第2話 ルードとわらび餅
街の片隅にある屋敷。その応接間でマレトとルード、ピンスの三人が話し合っていた。
オリーブ色の髪を方まで伸ばしたマレトは、そのローテンションな雰囲気と声色が整った容姿と合わさって独特の印象を与える。
「残念ですが、街を管理する立場としては許可できません」
マレトは独特のローテンションな声で告げた。
イヌワラビネコをラコソカッドの街まで連れ帰った二人は街の管理者であるマレトに相談するが、その結果は芳しくないものだった。
見る人によっては気怠そうな印象さえ受けかねない彼女だが、街の管理者としては有能で責任感もある。
魔獣を街に連れ込むことを否認したのは、管理者として当然の判断だった。
しかしルードは納得できないようで、どうにか許可を貰おうと必死に説得を試みる。
「どうしてだ? ちゃんと毎日ご飯をあげるし忘れずに散歩へ連れていく。予防接種もさせて吠えないように躾けるし、お手とおかわりも覚えさせるぞ」
「ルード、捨て犬を飼うわけじゃないんだから……問題は他にあるよ」
ポイントのズレたルードの懇願も虚しくマレトは許可を出さない。
「まあ、必要ならワクチンは接種してもらいましょう。ですが、住民の安全を預かる身としては生態のわかっていない魔獣を街に入れるわけにはいかないんですよ」
マレトは街の管理者として譲らなかった。
ルードもマレトとは親しい仲だ。彼女の立場もわかるが、イヌワラビネコに情が移ったルードは必死にお願いした
だが、何度繰り返しても銀髪少女の願いは届かず、管理者からの返答は変わらない。
「どうしてもダメなんです。わかってください……」
普段は気だるげに感じるマレトの声に悲壮感が詰まっている。それを察したルードとピンスはこれ以上の説得を断念した。
ルードは失墜のまま街の外へと戻る。魔獣は街の中に入れることができないので、イヌワラビネコを街の外で待たせていたのだ。
ルードと離れているうちに魔獣が逃げ出して森に戻っていればそれでもよかったのかもしれない。しかし、イヌワラビネコはルードと別れた場所で待っており、彼女を見つけると近寄って嬉しそうに頬擦りを始めた。
「わらび餅、ごめんな。街には入れないんだ」
「名前、わらび餅にしたんだ」
悲しそうにわらび餅を抱きしめるルードはどうすればいいのか苦悩を続ける。
「少しその辺を歩いてくる」
そう言ってルードはピンスと別れ、わらび餅を連れてふらふらと歩き出す。
ルードの心境を思えば今の状態で出歩かせるのは心配だったが彼女の腕は確かだし、今の自分にできることはないとわかっているのでピンスもそのまま街に戻った。
ピンスは自宅に戻ると予定通りにルードの装備を改修する。
剣は彼女が持ち歩いているので弄ることができないが、預かっているマントや装備、幾つかの新しい道具の開発に取り掛かった。
ピンス自身、ルードとわらび餅のことが気になって仕事が手につかないかと懸念していたが、実際に作業を始めるとむしろ彼女たちのことを考えないようにと集中できた。
夜になる頃にはマントの改修が完了する。特殊な植物の染料を使うことで微弱な魔力を帯びるようになり、術式による魔力の小細工くらいなら受け流せるだろう。
調子が良いのかマントの他にも道具が完成していく。術式を施すことで魔力を不純物にくっつけて理力の層で水を濾過する装置や圧縮した水で射出するフックアンカーなどだ。
ルードは街にいるのだから、水を濾過する装置を携帯する必要もないし、そもそもフックアンカーがなければ行けない場所がこの街にはない。
そうわかっているのにピンスは作り続けた。なぜだか彼はそうしなければならない気がしたのだ。それも今すぐに。
夜更けまで作業を続けた彼がこの焦燥感の正体を知るのは翌朝のことだった。
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