第5話

翌日ルシエルとシモンは森の中にいた。

この森はトリスタン王国では禁断の森とよばれており、王城の裏手にあり、厳重に管理されていた。

いかなる者も立入りが禁じられている森で入ったことが分かればその者が例え王族だとしても処罰の対処となってしまう。

そんな森の中をルシエルとシモンは散歩するがごとく歩いていた。


「ここはいつ来ても空気が澄んでるな〜」

「そうですね、城なんかより居心地もいいですから」

「全くだ、毎日、いやいっその事ここに住みたいぐらいだ」

「ええ、同感です」 


ルシエルとシモンは楽しげに会話をしながら歩いていく、誰かに見つかる心配などしていないかのように、いや、現にルシエルとシモンは心配などしていないのだ。何故なら


「相変わらずシモンの魔法は便利だな」

「お役に立てて嬉しい限りです。昔はこの闇魔法のせいでいろんな苦労をし、この力を授けた神を呪いましたが今では殿下の為この力があることを誇りに神に心から感謝したい思いです。」


そう、現在二人はシモンの闇魔法、《闇衣ヤミコロモ》を纏っていた。この魔法は他者の認識をずらす効力がありこの森を警備している兵士達には二人の存在は見えていない。


「お前がランスロット側に行かなかったことが俺にとって最高の幸運だったのかもな」

「殿下…勿体なきお言葉を…あ、ありがとうございます!!」


ルシエルの言葉にシモンは感涙を流す。


この世界には魔法があり魔法にはそれぞれ火・水・風・土・雷・光・闇の7つの属性が存在する。中でも光と闇は他の5つよりも持っている者が希少であり、その希少性から様々な物語で使われている。その全てが光属性を持っている者が悪事を働く闇属性を持っている者を討ち滅ぼす内容である。

その為かいつからか、闇属性を持つ者は忌み嫌われ迫害の対象になっていった。

幼い頃のシモンもその迫害の対象にされ、酷い扱いを受けていたが今ではルシエルの横でニコニコオロオロしたりと楽しい生活を送っていた。


二人は会話をしながら歩いているとやがて真っ白な建物が見えてきた。それは神殿のような作りをしており、長い年月を感じさせる傷や汚れはあるが、醸し出す存在感はルシエルが住む王城を圧倒するほどだった。

そんな神殿の中にルシエルとシモンは慣れた様子で入っていく。

そして最奥の扉を開け、


「久しぶり」

「失礼します」


それぞれ声を上げながら入っていった。


☆☆☆


ルシエルとシモンが禁断の森の中を散歩している中、王城の一つの部屋である会議が開かれていた。

円卓状の机にはそれぞれトリスタン王国の重鎮、騎士団長、魔法師団長、宰相の姿があった。そして一番の上位者が座る席にはこの国の国王ジルベール・トリスタンが座り、隣には王妃のルシル・トリスタンが笑みを浮かべていた。

ジルベールは向かいに立つ息子、ランスロット・トリスタンに言葉を発した。


「してランスロットよ、カロリーナ・バアル公爵令嬢から色よい返事をもらえたのだな?」

「はい、父上、カロリーナは私の求婚を受けてくれました。」

「それはよかったな」

「ランスロットおめでとうございます」

「父上、母上、ありがとうございます」


ランスロットは心からの笑みを浮かべてから頭を下げた。

ジルベールは満足げに頷いた後深く息を吐いた。


「カロリーナ嬢がランスロットを選んだのはよかったな、これで心置きなくルシエルを廃嫡できよう」

「ええ、我が息子ながらあのような欠陥品に王は務まりませんもの、私もこれで安心できます。」

「うむ、欠陥品を王とするわけにはいかいかぬ、やはり余の次の王は武勇に優れたランスロット以外あり得ぬ」

「ええ、その通りですわ」


ジルベールとルシルは互いに笑みを浮かべ満足げに頷く

そこで宰相が口を開いた


「部下からの報告ですが、本日ルシエル殿下は公務をサボりあの平民と行方を眩ませたとか…全く、執務が滞るばかりではないか、ランスロット殿下は指定した期日よりも早く完璧にすませ他所をフォローするだけの度量があるのに兄がこれでは…」


宰相の言葉を聞いて真っ先に反応したのは騎士団長だった。


「全く困った者ですな、午後からは剣の訓練があったものを、まぁ、来たとしてもランスロット殿下と違いルシエル殿下の剣の腕は下級騎士と同程度、私が見るまでもない、逆に面倒な雑務が消え喜ぶべきですかな?」


騎士団長の次に魔法師団長も続く


「同感、魔法においてもランスロット殿下とは雲泥の差、やっても無意味、」


宰相、騎士団長、魔法師団長の言葉を聞き国王ジルベールは頷くと


「うむ、皆の意見は理解している。余も日に日に説教し、あれを焚き付けているのだが一向に改善せなんだ、そこでやはり当初の予定通りあれを罪に問い、婚約破棄と同時に廃嫡し幽閉、並びランスロットを王太子にしカロリーナ・バアル公爵令嬢と婚約させる。貴族派閥筆頭のバアル公爵令嬢と婚約させる事でルシエルでしようとした貴族派閥との融和処置もでき、今まで王妃教育を受けてきたカロリーナ嬢であれば改めて教育をする必要がなくコストもかからない一石二鳥であるな、皆異論はないな?」

「「「陛下の御心のままに!!」」」


こうしてルシエル廃嫡の計画はどんどん進められていった。

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