第26話 おまえかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!

豪華な食事(注文にあったケバケバは置いておいて)を堪能した俺たちは夏の暑さを避けながら庭のベンチに腰掛けた。


『雪!次は屋上に行こうぜ!ケバケバをこの世から無くしてくださいって叫ぶんだ!』


「やめろ。てか、最初にお前が食おうって提案したんだろうが」


はて、そうだっただろうか?俺の記憶では「うまそうな匂いがするピギー!」と、頭でも狂ったかのように走っていった記憶があるのだが…


「おい誰だそいつ。そんな豚みたいな声は生まれてこの方1度も出したことないわ!」


相変わらず心を読むのはやめてくれないか…我が妹よ…


というわけで話は変わって、何故俺たちが庭で独り言に見える痴話喧嘩を成立させているかというと…


「あの生徒会長…ここがわかっているのかな…」


そう、嬉々として案内をすると発言したはずの生徒会長が迷子になった。


言っておくが、俺たちが迷子になったわけではない。クラウスさんが彼女に電話?魔話している間に人波に揉まれてはぐれた。よってこれは完全に生徒会長側に非があるということで、俺たちは優雅に庭で休んでいるというわけである。


実際彼女には、《スキルすまーとふぉん(仮)》があるので位置は聞けばわかるだろう。


《イアさーん!どこにいってたんだい!探したんですよっ!?》


「いやテメェが迷子になったんだろ」


理不尽な怒鳴り声に素が出てしまう雪。ここは俺がフォローしなければ…


「いやテメェが迷子になったんだろ!」


《なんで2回言ったの!?》


実際は2回言ったのではなく、2人で言ったのだが、そんなことは伝わることはなく。


《と、とにかくこちらに来てください!》


「ほう…迷子になっておいてずいぶんといいご身分じゃあないか…お前の彼女に不倫してるって言いふらしてやる」


《なんでもしますのでそれだけは勘弁してください!》


半分は貴族で彼女持ちというただの私怨だが…


リア充爆破しろ!


         ♣︎


「お、お待ちしておりました…イアさん…というわけで、彼女には最近満足できなくてエイルさんの元で官能小説を買っているのは黙っていてください…私が殺されちゃいます」


さすが、汚職生徒会長のプライドをかなぐり捨てた貴族。庶民に頭を下げるのに一歳の躊躇いがない。


一般庶民に貴族が土下座を通り過ぎた究極奥義土下寝を披露している姿はなんとも滑稽に見える。


「スヤァ……」


うん、なんだこいつ。学校内しか出番のない脇役のくせに、やたらと目立つぞ…


どんどん2つ名が量産されていくのだが…


「さて、気を取り直して、この廊下の先に博士がいる地下室があるんですけど…」


「癇癪を起こしているのでなんとか宥めてもらいませんか?」


         ♣︎


何故俺たちがそんなことをせねばならぬのか…何故客人に頼むのか。そもそも何故ここは百合しかいないのか、そんな雪の尋問を経て、結局、その博士とやらに会いにいくことになった。


「博士は、研究をしてると、突然癇癪を起こして何かやらかすのですが、部屋に入ろうにも、研究材料が怖くて入らないんですよ…」


こいつ…何故ここでか弱い設定を出してくるのか…


「だって、生首だけの猫とか…人面魚犬とか、グレイゴースト犬がいるんですよ?怖すぎますよ…」


ん?なんだそのクリーチャー…どこかで見たことも聞いたこともあるようなやつな気がするんだが…


「おいちょっと待て、今なんて?」


「博士は、キメラの制作実験をしていて、たまに博士の癇癪と共に逃げ出すことがあるんですよ?その時は、貴族の権限でキメラ討伐のクエストを公然に出して阻止していますが…」


クラウスの言葉に、手に血管が浮かび上がり、静かに怒りの炎を燃やす雪がぽつり。


「よし、ちょっと博士の元へ案内しろ。お前も後でぶん殴るから」


「何故!?」


          ♣︎


…着いたのは禍々しく、一際怪しい雰囲気を感じさせる1つの部屋だった。


重々しい鉄製のドアがそう思わせているのかもしれない。


「博士ー!入りますよー!」


その博士とやらはいい身分なのか、いつものタメ口を外している。そして、ドアを開けた。


「なぁ、聞いてくれよクラウス…最近さ…また実験が…」


呟く博士とやらは、仄暗い部屋の椅子に腰掛けている。その資料の転がり方は、片付け苦手な俺でも「うわぁ」と思うほどだ。


しかもゲージには、お気持ちのお悪い生物。


しかし、そんなの雪は見ていない。ましてや聞いてもいない。


「クラウ————」


「おまえかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!キメラ騒動の犯人は!」


え!?何事!?


思い切りぶん殴られた博士がそんな顔をしたのはいうまでもない。


































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