
「楓はお兄ちゃんになら何されてもいいよ?」
「もうお兄ちゃん楓のことが心配だよ……」
「大丈夫! 楓はお兄ちゃんのことずっと大好きだからね!」
どうやら楓とはまともに会話も成り立たないらしい。全国の兄達に問いたい。俺はどうしたらいいのだろうか? もうこの妹は俺のキャパじゃどうしようもないようだ。このやり取りもこれまでにも何度もしてきている。けど、楓の答えは1度たりともブレたことがない。本気で兄としてはこの妹が心配でしかない。
「はぁ……起きるから抱きつくのやめてくれ」
「あと5分!」
「ダメだ」
「むぅ……」
全く離れる気のない楓を俺は強引に引き剥がしてベッドから出る。それから時計を見ると、今はちょうど12時を回ったくらいだった。俺は部屋を出てリビングへ向かうと楓も後ろから着いてくる。リビングに着くとちょうど母さんがご飯をテーブルに並べていた。
「おはよう」
「おはよう。相変わらず悠はよく寝るわね」
「休みだし」
「それで相変わらず楓は悠にベッタリなのね……」
「うん!」
「はぁ……お母さん少し心配だわ……」
「そう思うなら母さんからも言ってくれ」
「悠? 楓がいくら可愛いからって分かってるわね?」
「俺にじゃないくて!」
どうしてそうなるんだ! と声を大にして言いたいところではあるが寝起きなこともあって大きな声を出すのはしんどいものがあった。この母にしてあの妹。直接的には関係なさそうでも、間接的に母の悪い影響が楓に出ているのではないだろうか? ちなみに唯一俺の味方をしてくれそうな父さんは単身赴任で今は別居中だ。
「お兄ちゃんは今日1日お家にいるの?」
「予定もないしな」
「やったぁ! それじゃあ、今日は楓とゲーム三昧ね!」
「飯食ったらな」
「うん!」
そう言って楓はまた俺に抱きついてくる。それを微笑ましそうに見つめている母さんよ。あんたそれで本当にいいのか……?
楓は家ではこんな感じで明るい性格なのだが、学校では控えめな性格らしく、友達は一応はいるらしいが休日は家にいることが多い。そこだけは、しっかりと俺の妹なのだ。なので、引っ越して来てからは楓と2人でよくゲームをしていた。というより、俺か楓のどちらかが用事でもない限り毎日のように一緒にゲームをしている。……もしかして、楓のブラコンの原因ってこれなのか? ちなみに俺と楓はここ1年くらいは緑の甲羅を投げたりバナナを路上に置いたりと非常に悪質なことが可能なレースゲームばかりしていた。
「そう言えば悠。彩花ちゃんと昨日会ったのよね?」
「うん」
「彩花ちゃんは可愛くなってた?」
「まぁ、可愛くはなってたよ」
「それなら悠も頑張らないとね!」
「なにを?」
母さんは何も答えてくれずに微笑むだけであった。楓も何やらニヤニヤとしている。意味が分からない。彩花が可愛くなったことと俺が頑張ることになんの関連性があるんだ? 考えても分からなかったので俺はすぐに考えるのをやめて朝ご飯兼お昼ご飯を食べてから楓とゲームをして夕飯を食べてから風呂に入って、また楓とゲームをして今日1日が終わったのだった。
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