マイ・ベア

ふんわりと、目が覚めた。

しかし寝汗が酷かった。最近暖かくなって来た上にうつ伏せだったからだろう。

そろそろ毛布をタオルケットに変えどきだ。


見慣れぬ天井が視界に入り、私は跳び起きた。

寝起きのほうけを振り払うように辺りを見渡す。

お洋服と勉強机とぬいぐるみさんたち。

なぁんだ、びっくりしたぁ。そこはあたしの部屋だった。


枕元からお気に入りのクマのぬいぐるみを手元に引き寄せ抱きしめた。

ついこないだのクリスマスに、新しいキャラクターが発表されたとかなんかで、父に強請ねだって買い与えられたものだ。

彼のおうちのダッフルバッグから半身を覗かせて首を傾げている姿はとても愛らしい。

その匂いは、まだ知らない何処かで嗅いだ、とても心安らぐものだった。


ぬいぐるみはたくさんある。

姿すがたかたちの様々な愛嬌たちが、思い思いの姿勢で寝転がっている。

知らない子もいたけれど、私は気にせず身を預けた。


息がしづらい。

わたしは水面を目指して搔き分け泳ぐ。

閉じかけた瞼でベッドから這い擦り落ちた私は、着ぐるみ程に大きくなった、お気に入りのクマのぬいぐるみが、子ども部屋から元気に飛び出すのを見た。


いけない、彼を追いかけなくては。

濡れてまつわる服を脱ぎ捨て、私はもう、裸足で追いかけた。

崩れ行く、マンションの廊下を只管ひたすらに、私を彼に届けんと走った。


最奥の階段に差し掛かる手前、クマの手を取り抱きしめた。

そして私達は宙に舞う。

崩壊の音色を背中に聞いて。

遠のいていく。



はっとして、目が覚めた。

少しだけ、寒い。

隣に寝ている彼の背中を抱き寄せた。

ふわりと煙草の匂いがして、苦手な私は顔をしかめた。

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