第11話 幼馴染とのお花見
彩花に手を引かれたまま俺は3年振りの景色を眺めていたのだが、たった3年くらいじゃ大きな変化もある訳もなく、ただ懐かしい景色を見て1人感慨にふけっていると気が付けば河原へと来ていた。河原の周りには桜の木が並んでおり、花見をしている家族やカップルがいた。俺も引っ越す前は俺の家族と彩花の家族でここに花見に来たものだ。
「もうここまで来ると分かったよね?」
「あぁ。懐かしいな」
「だね! 覚えてる? 私と悠くんとお姉ちゃんと楓ちゃんが川に入ってお母さん達にすごく怒られたの?」
楓ちゃんというのは俺の妹である翡翠楓ひすいかえでのことである。俺より2つ年下なので今は中学2年生だ。確かあの時は俺と彩花が小学4年生の頃だ。川に向かって石を投げて遊んでいたら目の前に魚がいると4人で魚を取ろうと川に入っていったのだ。あの時の母さん達の怒りようは凄まじいものであった。
「覚えてるよ。あの時の母さん達は本気で怖かった……」
「ふふ。本当にね」
「懐かしいなぁ」
「うん。楓ちゃんは兄離れはそろそろできたの?」
「俺は彩花の菜奈さんに対する苦労がよく分かるよ……」
「あっ、まだなんだね……」
俺の妹である楓はどう控えめにいってもブラコンというやつなのだ。お兄ちゃんとしてはそろそろ兄離れして欲しいものなのだが……。ちなみにどれくらいブラコンなのかと言うと、中学2年生になった今でも一緒に寝ようと布団に忍び込もうとしてくるくらいだ。朝起きたら横に楓がいるなんていうこともよくある。実の妹にやましい気持ちなどは一切ないのだが、あればっかりはやめて欲しいものである。
「ここら辺でいいかな?」
「そうだな。周りにも人がいないしな」
俺がそう言うと彩花はトートバッグからレジャーシートを取り出して桜の木の下に敷く。遊びに行くには大きめのトートバッグを持って来ていたのもこれならば納得である。
「悠くんお腹空いてる?」
「まぁ、空いてなくもない」
「それじゃあ、少し早いけどお昼にしよっか!」
そう言って彩花はトートバッグの中からお弁当箱を取り出す。まさかお弁当まで用意しているとは……。これは今度また何かお返しをした方がいいのかもしれない。
「これ彩花の手作りなのか?」
「うん! 悠くんの口にあえばいいんだけど……」
彩花は少し自信無さげに言うが、彩花の手作りだというこのお弁当は見ただけで美味いと分かるようなできであった。卵焼きやウインナー、唐揚げなどといったお弁当の定番のおかずをプチトマトやサニーレタスなどで彩りを付けられている。それとは別におにぎりも作ってくれていたようで、これはいよいよもってお返しをしないといけないやつである。
「すごいな……」
「ふ、普通だよ! ほら、食べてみて」
「いただきます」
俺は手を合わせてから、彩花に手渡された割り箸を使って唐揚げを取って口に運ぶ。お弁当なので揚げたてのような美味しさ無いが、お弁当ならではの美味しさがあり、味付けも少し味の濃いくらいで俺からしたらちょうど良い感じであった。
「すげぇ美味い」
「ほんと!?」
「ここで嘘をついても仕方ないだろ?」
「良かった……悠くんも男の子だから少し味を濃いめにしてみたんだけど大丈夫だった?」
「むしろ、これくらいが俺は好きだな。ありがとうな」
「えへへ……」
彩花は照れくさそうにしながらも卵焼きを取って食べていた。それを見て俺も卵焼きが食べたくなり食べてみたが、絶妙な塩加減であり砂糖も少し入っているのか少し甘くもあって美味しい。塩と砂糖の比率が完璧であった。
彩花の作ってきてくれていたおにぎりも具材が塩、鮭、昆布に明太子と4種類あって普段はそんなに食べない俺もついつい食べすぎてしまった。
「腹いっぱいだ……」
「まさか全部食べちゃうなんてね。少し多めに作っといたのに」
「美味かったからな」
「ふふ。お粗末さまです」
美味い飯で腹も満たされて、春らしくポカポカとした気温に心地の良い風。ここで寝ることができたらどれほど幸せだろうか……。今日来ていたのが俺と彩花の2人でなく他に人がいたなら俺は間違いなく眠っていただろうが、ここで俺が寝てしまったら彩花が1人になってしまうので眠気を耐える。
「気持ちがいいねぇ」
「あぁ。これぞ花見の醍醐味って感じだ」
「まさかまた悠くんとお花見をする日が来るなんてね」
「だなぁ。引っ越したと言ってもそこまで遠くへ行ったわけではないけど、まさか彩花と同じ高校になるなんてな」
「ほんとにね。けど、私は悠くんとまた一緒の学校に通えるの嬉しいよ?」
「そうだな」
それからは、部活には入るのかだったり、俺が教室で1人でいることに対しての彩花なりの文句を聞いたり、会わなかった3年間の間に何があったかなんかを話していると気付けば当たりは薄暗くなってきていた。
「夕日と桜もいいものだな」
「うん。お昼とは違った良さがあるよね」
「だな。そろそろ帰るか?」
「そうだね」
俺と彩花はレジャーシートの上から立ち上がり、帰り支度を済ませる。と言っても、レジャーシートを畳んだり、彩花の持ってきてくれていたお菓子のゴミなどの片付けくらいなのだが。本当に至れり尽くせりの花見であった。
「何から何まで今日はありがとな」
「いいよ。お花見がしたかったのは私だしね!」
「俺も楽しかったから、今度なにか礼をさせてくれ」
「別に私は気にしないよ?」
「俺が気にするんだよ」
「うーん……それなら、また今度一緒にお出かけして」
「そんなことでいいのか?」
「うん! それがいい!」
「そういうことなら」
「やったぁ!」
そう言って彩花は小さく飛び跳ねてニコニコとしている。俺と出かけるのがそんなに嬉しいのだろうか? 俺自身にはそんな価値はないと思うが、彩花が嬉しそうにしているならそれでいいか。それに、今日彩花にしてもらったことに対する対価には安いものだ。
「そう言えば、どうしても花見だったんだ?」
「それはねぇ……悠くんと久しぶりにいっぱいお話がしたかったから!」
「!?」
まさかそんな理由だったとは……。全く予想していなかった答えに俺は思わず面を食らってしまった。菜奈さんや楓だけじゃなくて彩花も3年前から変わっていないんだな。もしかしたら、彩花からしたら俺自身もそんなに変わっていないように見えているなかもしれない。景色だけじゃなくて人も3年くらいじゃ対して変わらないのかもしれない。そんな事を考えながらも俺は彩花と一緒に帰路に着くのだった。
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