二人の人魚姫(マーメイド)

空虚な骸

なくるとむつき

これはとある一夜の話。

一面の星が空に瞬く明るい夜だった。

星灯りに十全に照らし出された海際の崖の上。

そこに二人の少女は立っていた。


黒髪ロングに気の強そうな顔立ち、胸は控えめな女の子がなくる。

茶髪のショートボブに歳の割に幼い顔立ち、なくるの横に立つと更に際立つ巨乳を持つ女の子がむつき。

二人の少女の名前だ。


二人は暫く海を眺めていたが、少しすると口を開いた。


「本当にやるの?」

「やるよ。ううん、やるしかない。ここじゃ私達の気持ちは認めてもらえないんだから」


どこか不安げに問いかけるむつき、そしてそれになくるは一寸の迷いもなく応える。


「これが最後になるのだし恥ずかしがっても無駄よね。むつき、大好きよ。」

「わ、私もだよ。なくる」


二人は自然に抱き合う。

二人だけの空間で静かに抱き合っていると自然に思い出す。

これまでの私達の恋物語を。



最初の出会いは、何気ないことだった。

道端でばったり出会ってからそのまま成り行きで遊ぶようになって、そしてそのままごく自然に恋をした。

好きだと気づいてからは葛藤もあった。

どうしよう。引かれないかな。たくさん悩んだ。

たくさん悩んで、最後は打ち明けた。

彼女も自分が好きだと知った。

両思いになって付き合い始めた。

付き合ってからも私達は色々なことをした。

これまで通り遊んだり、二人でデートをしたり、果てには………キスをした。

幸せな時間。この時間を永遠にしたい。

私達がそう思うようになるのはごく自然なこと。

そうして私達はお互いの気持ちを皆に打ち明けた。

そして二人で暮らしたいとも言った。

けど、それは許されることではなかった。

ただの勘違いだとか思い込みだとか散々なことを言われた。

果てには女の仕事は子供を産むことなんだから、男と結婚しなさいとも言われた。

その日から、私達にお見合いや婚約の話が山程来るようになった。私達はその全てを断った。

私達は否応なしに理解させられた。

この村にいる限り、私達の望む未来は来ない。

私達はたくさん話し合った。そして決めた。

私達二人で永遠とわに一緒になろうと。

そうして、今日がその日。

二人で永遠とわに一緒になる日。



「そろそろ行こうか」

「うん。そうだね」

二人は抱き合ったまま、崖から身を投げた。




ドプン

夜の海はとても冷たかった。

冷たい海水の中で、お互いの温もりだけが温かい。

口から気泡と化した酸素が次々と明るい上空へと上がっていく。

それはまさしく、二人の命そのものだ。


二人は抱擁を解いて見つめ合うとニコッと笑った。

そして二人は唇を重ねた。

これが正真正銘の最後のキス。

いつまでも思い出に残るようにと、熱烈なキスを交わした。

ひたすらに。ひたすらに。

息が切れるまで。


口からゴボッと最後の気泡が零れる。

二人の命も零れる。

こうして、私達は永遠とわに一つになった。




その日から、この村では事あるごとにこのお話は語られることになる。

結婚する時、祭日の時、子供にお話をする時。

様々な場面で語られるこの話だが、そのお話の最後には必ずこう綴られている。


その日から時おり、海の中から歌が聴こえてくる。

美しい人魚達の二重奏デュエットが。

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二人の人魚姫(マーメイド) 空虚な骸 @Tamamama

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