第8話 モデルは私じゃダメなんです!

前回のあらすじ 俺のパーティメンバーに官能小説作家が来た。以上!


          ♣︎


「さて、さて新しいパーティが増えたことだし、クエストの攻略でもしますかね…」


『不安だ…』


雪がこう言うのも、理由がある。


それは…


「クエストですか?それなら、ちょうどいいのを探してきますよ!」


我がパーティを献身的に支える我がパーティの新メンバー、エイルの存在である。


疑り深い我が妹は、人間的な部分が欠落しているのか、自分に優しくする奴を全て敵だと思い込んでしまっているようだ。やれやれ、可哀想な妹よ…


『おい、誰が、疑り深い天邪鬼だ!違えよ。あいつの中身がど変態なのが原因なんだ!』


「妹よ…いい加減人の心を読むのはやめてくれないか…」


全くどうなっているのか…まぁそれほど妹と俺の心は深く通じ合ってるというわけなのだろう。かわいいものだ。


『残念だけどその通りかもなぁ、おい!……オロロロロロロロロロロ………』


「おいなんだよ!その反応!精神世界でゲロ吐くな!これ以上吐いたらもう変わってやんねぇぞ!?」


実際精神で吐かれたゲロはどうなるのだろうか。俺が掃除をしなければならないのだろうか…いや、これが妹のゲロであるなら…


「おい、そこのゲロ掃除すんなよ。俺が帰ったら舐めて掃除するんだ」


『オロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ!』


「あの、さっきから何1人で喋ってるんですか?」


ギルドからちょっと外に出た広場で、俺と雪が互いに罵り合っていると、エイルは面白いものを見るかのような表情で話しかけてきた。


見ると、彼女はノートを持っている。


「ああ、これですか?これは、街中で面白いネタが見つかれば、すぐに書き留めて置けるようにと…思って…」


エイルはノートをパタンと閉じ、恥ずかしそうに赤面した。


「いや、……でかいなって…」


ただ残念。俺が見ていたのは、エイルのでかいおっぱい。残念ながら、胸元で隠していたノートが透けているように見えていて、最初から視界に入っていなかった。


『なんだその能力…最低だよ』


「そ、そうですか……」


エイルは若干戸惑ったかのように言う。


……ん?ちょっと待てよ?


「ちょっと待って…」


俺は、エイルからちょっと距離をとり…


「おい、妹よ…俺は大変重大なことに気づいてしまった」


『…なんだよ……』


「この体ならどれだけおっぱいを見ても、どんだけ揉んでも、カップ数を聞いたとしてもセクハラにならない!」


俺は小声で叫んだ。


ああ…なんと素晴らしき世界か…心は男でありながら、体が女の子だから、どんなことをやってもセクハラとは言えない。


そう!俺は合法的に合法的なセクハラができるようになったのである!


…なるほど、K けいさつの目を気にせずセクハラをするには、性別そのものをクラスチェンジすれば良かったのだな…


『そんなことがまかり通ってたまるか!よこせ!主導権を私によこせ!私がお前にと言うものがどう言うものが教えてやる!』


こいつ何言ってんだ…

馬鹿のことを言ったら赤面一つせず、無言ノータイム、ストレートパンチを打ち込んでくる奴を、清純派ヒロインだとは死んでも思いたくはない。


『おいなんだ。その間は!止めろ!確かに大人しくはないけど!そこは謝るからなんか喋れ!』


          ♣︎


「そういえば、エイルって小説のモデルってどうやって決めてるの?やっぱ自分に似せたキャラとかも作ってんの?」


結局、主導権を渡さなかった俺に、雪は歯軋りしながら、変な質問をするたびに罵倒してくる。俺にとっては、彼女の罵倒は、心地の良い小鳥の囀りほどにしか聞こえないが…


「いえ!私は絶対にモデルに自分は使いません!私の美学に反するんです!」


俺と雪の官能小説を書いてもらおうと、掴みを入れるつもりだったのだが、何故か彼女は、モデルを誰にするかと言う話で白熱してしまった。


……しかも、街中で……


恥ずかしくないのかなぁ…


『マジで恥ずかしくないのかな…この人…』


おい、そう言うことを言うのはやめて差し上げろ!


「と言うわけでですね?私は百合でも、BLでも純愛もなんでもいいわけなんですけどね?どちらかと言いますと…え、SMプレイとかは、私の背徳感を増幅させてくれるわけで…」


…どうしよう。この子の知りたくないような性癖がどんどん暴かれていく。


「そうですね…やはり最近は……」


「……おい、雪、どうするよ。この子が止まんなくなってるよ…俺はもう満足だよ。一生分の人の性癖を聞いた気がする。例え美少女でも、なんかもういいやって気分なんだが…」


未だ自分の世界に入り浸って、恍惚とした顔で、周りの注目を浴びながら自身の性癖を語り尽くす彼女をそっちのけで俺はげんなりした様子で言った。


『知るか、テメェが蒔いた種は自分でなんとかしろ』


答えはある程度予想されていたものであった。


そこから語られ尽くすエイルの熱は一切冷めることはなく、代わりに周りの空気をガンガンに冷やし、数時間の時を経て、解放されたのであった。


          ♣︎


「さ、さて…エイル君。そろそろクエストに行かないか?」


「…そ、そうですねっ!」


俺たちは若干気まずい雰囲気でギルドまで逆戻りしていた。


ちなみに、彼女は息継ぎをした瞬間に、途端に冷静になり、顔を赤くし始め、そこからこのような空気が流れている。


「なぁ、雪、俺は改めて知ったことがあるよ」


『…何だ?』


「何事も調子に乗らない方がいいって」


『うむ、それに気づけただけでも進歩だ』


返って雪は、延々と聞かされた俺に同情の念を抱き、ちょっと優しい。惚れてしまいそうだ…


『オロロロロロロロロロロロロロ…』


おいだから何で吐くんだよ。そして何で俺が思ったことが分かるんだよ…


「そ、そういえば!私の仕事について話していませんでしたね!」


独り言を言い出したのを、気まずすぎて頭が狂ったのかと思ったのか、エイルが唐突に話しかけてくる。


「わ、私のユニークスキルは、《図鑑》。スキルとセットになっている本で、その人の特徴がまとめられるんです。あと、今思っていることとかも…よくこれで…小説のネタに…グヘヘ…」


おい、地が出てるぞ…


というより、やはり情報収集系…


ちなみに、スキルというのは、ゲームのいわゆるなあの能力のことである。その中でも『ユニーク』と名のつくものは、希少価値が高いそう。


そして、エイルは一冊の厚みのある本を取り出して、俺にその中を見せた。


「と言うわけで、イアさんも図鑑で見ますね!え〜い」


本の白紙の部分に、魔法陣が浮かび、その中にどんどんと内容がかく綴られていく。


俺も、その本を覗き込んだ。


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ユウキ・イア


年齢 16歳 性別 女


若干セクハラめいた口調が目立つが、本人にそのようなことを決行する度胸はない。

ちなみに彼女は、同性愛者。


かなり暴力的な思考も持ち合わせている…


取得スキル 《ユニークスキル》《スキル習得率、2倍》


今の心情

『妹に殴られたい』

_________________________________________


俺の今の心情。この本を燃やしてやりたい。


いや、語弊を招くような言い方をするな!ちゃんと中身は男ということを書け!同性愛者でまとめるな!


あとなんだよ、スキル、習得率2倍って…


完全にゲーム周回で使われるスキルじゃねぇか!!





























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