第54話 鷺堂悠の1日!
お久しぶり!鷺堂家の次女にして、クソ兄の鷺堂悠の妹、鷺堂雪だ!
私らはいつも通りの日常を過ごしていたら、急にクソ兄貴が…
「雪よ…俺のワンディルーティンを紹介してくれないか?してくれないなら、俺は街中で全裸でブレイクダンスをする」
という謎の脅迫をしてきたので、大人しく恨みを込めて紹介していこうと思うよ!
♣︎
「イギヤァァァァァァァ!オンギアァァァァァァァァァァァァァァァッ!3.1415926535 89793238462643383279!オラァァァァ!」
こいつの朝は奇声から始まり、途中で謎の円周率を織り交ぜることから始まる。ちなみにこいつの記憶容量じゃ、5年経っても30桁が限界だったらしい。
「さて、今日は素晴らしい1日だな!こんな日は仕事なんてせずにぐーたらするのが1番だ!」
それはもはや1日を紹介する必要がないのでは?
「【感知】」
おっと、ベッドにダイブした状態で前回新しく獲得したスキルを使用したぞ…まぁ、どうせ感知で女冒険者の裸体でも見ようと意味のない挑戦をしてるんだろうけど…
「よし、今日は最近彼女に振られたジョンの愚痴を聞かなくて済む!あいつがこねぇうちにさっさと家を出よう!」
うん、誰だよジョン。あいつ、私が寝てる間に勝手に交友気づいてやがる…
『ていうかどうすんだよ。そのジョンとやらがお前を変な目で見てたら。私、男にそんな目で見られるのがマジで耐えられないんだが?』
いつも、このクソ兄貴そんな目で見られてたし…
「なに言ってんだ?ジョンは明らかな地雷臭のする立派な女の子だぞ?」
『ジョンって名前で?』
ていうかなんで地雷女と関わってんだよ…というよりなんで普通に百合なんだよ。この世界には同性愛者しかいないのか!
「てなわけで、ジョンが来る前に俺は逃げるぜぇ!」
あーもう勝手にしろクソ兄貴が。
♣︎
兄は、街の外れにある銭湯に佇み、プルプル震え出した。
「妹よ…今日こそは女風呂に入りたいっ!」
ダメに決まってんだろしばくぞ。
「あー聞こえるぞ!ナレーションでしばくぞぼけクソ兄貴が!って言ってる雪が!」
あーこいつほんまきもいわ…か弱い乙女の心読んでくるとか…あ?なんだクソ兄貴。その沈黙は…
「分かった。ケバケバで手を打とう!今日から俺はずっとケバケバを注文する。それで手を打とう!」
『断る死ねカス。ケバケバ1年分だけ残してさっさとくたばれ』
「ちくしょう現金な妹が!できればもっと強い言葉で罵倒してくれ!」
異世界転生TSの闇。女風呂にいる女の子は自分が覗かれたことすら気づけない。そんな一般男性でも重罪死刑なことなのに、この、シスコン変態変人穀潰しマゾニートのクソ兄貴が放たれてみろ。
次から出禁となり、なんか銭湯が爆発するだろう、そしてその支払いは私に回される。
それだけは避けなければならない!そしてこいつは殺す!
私が今にも暴走しそうな兄を必死に押さえつけ…くっ、こいつ地味に人格乗っ取りを抵抗してきやがった…!
「よ、よし…今日こそ女風呂を覗きに行くぞ…」
私がワンディルーティンなど忘れて、そんな暴走中の兄を押さえつけていると、ふと後方から震えた声が聞こえた。
鼓舞でもしてるのだろうか…バリバリ聞こえてるのだが…その邪な考えが…
見ると後方、太ってメガネをかけた、いかにもおっさんみたいな風貌をしたおっさんが銭湯を睨みつけていた。
なるほど…おっさん。死刑。
ギリギリと対抗する兄にさらなる負荷をかけて精神を乗っ取っておっさんを殴りに行こうとする私に、クソ兄貴は言った。
「待って!俺がちゃんとおっさんに言うから!俺今女だから、ちゃんと言えば引き返すはずだから!あと普通にこれ抵抗の普通に辛い!」
『うるせぇ!さっさとよこしやがれ!お前は覗きを助長させそうだ!私のドラゴンストリーム・バックドロップ・正拳突き確定コンボでとどめをさしてやる!』
「なんだその格ゲーの最難度コンボみたいな技は!あと覗きを助長したら俺まで出禁にされちまうだろうが!」
………それもそうか。確かに覗きを助長させるような行為はバレたらこいつまで女風呂出禁にさせられそうだ。
それなら…別に問題ない…かなぁ?
私は意識を乗っ取ることをやめ、そこの処理は兄貴に任せることにした。
「で…でも怖い…もしバレたら…殴り殺される…!」
殴り殺されたくなかったら早く帰れクソが…
「おっさん」
「ひっ!?」
普段全く凄みのない兄貴が妹譲りのドスの効いた声で喋ると、おっさんが慌ててのけぞった。
「おっさん…お前覗きにきてんのか…」
「ヒイッ!許してください!」
「馬鹿野郎!お前、覗きに来て、殴り殺されるって日和ってんのかオラァァァァ!」
うん?は?おん?
「お前、覗きに来た男だろ!覗きに来て殴り殺される心配なんて…逆にそれはご褒美だろ!」
………ダメだこいつ…早くどうにかしないと…とりあえずこいつに入れる風呂は塩酸にしようと思う。
「何言ってるんだ…こいつ…お前女だろ…?なんでんなこと…」
「ふざけんな!俺は女風呂に入ろうとすると強制的に自宅にリスポーンする呪いがかけられてんだぞクソガァ!そんなお前はなんだ!何にも止められない、お前はそんなことで震えてる奴が最初から覗きなんてしようとするんじゃねぇ!覗けるやつは…痛みを快楽に変えられやつだけだ!」
クソのゴミ兄貴の熱弁に、おっさんは困惑したように目を泳がせた。
「……あ、ありがとう!お陰で目が覚めたよ。そうだ。僕は本来罵倒されて喜ぶはずだったよ!ありがとう!君のおかげで罵倒される気持ちよさを思い出したよ!」
………
「ちょ、待て!雪!ごめんごめん!壁に頭突っ込もうしないで…」
もう、おっさんは…どうでもいい…こいつだけは、こいつだけは…ここで殺す!
「あ…おっさん…いや、同士!健闘を祈る!」
「あ…油断した…」
オラァァァァッッッ!
私が本気で打ちつけた壁は、亀裂が走り、結局その支払いは私らに回ってくるのでした…
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