冒険者の話

第7話 うちのパーティメンバーがど変態なんだが…

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぃぁぁがぁぁ!」


推定 朝7時代にて、宿屋に盛大な掛け声と共に、俺ことユウキ・イアは全裸で目を覚ます。


ラジオ体操を終えて俺は第2の人格である雪に声をかけた…


「さてさて、今日という朝を最高の形で迎えられたわけだが…」


『なんか、もう帰りたくなってきた』


宿屋でダイナミックに飛び起きた俺はそんな同調を誘うような掛け声を繰り出すが、対する雪は非常に疲れた声で言った。


はて…どうしたと言うのだろう…俺が昨日全裸で寝たのが何か関係があるのだろうか?


そんなことを呑気に考えながら、俺は脱ぎ捨てた服をとりあえず仕方なく、不本意ながら着用する。


だが、女性モノの服はとにかく着づらかったので雪に変わってもらった挙句、主導権をついでに奪われた。

やっぱり最悪な朝である。


「さて、とりあえず朝食でも食べるとしよう。仕事を探すのはその日で構わないだろう」


『そうだな。俺にも飯は食わせろよ?』


その辺で買ったありふれた革の財布を持ちながら、転生特典でついてきたワンピースを身に纏って俺たちは飲食店へとくり出した!


         ♣︎


『雪よ…俺が言うのもなんだが、そのケバケバ・モグリア・アッ・ナッコフィッチ…どんだけハマったんだよ…』


悲報、雪がゲデモノ料理にハマってしまう。


朝飯にゲデモノを食わされて、腹の調子が若干悪い俺は、雪に心の中で怨嗟の視線を送った。


現在、街のある1本道。冒険者ギルドに続く道を歩いていた。理由は単純明快。親も生活保護もない世界で俺は生まれて初めてニートを脱却するのだ。


長らく続いたニート生活に、嬉しさを感じながら、どこか寂しい気持ちを抱えて、ギルドに向かう。


木造2階の西洋風の洋館のような趣深い門構にぞろぞろ人が入っていく姿に、思わずたじろぐ。


ちなみに、雪は眠いからと言って俺に主導権を譲ってくれた。


冒険者ギルド。その中は、俗に言う冒険者がたむろしており、受付嬢も、冒険者も活気に満ち溢れていた。


パーティメンバーを募集している者。椅子に座り込み、談笑に興じている者。ボードを見て悩み込むパーティ。それは学校の教室を思い出させる光景が広がっていた。


「お客様ー!ライセンス発行の手続きはこちらでございます!」


「あ、はーい!」


俺は受付嬢の声の元、冒険者ライセンスの発行をしてもらった。


数分後…


「それでは、イア様。これからも、よろしくお願いします。あちらがクエストボードであちらの張り紙を剥がしてカウンターに提出してください」


猿ほどの脳でもできる簡単な試験を終えて、眠くなる説明を経て、ついに俺は職業を手に入れた。


『まぁ、とりあえずおめでとう。初就職。お祝いはしたやんねぇが…』


「んじゃ、雪の初就職を記念してお祝いをするか!」


『いや、私はバイトしてたから働いてはいたよ』


チッ…!節約節約うるさい雪の目をかい潜れるかと思ったのに…!


そんな俺たちの静かなる心理戦は、俺の惨敗という形で終結し、しょげている俺は改めて、ギルド内の様子を見渡した。


……あっ…


ギルドの冒険者と、受付嬢たちは、いきなり独り言を話し始めた俺たちに疑いの眼差しを向けていた____


そんなわけで、俺の些細なミスのせいで、高校生になった自己紹介で盛大にやらかしたような空気になったのは、言うまでもない。


         ♣︎


「あのー!サポーターはいりませんかー!?自分で言うのもなんですが、優秀なサポーターですよー!」


変な空気になったのを持ち前のユーモアで立て直し、そこらで仲良くなった女の子をナンパしていた頃…


常に、募集の声が轟くギルドに一際大きな声が響く。


そちらに視線を向けると、1人の少女が手を拡声器状にして叫んでいた。

だが、その子の叫びとは裏腹に、たむろしている冒険者は目を逸らしていた。


『……一体なんなんだろうな…アレ。私、ああいうのは許せねぇ…無視なんてせこいことやってるやつは許せねぇよ。おい、お前あの子もナンパしてこい』


その様子に意外にも怒りをあらわにする雪。まぁ、俺もメンバーは欲しいからちょっくらナンパしてくるか…


俺は、募集をしている女の子に近寄った。


「おーい、そこの君ー!」


俺がその子を呼びかけると、まるでその子は尻尾でも振るように…いや、ようにじゃない。尻尾があるわ…犬耳も…これは俗に言う…


「コスプレイヤーってやつだな」『亜人ってやつだな』


「いえ、コスプレイヤーじゃありませんよ!?」


おっと違ったようだ。


「それより、メンバー募集してなかった?俺とパーティ組まない?」


少女は一瞬「俺?」と首を傾げたが、すぐになんでもないように立ち直った。


彼女は「はい!」と頷き、俺はその子をテーブルに座らせて、軽い自己紹介をした。


彼女の名は、エイル・プラティ。

もっとも特徴のある、犬耳と尻尾は置いておいて…

桃色のセミロングの髪に、肉付きのいい、17歳くらいの女の子。屈託のない、微笑みを返す、可憐な女の子である。赤い、燃えるような瞳がやけに特徴的で、それは本当に何かに熱中しているようなそんな目。


彼女のゲームで言うところのジョブはサポーター。味方にバフをかけたり、指示をしたりと地味だが、パーティには欠かせない存在である。


「改めて、ユウキ・イアさん!こんな私をパーティに入れてくださってありがとうございます!」


だが…そんな彼女は、パーティをクビになって、新しいメンバーを募集していたのだと聞く。


「あ、ああ、よろしく。単刀直入に聞くけど、なんでパーティをクビになったの?」


『もうちょっとオブラートに包めよお前…』


脈絡も、デリカシーもドブに捨ててきたような男である俺は気遣いの欠片もなくそんなことを聞いた。


それを聞いたエイルは、顔を真っ赤にした。


その表情を見て、俺は焦った。


まさか…ほんとに聞いちゃいけない内容だったか…!?


「…………………………………実は…パーティ内で仲の悪い人たちを勝手にカップリングして…官能小説を書いているのがバレてクビになりました………」


「『…………………………』」


耳まで赤くして、恥じるエイルに、唾を飲み込む俺。そして、黙り込んでしまった雪…


「ち、ちなみにどんな小説を……」


エイルは無言でバッグから「18禁」と書かれた一冊の本を取り出し…俺に見せた。


《________☆自☆主☆規☆制☆_________

________________________________________________________》


………やばかった。控えめに言ってやばかった。何がやばかったのかを語るとこの小説が消される可能性があるので言わないがとにかくやばかった。


俺はとりあえず、エイルに手を差し出すと…


「エイル・プラティさん。ようこそ、俺たちのパーティへ。歓迎するよ…これと言ってはなんだけど…官能小説を俺に売ってくれないかな?」


『正気か!?こいつ、想像を超えたヤバいやつだぞ!』


いいんだ。正直言って、彼女が冒険面で全く役に立たなくても…それだけで、それだけでいてくれるだけでありがたい存在になったから………


そう。これは、である____


「はい!冒険でも、あっち側の方でも、精一杯頑張ります!」







































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