第25話 生徒会長…?
「さて、ご案内します!」
長い間推しへの想いを語る汚職生徒会長、クラウスさんは眼鏡をくいっと上げて愛想良く微笑んだ。
「ああ、後、できるだけ私の背中に隠れて移動してください」
校門を軽く開けると、俺に丁寧に向き直って、注意喚起してくれる。
「まぁ、私たちは侵入という立場だからな…」
「あ、いえ。学院内に潜む女に飢えている女がいるので、近づくと無理矢理犯されますよ?」
「『……………………』」
なんだろう…男の誰しもが憧れる女子校への潜入というのに、小さな檻に何匹ものライオンが入れられているような感覚は…
『まままままままぁ?ここにいる人たち全員将来有望な?貴族たちなんだし?流石に?』
「雪よ。貴族でも、仏さんじゃなきゃ煩悩には逆らえないのだよ…」
『いやに説得力があること言うのやめてもらっていい!?』
「何言っているんですか?」
「ああ?え?なんでもないですよ〜?」
♣︎
結果、雪によって強制的に入れ替えられた。
理由は、お前は誘われたらホイホイ着いてきそうとの事。
全く…自分の兄がよっぽど信じられないとのこととは…————全くもって事実なので何も言い返せないっ!
ともあれ、どこからどう見ても豪華だ。学院というより、洋館のような印象。
雪はクラウスさんの後ろで縮こまっている。彼女が割と長身ということもあって、その姿は完璧に隠せているのだが…この人が鼻息を荒くしているのは言わないほうがいいのだろうか…
「フンッ!」
と、何故か唐突に雪は床を拳で叩いた。
「ちょ?何やってるんですか?」
「いや、いざという時に脱出するためにって…硬いな…」
相当襲われるのがいやなのか、急に変な思考になっているようだ。ここは元気付けてあげなければ…
『大丈夫だ!襲われても多分妊娠はしないから!』
「黙れクソ兄貴」
そんな軽いジャブのような会話も、クラウスさんには聴こえるわけもなく、首をかしげた。
「その床は人力じゃ壊せませんよ。なにせただでさえ頑丈な作りの上に、衝撃を分散する鉱石、《ビープ》が使われています。この学校じゃ、教授が頻繁に壁や天井、床に当たるから…」
まさかの教授までもが頭がおかしかったパターン!
「あ、生徒会長」
「!?」
さっきの話を聞いたからなのか、一度誰かが声をあげれば過剰に反応を示す雪が可愛い。
無理もないだろう。これでナンパ9人目。この人も来るなら10人の大台突破である。
「ここなんですけど…」
「あーこれはこうして…」
既にろくでなし臭がする生徒会長も、ここでは真面目に生徒会長している気がする。
やがてその生徒は、立ち去り雪は安堵の息を漏らした。
「後は…地下室に閉じこもっている博士とかはたまに床を壊したりしてますね。なんでも実感するものがないとか、ストレス溜まっているとか…」
「確かに…妙に殴り心地がいいんだよな…」
なるほど…生徒、職員、その博士のストレスは全て床にいくようだ。ってどんな学校だよっ!
♣︎
目の前のでかい扉。
木製で作られた洋物のおしゃれな扉
キワモノたちが集う学院内を散策し続けていると、クラウスさんが何やら石板のようなものを取り出した。
「さて、ここが食堂ですよ。《へい!いつものをよろしく頼むよ!》」
クラウスさんは石板に話しかけた。
形状は、スマホにちょっと似ている。裏に紋章が刻まれ、彼女が石板に話している間は青く光っている。
「さて、ここはお待ちかね、食堂だよ。ちなみに言っておく。私から離れないでね。食堂は戦争だ。いつセクハラされるかわからない、防衛戦。絶対に離れないでね」
何故か急に馴れ馴れしい言葉になったクラウスさんが深刻そうな顔で食堂の扉を開ける。
食堂が男女共用の電車みたいになっていることはとりあえず置いておくとしよう。
数分後…
「暑っ!蒸し風呂じゃねえか!これ生徒会長権限でどうにかなんないですか!?」
そう、俺たちは人波にもみくちゃにされていた。
「ふっ、無理だよ…私の権限なんて教員の間でしか働かない。無法者の集まりさ。彼女がいるというのに、いまだに尻を触られる」
「『………』」
貴族たちが全員百合というちょっと男子にとっては嬉しい展開でこれほどまでにもみくちゃにされるというのに、男子校に行ったら…俺たちはどうなってしまうのだろうか?
そのまたさらに数分後…
「よ、ようやく席に座れた…!」
ようやく食堂に座ることができた雪は、ドベーっと突っ伏す。
『でも、ここから注文とりに行かないといけないんだよなー』
「それを言うんじゃねぇぇぇぇぇぇ!」
「《へい!料理を頼むよ!いつものでね!》」
『会長何やってんだ?』
席に座るなり、まず眼鏡を持ち上げながら先程の石板に叫ぶクラウスさん。
「これ?これは私のユニークスキル、《すまーとふぉん(仮)》さ!この学院の魔力をこの石板を通して1部ジャックすることで、相手と通話ができる。生徒会長権限で直接注文は取らなくてもいいのさ!」
ほんとにこの人、権限とスキルの無駄遣いがすごいな。
「カ…カイチョウぅぅぅぅ……」
ちょ、待ってイアさん!私は彼女がいるんだ!常に1分に1回は通話して、監視してるんだからそんなに引っ付かないでおくれよ…」
ほんとに…無駄遣いが、すごいな…
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