134.魔導具の調査(1)

「ルルちゃん?」


 私とセレスが訪れたのは、砦にあるこじんまりとした資料室。

 そこで座っていたのはルルちゃんだった。騎士服に加えてローブを身にまとい、そして左目にはモノクルを装着している。いかにも魔法使いって感じの格好で、とても格好良いと思った。


「手伝いがあるって聞いたんだけど」

「ルーナさん、セレスさん、ちょうどいいところに来てくださいました!」


 今日は隊長さんの指示で、ルルちゃんの”作業”とやらを手伝うこととなっていた。詳しい内容は「行ってみれば分かる」と教えてくれなかったんだけど……これから一体何をするんだろう。


「星降祭のときに、お二人が持ち帰った魔導具を解析していたんです」

「これってただのアクセサリーじゃなかったんだね」


 ルルちゃんが持っていたのは、私たちがセレスの住処から持ち帰ってきたブローチだった。

 銀色の土台の上には、赤色のゴツゴツとした宝石が乗せられている。正直宝石のカットもかなり荒々しい、土台の部分もかなりくすんで黒っぽくなっている。言っちゃ悪いが、手作り感があるような見た目だ。

 だけどなんだか目を惹かれるような感じがして……不思議な気持ちになるんだよね。


 ただのガラクタだと思っていたけど……やっぱり実はすごいアイテムだったんだ。

 隊長さんに貸してほしいって言われてから、しばらく手渡してたんだけど(もちろんセレスの許可は取った)、それはこの調査のためだったんだね。


「この赤い石は、実は魔力を溜め込む性質があります。そして、この金属の部分には術式が刻まれていて、魔力を流すと何かしらの魔法を使うことができるんですよ」

「ほえ~……」


 ルルちゃんが指さした部分には、びっしりと細かい文字のような模様が彫り込まれていた。これがたぶん「術式」ってやつなのだろう。意味はぜーんぜん分からないけど。

 そして、この宝石が魔力を溜めておく部分。要は、電池に相当するパーツってことなのかな。


「……ですが、この術式があまりにも複雑に絡み合っているせいで、調べるのに苦戦していて」

「逆に、ルルちゃんってこういうの分かるの?」

「私、以前は研究者を目指していたんですよ。多少なら知識はありますよ」


 なんというか、「凄いんだね」としか言えなくなってしまったが、研究者を目指していたというのは初耳だ。ルルちゃんはエリートだって言われることがあまり好きじゃないみたいだけど、紛うことなきエリートだね!

 そこから、騎士という全く違う道を進もうだなんて、かなりの苦労があったのは想像に難くない。


「それで、私たちは何をすればいいの?」

「お二人に来ていただいたのは、他でもないこの魔道具の機能調査のためです。持ち主であるセレスさんがいれば、術式の手がかりが分かるんじゃないかと思いまして」


 セレスは隣でぼーっとしていた。確かに持ち主本人がこの場にいるのだから、彼女に尋ねればその使い方が判明するはずだ。そして、その聞き込み結果から逆算していけば、術式解析の手がかりにもなる。これで万事解決ってね!


 ……あれ、私いらなくない?


「私って……ただの付き添い?」

「いえいえ、安心してください。ルーナさんにもお願いしたいことがあるんですよ」


 私はほっと胸をなでおろす。お役御免でなくてよかった。


「実はこの魔導具、私だと瞬間的な魔力量が足りず、上手く検証することができないんですよ。それをルーナさんに手伝ってもらおうかと」

「ええっ! ルルちゃんでも無理なら、私にも無理だよ」

「ふふ、違いますよ」


 ルルちゃんは握っていたブローチを私に手渡した。


「ドラゴンが高い魔力量を持っていることは有名です。詳しく保有魔力量を調べたわけではありませんが……ルーナさんならこの魔導具を扱えるんじゃないかと思いまして」

「本当?」

「ええ。きっと、私たち人間なんかよりよっぽど強力ですよ。技術面もぐんぐん上達してますし」


 たしかに、魔道士たちが1日に数回程度しか撃てない威力の魔法を、私は何十回と使うことができる。もちろんセレスには到底及ばないけど、7班の魔道士たちに一目置かれるくらいには私も活躍できる。

 最近では人間には使えない禁断の回復魔法もちょっとだけ出来るようになったし……――あれっ、もしかして私って魔法の才能があるのでは?


「分かった、試していい!?」


 褒められて上機嫌になった私は、早速ブローチに向けて魔力を注ぎ込んでみた。魔法を使うのとは手順はほぼ同じ、体の魔力の流れを感じて集中させるだけだ。このくらいの魔力操作なら慣れたものだ。

 魔力が流れると、ブローチの赤い宝石はほんのり赤く光り始めた。今まさに魔力が溜まっているのだろう。

 脈動するように明減する宝石――その美しい輝きに見惚れていると、


「ああ、ダメです! 外に行きましょう!!

 例えばこれが炎の魔法だったりしたら、火事になっちゃいます」


 ルルちゃんは焦ったように私の腕を掴んだ。


 む、確かにそんな魔法だったら危険かも。

 そう思い、私は魔力の流れをストップさせた。赤い宝石もすぐにその輝きを失い、じんわりともとの明るさへと戻った。


 ふう、これで一安心だ。これで燃える心配もないはずだ。

 ……あれ、もしこれがヤバい魔法だったら、私が一番最初に怪我するのでは?


「えっと、燃えたら私はどうすればいいの……?」

「ふふふ、それは例えですよ! きっと大丈夫です、行きましょう」


 ……えっと、もしかして、私って実験台にされてる?

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